こんにちは 『ろうどうブログ』は労働法に関する記事を中心に構成されています。

労働日や労働時間を一定期間ごと調整し確定するシフト制勤務の肝

シフト制については、柔軟に労働日、労働時間を設定できるメリットがある一方、使用者の都合で労働日がほとんど設定されないことで紛争が発生することもあります。また、年間の労働日数が不確定のシフト制労働者に付与する年休の日数はどうするのか、そもそも労働日を調整して決めたのにその日に年休を請求するのはおかしいのか等の疑問も沸きます。
シフト制の実施に当たってどのような点に注意すべきか確認していきましょう。

2022年1月7日に、厚労省は「いわゆる「シフト制」により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」(以下「厚労省留意事項」といいます。)を公表しました。
当記事は、この厚労省留意事項の内容を中心に説明します。
ここでいう「シフト制」勤務とは、
労働契約の締結時点では労働日や労働時間を確定的に定めず、一定期間(一週間、一か月など)ごとに作成される勤務割や勤務シフトなどで、初めて具体的な労働日や労働時間が確定するような勤務形態
を指します。
三交替勤務のような、月間などにおける労働日数や労働時間数は決まっているが、具体的には就業規則等に定められた勤務時間のパターンを組み合わせて勤務するような形態は除きます。
シフト制とは、例えば
一か月の勤務日数は8日以上16日以内、一日の勤務時間は5時間以上7時間以内として、当該枠内で各月の具体的な勤務日と各日の労働時間については、前月の20日までに協議の上、シフト表で示す
といった勤務形態のことです。
広告

シフト制労働者との労働契約締結時に明示すべき労働条件

労働基準法では、労働契約の締結時には労働条件の明示が義務付けられていますので、シフト制労働者に対しても同様に明示しなければなりません。

 

書面による労働条件の明示

労基法に基づき必ず書面で明示しなければならない労働条件は次のとおりです(労基法15条1項)。

❶労働契約期間、有期契約の場合は契約更新基準
❷就業場所、従事する業務
❸始業・終業時刻、所定労働時間外労働の有無、休憩時間、休日・休暇、2組以上に分けて就業させる場合には就業時転換に関する事項
❹賃金の決定、計算、支払方法、賃金締切り日、支払時期(退職金、賞与は除く)
❺退職、解雇事由に関する事項
ここで、「昇給に関する事項」については、書面交付により示すことは義務付けられていませんが、雇い入れ時には明示しなければならない労働条件の一つです。
その他の労働条件(退職金、賞与、制裁、休職など労基法15条、労基則5条で規定されている事項)について定めがあるなら、書面交付は義務付けられていませんが、明示する必要があります。
パートや有期雇用なら
シフト制労働者がパートタイム労働者や有期雇用契約の労働者なら、「短時間有期雇用労働法」の適用があり、
・昇給の有無
・賞与の有無
・退職手当の有無
・相談窓口
について文書交付をして明示する義務があることに留意する必要があります。
書面・文書に替えてメールでも
労働者が希望すれば書面や文書に替えてファックス、メールなどの送信によることも問題ありません。これらのメールなどは記録を出力して書面化できるものに限られています(労基則5条4項、パート有期則2条)。
以上のような労働条件の明示に当たっては、厚労省がひな形を示している労働条件通知書の交付などによる明示が適切です。
関連記事

労働者を雇う際には、労基法の定めにより、契約期間や労働時間の長さによらず、誰に対しても労働条件を明示する必要があります。特に、パートタイム労働者や有期雇用契約の労働者については、さらに『短時間・有期雇用労働法』の適用があり、その法律によ[…]

交渉成立で握手
広告

シフト制労働者に対する労働条件明示で注意すること

定型の勤務態様ではないことから、労働条件の明示には少し注意を要します。

始業・終業時刻

各日の労働時間の始まりと終わりの時刻が確定していない場合には、明示の仕方も少し工夫が必要です。
労働条件通知書等には、原則的な始業・終業時刻を記載した上で、労働契約の締結と同時に定める一定期間分のシフト表等をあわせて労働者に交付するなどの対応が必要
労働日ごとに時刻を明記できない場合なら、労働契約時に交付する労働条件通知書などに原則的な始業・終業時刻を記載し、具体的には単位期間(一か月、一週間など)のシフト表などを交付する方法で始業・終業時刻の明示義務を果たします。
「時刻」ですので、単に一日の労働時間の「長さ」を明示するのではありません。
休日
シフト勤務日が確定しないことに連動して休日も特定できない場合でも、労基法の基準を満たす必要があります。
具体的な曜日等が確定していない場合は、休日の設定にかかる基本的な考え方などを明示する
毎週一日以上または4週間で4日以上の休日を設定する旨明記するとともに、具体的には勤務日を決めることとの抱き合わせということになりますので、シフト勤務日の決め方と併せて明示する方法もあります。
例えば、毎月20日までに、毎週一日以上(または4週間で4日以上)の休日を設定することを前提に、翌月のシフト勤務日及び休日について協議の上定めたシフト表を示す旨の基本的な考え方を示す方法があります。

シフト制に関する就業規則や労働契約の定め

広告

就業規則に規定すべき事項

常時10人以上の労働者を使用する使用者は就業規則を作成し、これを労働基準監督署に届ける義務があります(労基法89条)。

労働条件の明示と同様、就業規則には始業・終業時刻、休憩時間、休日・休暇などを必ず規定しなければならない事項があります。

 

関連記事

常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成してこれを労働基準監督署に届け出なければなりません(労基法89条・90条)。これを変更したときは変更届をしなければなりません。就業規則に記載されている内容は、従業員とかわしている[…]

シフト制労働者に関して、就業規則上「個別の労働契約による」、「シフトによる」との記載のみにとどめた場合、就業規則の作成義務を果たしたことにならないが、基本となる始業・終業時刻や休日を定めた上で、「具体的には個別の労働契約で定める」、「具体的にはシフトによる」旨を定めることは差し支えない
事業場で勤務態様や職種等によって始業・終業時刻や休日が異なる場合には、勤務態様、職種等の別ごとに規定する必要があります。
すべての個別対象ごとに明記できないのであれば、原則的な基本設定を規定するとともに、これをベースにしつつ個別には別途の契約やシフト表で具体化するという規定により、就業規則の作成義務を果たせたと評価されます。

労働契約に定めることが考えられる事項

トラブル防止の観点から次のルールを確認し合っておくことや、就業規則に定めることが考えられます。

シフト作成ルール

具体的にシフトを作成するに当たっては、労使双方にとって予見可能性を高めるために双方が協議等しながら、シフトの決定を行うなどのルールを決めておくのが適当です。

以下の事項について、あらかじめ使用者と労働者で話し合って定めておくことが考えられる。
●シフト表などの作成に当たり、事前に労働者の意見を聴取すること
●確定したシフト表などを労働者に通知する期限や方法
シフト変更ルール
決まったシフトを変更するのは、労働条件の変更に該当し、それには労使双方の合意が求められます(労働契約法8条)。
逆に言えば、合意のない労働条件の変更は原則として無効と解されますので、一方的に変更することは紛争のもとになることを認識する必要があります。
シフト変更に関するルールとして、以下の事項についてあらかじめ労使で話し合って合意しておくことが考えられる。
●シフトの期間開始に、確定したシフト表などにおける労働日、労働時間等の変更を使用者又は労働者が申し出る場合の期限や手続き
●シフトの期間開始に、使用者又は労働者の都合で、確定したシフト表などにおける労働日、労働時間を変更する場合の期限や手続き
労働日、労働時間設定に関する基本的考え方
シフトに関する基本的な考え方をあらかじめ取り決めておくことが望まれます。
労働者の希望に応じ以下の事項について、あらかじめ労使で話し合って合意しておくことが考えられる。
●一定期間において、労働する可能性のある最大日数、時間数、時間帯
(毎週月、水、金曜日から勤務する日をシフトで指定する、など)
●一定期間において、目安となる労働日数、労働時間数
(一か月16日程度勤務、一週間当たり平均24時間勤務、など)
●一定期間において、最低限労働する日数、時間数
(一か月12日以上勤務、少なくとも毎週月曜日はシフトに入る、など)
以上のルールなどの合意内容については、労働契約締結時の労働条件通知書等、書面で労働条件を明示する際に併せて書面で確認しておくことが望まれます(労働契約法4条)。

シフト制労働者の年次有給休暇

シフト制労働者についても,雇入れの日から起算して6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤したときに、労基法所定の日数の年次有給休暇を付与しなければなりません(労基法39条1項)。

その後の1年ごとに、1年間の全労働日の8割以上出勤したときに、継続勤務年数に応じて新たな年休を付与することになります(労基法39条2項)。

一週間の所定労働時間数が30時間未満のシフト制労働者については、一週間当たりの平均所定労働日数又は一年間の所定労働日数に応じた日数の年休を比例付与します(労基法39条3項)。

シフト制労働者はシフト勤務日に年休取得

シフト制労働者については、事前に調整して勤務日を決めたのに、その勤務日に年休取得を請求されても困る、という使用者の声が聞こえそうですが、労基法の年休とはそういうものなのです(労基法39条5項)。

年休は就労義務のある日に取得する有給の休暇です。

所定の休日や休業を命じられているような就労義務のない日には、年休を取得する余地はありません。

年休を付与した時点で、就労義務のある日に有給休暇を取得することになる、ということを使用者としては理解しておく必要があります。

円滑な業務遂行体制を築くためにも、労働者は十分なゆとりをもって年休取得の時季を告げる配慮ができるよう、日ごろから労使間のコミュニケーションに配意し、風通しのよい職場風土の形成に努めておくことがポイントです。

実際上は、その年休取得予定日も織り込んで、具体的なシフト勤務日を組むことでしょう。

 

関連記事

労基法で規定する年次有給休暇をいつ取得するかの選択(時季指定の請求)は基本的に労働者が有する権利ですが、原則的な取得方法以外に、①時間単位年休(法39条4項)、②計画年休(法39条6項)、③使用者指定年休(法39条7項)、④半日単位年休、の[…]

所定労働日数の変更や不明な場合の年休付与

所定労働日数が年度途中で変更される場合

所定労働日数が年度途中で変更される場合、付与しなければならない年休の日数はどうなるのでしょうか。

これについては関連通達があります。

年度途中で所定労働日数が変更された場合休暇は基準日において発生するので、初めの日数のまま(昭和63.3.14基発150号)
毎年、年休を付与する(労働者の年休時季指定権が発生する)日を「基準日」と言いますが、付与年休の日数についてはこの基準日までの労働実績に応じて決まりますので、基準日以降の所定労働日数の変更に左右されません。
所定労働日数が確定しない場合

所定労働日数が確定しない場合、付与しなければならない年休の日数はどうなるのでしょうか。

これについては関連通達があります。

予定されている所定労働日数を算出し難い場合には、基準日直前の実績を考慮して、所定労働日数を算出することとして差し支えないこと。したがって、例えば、雇入れの日から起算して6か月経過後に付与される年次有給休暇の日数については、過去6か月間の労働日数の実績を2倍したものを「一年間の所定労働日数」とみなして判断することで差し支えないこと(平成16.8.27基発0827001号)
一週間の所定労働時間が30時間未満の労働者は、一週間当たりの平均所定労働日数や一年間の所定労働日数に応じて年休が比例付与されるところ、シフト制労働者のように、一週間当たりの平均所定労働日数や一年間の所定労働日数が確定していない労働者については、正確な年休付与日数を算出できません。
その場合には、過去の実績に応じて一年間の所定労働日数などを算出して、これに応じた年休日数を比例付与することになります。
広告

有期契約労働者として留意すべき点

労働契約の終了

シフト制労働者に係る解雇や雇止めにも、一般の労働者の解雇(労働契約法16条)や有期雇用労働者の解雇(労働契約法17条)、雇止め(労働契約法19条)のルールが適用されます。

有期労働契約が3回以上更新されているか、雇入れの日から1年を超えて継続勤務している有期契約労働者について、有期労働契約を更新しない場合には、シフト制労働者であっても、少なくとも契約の満了する日の30日前までに、その旨の予告を行うことが必要(有期労働契約に関する基準1条)
無期転換
シフト制労働者が有期労働契約の場合、契約更新により雇用契約期間が通算5年を超えた場合には、使用者に無期雇用転換の申込みをすれば、その申出をした時点の雇用契約期間が満了する日の翌日に期間の定めのない労働契約に転換します(労働契約法18条)。
使用者においては、シフト制労働者が期間の定めのない労働契約の終結の申込みをしたことを理由に、当該労働者のシフトの頻度を一方的に減らすことのないようにすること
不合理な待遇差の禁止
シフト制労働者が有期労働契約の労働者又はパートタイム労働者である場合、通常の労働者と比較し不合理な待遇と評価されないよう留意する必要があります(パート・有期雇用労働法8条)。
いわゆる日本が目指す「同一労働同一賃金」の考えです。
関連記事

2020年10月13日と15日に「同一労働同一賃金」に関連する重要な最高裁の判決が相次いで出ました。判決当時にはすでに法が改正され、今は存在しない旧の労働契約法第20条に関する訴訟ですが、非正規労働者と正規労働者との待遇の相違が不合理か[…]

夕日に立つ女性シルエット

トラブルの解決

「シフトが以前より少なくなった」、「シフトを一方的に減らされた」などのトラブルが発生した場合の解決方法の一つに、労働局、労働基準監督署に設置してある「総合労働相談センター」を経由して個別労働紛争解決制度を活用する方法があります。

労働局・労基署のほか、裁判所で行う労働審判制度や労働委員会のあっせんなどを活用する方法もあります。

 

参考記事

労働者と会社との間の個別(集団的な労使紛争ではない、ということ)の労働関係紛争を最終的に解決する場は司法(裁判所の法廷)なのでしょうが、そこにたどり着く前に、もっと簡便で迅速、負担の軽い解決システムがあります。裁判とは違うので、裁判外紛[…]

握手する二人

 

労働審判事例

事業主が労働者に対して今後のシフトは減る見込みであることを伝えたところ、その後のシフト勤務日に労働者が欠勤し、そのまま連絡がなかったことから、事業主は労働者が退職したものと思い込んでいたところ、3か月程度経過してから「今度のシフト勤務はいつか?」と聞いていた労働者と紛争となり、労働審判に至った事例があります。
就業規則には「1か月以上の欠勤を退職と扱う」旨の定めがありましたが、その時点で改めて事業主から労働者への通知等を怠ったことが紛争につながった面もあるとして、労働者が退職したことを双方確認するとともに、事業主のミスも踏まえ解決金(3か月分の賃金相当額)を事業主が支払うことで調停が成立し紛争が解決しました。
事業主は、この労働者とのかかわりを早く断ち切りたい一心で解決金の支払いに応じたと思われる面もあります。

社会保険・労働保険

 

労災保険

労働者を使用する事業場である限り(個人経営の農林水産業で労働者が5人未満の事業の一部は任意適用となっていますが)労災保険は適用され、業務災害や通勤災害などについて補償給付等がなされます。

労働者個人の費用負担は実質ゼロ円です(給与から保険料は天引きされません)。

 

参考記事

仕事が原因で負傷等したときには、一般の労働者であれば「労災保険」により政府から補償を受けられますが、労働者とあまり違わない働き方をしている自営業者や中小事業主などは、こうした補償は全く受けられないのでしょうか?労災保険については特別加入[…]

 

雇用保険

次の2点とも満たす場合に雇用保険の被保険者になり、離職などの日以前2年間に2か月以上の被保険者期間があると、離職した後に労働の意思や能力があるが仕事に就くことができない状態にあれば基本手当の給付、育児休業を取得した場合であれば育児休業給付の対象となります。

一週間の所定労働時間が20時間以上
31日以上引き続き雇用されることが見込まれること

シフト制労働者の場合、労働契約書などで定められている所定労働時間の基本的考え方や実際の勤務時間に基づき平均の労働時間を算定して判断します。

 

健康保険・厚生年金保険

次のいずれかに該当すると健康保険・厚生年金保険の被保険者となります。

一週間の所定労働時間及び一か月の所定労働日数が事業所内の正社員の4分の3以上
正社員の4分の3未満であっても、次の5つの要件を満たす者
❷ー1週の所定労働時間が20時間以上
❷ー2勤務期間が1年以上見込まれること(2022年10月1日以降は「1年以上」が「2か月超え」に変更)
❷ー3月額賃金が8万8千円以上
❷ー4学生でないこと
❷ー5従業員501人以上の企業又は500人以下で労使合意をしている企業に勤務していること(2022年10月1日以降は、「501人」が「101人」、2024年10月1日以降は「51人」に変更

 

まとめ

シフト制にかかる労務管理の基本と留意事項について、厚労省留意事項を引用しながら説明しました。

シフト制については、労働日や各日の労働時間数が直前にならないと確定しないという点で変則的な働き方であり、多くはパートタイム労働者やアルバイトでみられる勤務形態です。

したがって、労働日や労働時間数の決め方に関連した労働基準法の基準をクリアすることはもちろんですが、「短時間・有期雇用労働法」で事業主に求められる措置(文書により労働条件明示義務が労基法より広い範囲、通常労働者と比較した場合の不合理な待遇禁止、短時間・有期雇用管理者の選任など)についても適法な対応となるよう注意が必要です。

最新情報をチェックしよう!

労働法をもっと理解したい

職場で生じる人事労務に関する問題やトラブルに的確に対処するには、基本的なルールと判例、行政通達の理解が欠かせません。不安や疑問の生じた際などに当ブログを手軽にチェックしてみてください。

CTR IMG