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在籍のまま週の一部だけ出向する兼務出向を可能にする契約書の例

出向元に身分は残したまま出向先とも雇用契約関係に入り、出向先の指揮命令下で就労し、労務管理も出向先が行うのが一般的な出向です。
では、出向元で週に3日、出向先では週に2日就労するような出向は通常の出向と何が違い何に注意する必要があるのでしょうか。

 

出向を直接定義した法律は、ない

 

出向に関して行政通達(昭和61年6月6日 基発333号)では、次のとおり説明されています。

 

出向とは、出向元と何らかの労働関係を保ちながら、出向先との間において新たな労働関係に基づき、相当期間継続的に勤務する形態であり、出向元との関係から在籍出向と移籍出向とに分類される。

 

出向元、出向先及び出向労働者間の取り決めによって定められた権限と責任に応じて出向元の使用者又は出向先の使用者が出向労働者について労働基準法等における使用者としての責任を負う。

 

通常多くの出向は、出向元を「休職」状態とし、もっぱら出向先のみで勤務するので、どちらの使用者が労基法上の責任を負うのかの問題はほとんど発生しません。

 

、部分的に並行して出向元でも勤務するような出向では、出向契約には使用者としての責務が出向元と出向先のどちらにあるのか整理しておくことが求められます。

出向についての基本事項についてはこちら☞

 

出向元と出向先の双方と雇用契約関係にある以上、兼務出向は可能


使用者が労働者に出向を命ずることができる場合、出向元の業務に就きながら、出向先でも就労することは、使用者の権利の濫用に当たらないかぎり、何ら法的には禁止されていません。

 

どのような出向態様とするかは出向契約次第だと言えます。

 

兼務出向

出向元と出向先の両方で就労実態のある出向契約は可能で、それを「兼務出向」とも称することがあります。 

兼務出向は、通常の出向と比べ出向者負担が増える可能性もありますので、各事業場での所定労働日数や労働時間数などを明確化するなど、出向による労働者の受ける不利益の程度や出向命令までの手続の相当性などの面で、出向命令自体が権利の濫用と評価されないよう丁寧に進める必要があると考えられます。

 

時間外労働上限

また、時間外労働の上限規制(時間外労働及び休日労働は月平均80時間以下、月100時間未満)は個別の労働者について通算適用されますので、出向元・出向先双方が万全な管理をする必要があります。

 

年次有給休暇

さらに、使用者による年休の時季指定義務についても、出向元と出向先での年休付与基準日の違いに由来する「ダブルトラック」に対する対応を含め、履行義務を果たすための措置に注意が必要です。 

年休の時季指定義務についてはこちら☞

 

なお、出向元と出向先の双方での就労となると、労働時間管理や休日・休暇、安全衛生などについては、一方の会社だけの責務にならず、双方とも適正な労務管理が求められますし、複数事業場における就労という点で、副業・兼業における留意事項も念頭に整理する必要があります。

 

つまり、通常の出向と違い兼務出向については特に、次のような整理ができるものと考えます。

 

1⃣ 労働時間の通算管理が必要であること
2⃣ 労働者災害補償保険(労災保険)は、就労実態のある双方の事業場で適用されること
3⃣ 出向元で引き続き就労実態があるので、出向元を主たる賃金支払者として社会保険・雇用保険に係る被保険者資格を維持するのが適当と考えられること

以上の観点を踏まえ、兼務出向の契約内容の例としては、次のような整理ができると考えます。

 

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兼務出向の特性を踏まえた出向契約の作成例

 

出向契約については、通常の在籍出向契約と基本は同じですが、二つの会社で兼務就労するという実態を踏まえた契約内容とする必要があります。

 

1 兼務出向であることを明確化

通常の在籍出向とは違う契約事項もあることから、双方が注意すべく兼務出向であることを契約上明確化しておくことが適当と考えます。

 

兼務出向に関する契約書

(株)A(以下「甲」という。)と(株)B(以下「乙」という。)とは、甲の労働者を乙に兼務出向させるに際し、その取扱いについて下記のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。

(定義)

第1条 本契約において、兼務出向とは、甲の労働者を甲の業務に就かせたまま、乙の労働者として乙の業務に従事させることをいう。

 本契約において、出向者とは、乙に兼務出向する甲の労働者をいう。

 

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2 出向元と出向先の所定労働日、所定労働時間などを明確化

双方での就労ですので、週のうち出向元で就労する日数と出向先で就労する日数に関する基本事項を規定します。

労働条件については、通常の在籍出向においては出向先の就業規則に従うのを基本としますが、兼務出向では、出向元のルールも適用しないと支障がありますので、適用範囲について明確にする必要があります。

兼務出向では兼業・副業における労働時間の通算管理と同様な管理が必要となりますので、仮に、出向元における労働が主であるなら、出向元に出向先での労働時間情報を集約して、出向元で労働時間の統括管理を行うのが効率的と考えられます。

副業・兼業における時間管理についてはこちら☞

 

 

(出向形態)

第2条 出向者は出向期間中、甲の労働者として甲に在籍したまま、週2日に限り乙に兼務出向し、乙の指揮命令下において乙の業務に従事する。

 乙における出向者の所属、役職及び職務内容は、あらかじめ甲乙協議の上決定し、これらの事項を変更する場合は、乙は甲の事前による承諾を得るものとする。

 

(出向者及び出向期間)

第3条 出向者及び出向期間は、甲乙協議の上、書面による合意により決定する。

 出向期間の短縮又は延長をしようとする場合は、甲乙協議の上決定し、甲は決定内容を出向者に通知するものとする。

 

(出向者の労働条件等)

第4条 出向者の休職、退職、解雇については、甲の定めるところによる。

 出向者の賃金(時間外、休日及び深夜労働に対する割増賃金を含む。)については、甲の定めるところにより甲が出向者に直接支払うものとする。

 出向者の休憩、休日、服務規律、表彰、懲戒、安全衛生、福利厚生並びに配置転換及び出張については、甲乙各々の定めるところによるものとする。ただし、年次有給休暇は甲における勤続期間に基づき付与され、労働基準法第39条第7項の規定に基づく使用者の年次有給休暇の時季指定義務は甲が負うものとし、その取扱いについては甲の定めるところによるものとする。

 出向者の労働時間については、甲乙各々の定めるところによるものとする。ただし、労働基準法第38条第1項の規定により、甲における労働時間制度を基に、乙における労働時間と通算することとし、甲の労働時間制度における法定労働時間を超える労働時間を法定の時間外労働として取り扱うものとする。なお、出向者について、法定の時間外労働は1箇月について45時間及び1年について360時間を限度時間とし、甲乙が連携して通算管理するものとする。

 

(安全衛生等)

第5条 出向者に対する安全衛生の措置は、甲乙各々の負担により実施する。ただし、定期一般健康診断は甲の負担により甲が実施する。

 

3 費用負担の明確化

社会・労働保険の適用・保険料負担、通勤手当等の費用負担、給与負担金の支払いの取扱いについても明確化が必要です。

通常の在籍出向では、就労実態が出向先のみであることが一般的なので、労働者災害補償保険は、出向元で支払われている賃金も出向先で支払われている賃金に含めて計算し、出向先で保険の適用とします。

しかし、兼務出向では、出向元での就労実態もあるので、副業・兼業の労働者のような取扱いとなります。

 

 

(社会保険等)

第6条 出向者の健康保険、厚生年金保険、介護保険及び雇用保険については、甲において被保険者資格を維持し、保険料は甲が納付する。

2 労働者災害補償保険については、出向者が甲乙各々の業務に従事することに対して支給される賃金水準に基づき、甲乙各々が納付する。

 

 

(出向先の費用負担)

第7条 出向者についての乙に係る通勤費、出張旅費については、乙の定めるところにより乙が負担するものとする。

 甲が第4条の定めに基づき出向者に支払った賃金(時間外、休日及び深夜労働に対する割増賃金を含む。)に相当する額のうち、別途甲乙間で合意する基準に基づき、乙が一部給与負担金として支払うものとする。

 甲が第6条第1項の定めに基づき納付した事業主負担額に相当する額のうち、別途甲乙間で合意する基準に基づき、乙が一部負担するものとする。

 本条に定める費用については、甲が計算の上、乙に対して毎月末締めで請求し、乙は甲の指定する銀行口座に翌月末日までに振り込むものとする。なお、振込手数料は乙の負担とする。

 

 

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4 その他必要に応じて規定する

その他、必要に応じ諸規定を盛り込むこととします。

通常の在籍出向として規定される復職規定、協議事項、有効期間については下記の規定などがあります。

 

(復職)

第8条 出向者が次の各号に該当した場合、甲は出向者に対し復職を命じるものとする。

①出向期間が終了したとき
②出向者が甲を退職するとき
③出向の目的を達成し又は出向の目的が消滅したと甲が判断したとき
④甲又は乙の事情により、甲及び乙が出向者の復職を合意したとき
⑤出向者が甲又は乙の休職事由、解雇事由、懲戒事由に該当したとき
⑥出向者が乙での労務提供が困難であると甲が判断したとき

 

 

(機密保持)

第9条 甲乙の双方は本契約期間中に知り得た相手方の顧客、役職員に係る個人情報及び業務上の機密事項について、第三者に対して守秘義務を負うものとする。

 

 

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(協議事項)

第10条 本契約に定めていない事項又は本契約について疑義が生じた事項については、甲乙協議の上誠意をもって解決にあたるものとする。

 本契約を変更する場合は、甲乙協議の上、書面による合意による。

 

 

 

(有効期間)

第11条 本契約の有効期間は、第3条の規定に定める出向期間が終了するまでとする。

 

本契約締結の証として本書2通を作成し甲乙記名押印の上各自1通保有する。

2024年2月29日

甲 所在地
(株)A
代表者氏名 ㊞

乙 所在地
(株)B
代表者氏名 ㊞

 

まとめ

 

兼務出向は通常の出向と違い、兼業のような労働実態になることから、出向元と出向先が自社の業務の都合しか考えないでいると、過重労働になるおそれもあります。

副業・兼業における留意事項も念頭に置いて、出向元・出向先の双方において適正な労務管理を行うことが求められますので、兼務出向契約の内容もそれに見合った内容となるように整理する必要があります。

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