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5日付与義務、計画的付与、時間、半日の年休の比較と組合せ可否

労基法で規定する年次有給休暇をいつ取得するかの選択(時季指定の請求)は基本的に労働者が有する権利ですが、原則的な取得方法以外に、①時間単位年休(法39条4項)、②計画年休(法39条6項)、③使用者指定年休(法39条7項)、④半日単位年休、の4種類の取得パターンがあります。
それぞれの年休制度を比較し違いを整理します。

種類制度概要
時間単位年休労使協定で定めた範囲内で5日を限度に時間単位で年休取得可能
計画年休労使協定であらかじめ計画付与日を定め取得(最低5日は労働者に留保)
使用者指定年休年休が10労働日以上付与される労働者に5日について使用者が時季指定
半日単位の年休労働者が半日の年休を時季指定し使用者がこれに同意することで取得可能
◎労使協定の締結有無
◎取得可能な対象者
◎取得日数の制約
◎時季変更権との関係
◎前年度繰越分の扱い
◎各制度の組合せ可否

労使協定の締結

各年休制度について労使協定締結の有無を比較しました。

種類労使協定の締結労使協定で定める事項の概要
時間単位年休書面協定必要対象労働者の範囲、時間単位付与できる年休日数(5日以内)、時間単位年休一日の時間数、一時間以外を単位とする場合の時間数
計画年休書面協定必要年休を与える時季に関する定め(計画付与の対象から除外する労働者の範囲を含めることも可能)
使用者指定年休不要
半日単位の年休不要

労使協定における労働者の過半数代表者の選出方法と資格要件とは

 

取得対象者の違い

各年休制度について取得が可能な労働者を比較しました。

種 類取得対象者 
時間単位年休労使協定で定めた労働者の範囲に属する労働者
計画年休労使協定であらかじめ計画付与日を定めるのが不適当とした労働者以外
使用者指定年休年休の付与日数が10労働日以上の労働者
半日単位の年休使用者が同意する場合における、取得を希望して時季指定する労働者

 

なお、どの年休にしても、管理監督者にも労基法39条の年休規定が適用されますので、対象労働者には管理監督者も含めます(昭和22.11.26基発389号)。

管理監督者に該当するか否かの判断基準

 

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時間単位年休

一斉に作業を行うことが必要とされる業務に従事する労働者等にはなじまないことが考えられるため、事業の正常な運営との調整を図る観点から、労使協定では対象労働者の範囲を定めます。

育児を行う者など取得目的によって対象範囲を定めることはできません(平成21.5.29基発0529001号)。

計画年休

特別の事情により年休の付与日があらかじめ定められることが適当でない労働者については、年休の計画的付与の労使協定を結ぶ際、計画的付与対象から除外することも含め、十分労使関係者が考慮することとされています(昭和63.1.1基発1号、平成22.5.18基発0518第1号)。

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使用者指定年休

法定の年休付与日数が10労働日以上の労働者が対象になります。

パートタイム労働者でも、週4日勤務で3年半以上継続勤務した者や、週3日勤務であっても5年半以上の継続勤務者は、法定の年休付与日数が10日以上になりますので、使用者が時季指定して実際に5日について年休を取得させる対象者になります。

労働基準法に規定する年休付与基準

 

半日単位の年休

年休は一労働日を単位とするものですので、使用者は労働者に半日単位で年休を付与する義務はありません(昭和24.7.7基収1428号、昭和63.3.14基発150号)。

しかし、年休の取得促進の観点から、労働者がその取得を希望して時季を指定し、これに使用者が同意した場合であって、本来の取得方法による休暇取得の阻害とならない範囲で適切に運用される限り問題がないものとして取り扱うこととされています(平成21.5.29基発0529001号)。

法律の規定にはない運用上のものですので、対象労働者の範囲など特段の決まりはありません。

 

取得日数の違い

各年休制度について取得日数の範囲を比較しました。

種 類取得日数
時間単位年休年休のうち「5日以内に限り」定めた日数分取得可能
計画年休年休のうち「5日を超える部分について計画的に取得日を決定
使用者指定年休年休のうち「5日」について時季指定して取得させなければならない
半日単位の年休労働者が取得を希望し時季指定し、使用者が同意した日数分取得可能

 

5日以内に限る年休

年休を時間単位で付与する「時間単位年休」については、労働者が付与された年休日数のうち「5日以内に限り」労使協定の定めにより時間単位で年休を取得できる制度です。

仮に、3労働日しか年休を付与されなかったパートタイム労働者については、その3日分までしか時間単位年休を取得できません。

 

一日分の年休が何時間分の時間単位年休に相当するか

一日分の年休が何時間分の時間単位年休に相当するかを労使協定で定め、その換算により5日以内で取得可能です。

一日の所定労働時間数に1時間未満の時間数があるならこれを時間単位に切り上げる必要があります(労基則24条の4第1号)。

一日が7.5時間なら8時間分の時間単位年休が一日分の年休、という具体です。

仮に、日によって所定労働時間数が異なる場合は、一年間における一日平均の所定労働時間数を求めた上で、一日が何時間分の時間単位年休に相当するか換算します。

一年間の総所定労働時間数が決まっていないときは、決まっている期間における一日平均所定労働時間数で算定します。

 

一時間以外を単位とする時間単位年休も可能

時間単位年休を取得する単位を1時間とするだけでなく、2時間とか3時間といった時間を単位に付与する場合には、労使協定で定めておく必要があります(労基則24条の4第2号)。

なお、間違いやすいのですが、育児・介護休業法に基づく「看護・介護休暇」についても時間単位で取得可能ですが、その場合の「時間」は「1時間の整数倍の時間を言い、労働者からの申出に応じ、労働者の希望する時間数で取得できるようにする必要があります(改正令和3.11.4雇均発1104第2号)。

 

労使協定がないとか労使協定の定めを超える取得における注意

たとえ使用者が容認していたとしても、労使協定がない、あるいは労使協定の限度を超える時間単位年休の取得については、法的な年休取得としては扱わず、その場合には法定の年休の日数の残数は変わらないと解されます(平成21.10.5厚労省「改正労働基準法に係る質疑応答」)。

もっとも、使用者が法定の付与日数を超える年休を付与している場合には、当該部分について時間単位年休を与えることは可能です(同条質疑応答)。

 

5日を超える部分の年休

年休を計画的に付与する「計画年休」については、労働者が付与された年休日数のうち、「5日を超える部分」について労使協定の定めにより、事業場全体などで計画的に取得日を決めることができます。

つまり、労働者が自分の好きな時季に取得できる年休を最低5日残す必要があるのです。

仮に、8労働日の年休を付与された労働者については、5日は労働者の個人的事由により取得できるようにし、他の3日についてだけが計画年休の対象となり得るということです。

 

5日について付与する年休

年休を使用者が時季指定して付与する「使用者指定年休」については、年休のうち「5日について」年休付与基準日から一年以内の期間内に労働者ごとに時季を定めて取得させなければなりません。

仮に、労働者が既に5日以上の年休を取得している場合には、使用者の履行義務はなくなり義務を果たしたことになります。

 

日数限定の決まりのない年休

「半日単位の年休」については法律上の規定はありませんので、付与された年休日数のうち何日分を半日とするかは労使合意の範囲内になります。

 

取得時季の違い

各年休制度について取得時季を比較しました。

種 類取得時季
時間単位年休労働者の請求した時季(取得できない時間帯や一日で取得できる時間数制限等を定めることはできない)
計画年休事業場の一斉付与、班別交替制付与、計画表による個人別付与
使用者指定年休10労働日以上の付与日から一年以内に労働者の意見を聴取して時季指定
半日単位の年休労働者の請求した時季

 

時間単位年休

取得に当たっては、原則的な年休どおり労働者が時季指定を請求します。

労使協定においては、取得単位時間数などを定めますが、次のような制限を定めることはできません(平成21.5.29基発0529001号)。

●あらかじめ時間単位年休を取得することができない時間帯を定める
●所定労働時間の中途において時間単位年休を取得することを制限する
●一日において取得することができる時間単位年休の時間数を制限する など

計画年休

労使協定により年休を取得する時季に関する定めをしますが、事業場全体の一斉付与や班別交替制の付与の場合には、具体的な年休の付与日を定めます。

個人別に付与する場合には、計画表を作成する時期や手続等を労使協定で定め、その計画表作成により具体的な時季を定めます。

事業場全体の休業による一斉計画的付与の場合では、年休権利のない労働者も含め休業させるときには、有給の特別休暇を付与するか、年休をさらに付与するなどの対応が求められます。
何ら措置しないままですと、その労働者に「休業手当」を支払わなければ労基法26条(使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合の休業手当支給義務)違反になることに注意が必要です(昭和63.3.14基発150号)。

使用者指定年休

使用者は5日について、年休付与基準日から1年以内の期間に労働者ごとに時季を定めて取得させる必要があります。

ただし、労働者が時季を請求して取得した年休や、計画年休で取得した年休分は(5日を超えるときは5日を)指定義務の5日から差し引きますので、使用者が時季指定する余地がないこともあります。

付与基準日より前倒しで10日以上の年休を付与するときには、その10日以上付与した時点(第一基準日といいます)から一年以内の期間に時季を指定して取得させることになります(労基則24条の5)。

社員全員の年休付与基準日を統一するためなどの場合で、第一基準日や基準日のほかに、その時点から一年以内の日に新たに10日以上の年休を付与する場合は(これを第二基準日といいます)、基準日や第一基準日から始まり、第二基準日から数えて一年後までを終期とする一年数か月の期間(これを履行期間といいます)の月数を12で除した数に5を乗じた日数について、この履行期間中に時季指定して取得させることも可能です。
要するに、第一基準日や基準日からの一年間と第二基準日からの一年間の、5日について取得させる一年の期間が一部重複してしまうので、これらの全体の期間内で5日分を按分比例した日数を取得させることでもよいとされているのです。

半日単位の年休

取得に当たっては、原則的な年休どおり、労働者が時季を請求します。

 

時季変更権との関係

各年休制度について時季変更権との関係について比較しました。

種 類時季変更権との関係
時間単位年休使用者の時季変更権の対象となる
計画年休労働者の時季指定権及び使用者の時季変更権はともに行使できない
使用者指定年休使用者が時季を指定するが変更可能、労働者の変更希望に応じることも可
半日単位の年休使用者の時季変更権の対象となる

 

時間単位年休

使用者の時季変更権の対象となりますが、労働者が時間単位による取得を請求した場合に日単位に変更することや、日単位による取得請求した場合に時間単位に変更することは、時季変更に当たらず、認められません(平成21.5.29基発0529001号)。

 

計画年休

計画的付与の場合には、労働者の時季指定権及び使用者の時季変更権はともに行使できません(昭和63.3.14基発150号、平成22.5.18基発0518第1号)。

 

使用者指定年休

使用者が指定した時季について、使用者の事情により変更したいときには、労働者に対する意見聴取の手続(労基則24条の6)を再度行い、その意見を尊重することによって変更することが可能です。

労働者が変更することはできませんが、使用者が指定した後に労働者に変更の希望があれば、使用者は再度意見を聴取し、その意見を尊重することが望ましいとされています(平成30.12.28基発1228第15号)。

 

半日単位の年休

使用者の時季変更権の対象となります。

 

繰越分の扱いの違い

各年休制度について年休繰越分の扱いを比較しました。

種 類繰越分の扱い
時間単位年休時間単位の日数は、前年度からの繰越分も含めて5日以内
計画年休5日を超える部分に繰越分も含む
使用者指定年休❶適用対象となる「基準日に付与される年休の日数が10労働日以上である労働者」の10労働日には前年度繰越分は含まれない
❷前年度からの繰越の年休がある場合は、その日数分を使用者が時季指定すべき5日の年休から控除する
半日単位の年休繰越分か否かの区別は前提とされていない

 

時間単位年休

前年度に取得されなかった年休の残日数・時間数は次年度に繰り越されますが、次年度の時間単位年休の日数は、前年度からの繰越分も含めて5日の範囲内となります(平成21.5.29基発0529001号)。

 

計画年休

年休日数のうち5日を超える部分に繰越分も含みます(昭和63.3.14基発150号)。

仮に、社員全員について前年度からの繰越分が多いと、それだけ計画的付与の日数を増やすこともできることになります。

 

使用者指定年休

対象となる労働者は「年休の日数が10労働日以上」の者ですが、この「10労働日以上」は、あくまでも基準日に付与される年休の日数を指しますので、前年度の繰越分の年休を合算しません(平成30.12.28基発1228第15号)。

使用者が時季指定すべき5日については、労働者が実際に取得した年休が前年度からの繰越分の年休なのか、当年度の基準日に付与された年休なのかを問いません(同上通達)。

 

半日単位の年休

原則的な年休取得のときと同じ扱いです。

 

各年休制度の組合せの可否

各年休制度について各々の組合せ関係を整理しました。

組合せ計画年休使用者指定年休半日単位の年休
時間単位年休
計画年休

5日から計画年休分を控除

半日を0.5日とする

使用者指定年休

5日から計画年休分を控除

半日を5日から控除

 

時間単位年休

労働者が時間単位による取得を請求した場合に、請求した時季に時間単位により年休を与えることができるものであり、計画的付与として時間単位年休を与えることは認められません(平成21.5.29基発0529001号)。

 

計画年休

半日単位の年休については、使用者の都合で一方的に付与することはできませんので、計画年休において一律に組み込むことは困難です。

労使協定に基づき、個々の労働者ごとに年休付与計画表を作成する際に、労働者から半日取得の希望があった場合に、使用者がこれに同意すれば運用可能です。

 

使用者指定年休

労働者の意見を聴取した際に、半日単位の年休の取得希望があった場合に使用者が年休時季指定を半日で単位で行うことも差し支えなく、またその場合には半日年休を0.5日として取り扱うとされています(平成30.9.7基発0907第1号)。

時季指定を時間単位年休で行うことは認められていません。

労働者が自ら時間単位年休を取得した場合にも、その時間分を5日から控除することはできません(平成30.12.28基発1228第15号)。

 

半日単位の年休

労働者が半日単位の年休の取得を希望して時季を指定し、これに使用者が同意した場合であって、本来の取得方法による休暇取得の阻害とならない範囲で適切に運用される限り問題がないものとして取り扱われますので、その限りで、計画年休と使用者指定年休において運用ができるものです。

 

まとめ

年次有給休暇制度は、労働者の心身の疲労回復、労働力の維持培養を図るとともに、ゆとりある生活の実現にも資する趣旨から、毎年一定数の有給休暇を労働者に与える制度です(平成21.5.29基発0529001号)。

しかし、取得率が50%程度で推移する状況に大きな変化はなく、さらに、正社員の2割程度が一年間で一日も年休を取得しておらず、また年休を取得しない労働者には長時間労働の比率が高い実態があると指摘されています(平成30.9.7基発0907第1号)。

年休取得促進を図って、2010年4月には時間単位年休制度が導入されましたが、さらに2019年4月からは年5日の年休を確実に取得(消化)させる義務を使用者に課す新たな制度も始まりました。

これにより、年休には原則的な年休のほかに、取得ルールの違う4種類の制度が存在することになりました。

それぞれの制度の違いや特性を踏まえて、多様で柔軟な働き方の実現にむけた「働き方改革」においても適正に取り込んでいくことが期待されます。

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