シフト制については、柔軟に労働日、労働時間を設定できるメリットがある一方、使用者の都合で労働日がほとんど設定されないことで紛争が発生することもあります。また、年間の労働日数が不確定のシフト制労働者に付与する年休の日数はどうするのか、そもそも労働日を調整して決めたのにその日に年休を請求するのはおかしいのか等の疑問も沸きます。
シフト制の実施に当たってどのような点に注意すべきか確認していきましょう。
当記事は、この厚労省留意事項の内容を中心に説明します。
シフト制労働者との労働契約締結時に明示すべき労働条件
労働基準法では、労働契約の締結時には労働条件の明示が義務付けられていますので、シフト制労働者に対しても同様に明示しなければなりません。
書面による労働条件の明示
労基法に基づき必ず書面で明示しなければならない労働条件は次のとおりです(労基法15条1項)。
❷就業場所、従事する業務
❸始業・終業時刻、所定労働時間外労働の有無、休憩時間、休日・休暇、2組以上に分けて就業させる場合には就業時転換に関する事項
❹賃金の決定、計算、支払方法、賃金締切り日、支払時期(退職金、賞与は除く)
❺退職、解雇事由に関する事項
・昇給の有無
・賞与の有無
・退職手当の有無
・相談窓口
について文書交付をして明示する義務があることに留意する必要があります。
労働者を雇う際には、労基法の定めにより、契約期間や労働時間の長さによらず、誰に対しても労働条件を明示する必要があります。特に、パートタイム労働者や有期雇用契約の労働者については、さらに『短時間・有期雇用労働法』の適用があり、その法律によ[…]
シフト制労働者に対する労働条件明示で注意すること
定型の勤務態様ではないことから、労働条件の明示には少し注意を要します。
始業・終業時刻
シフト制に関する就業規則や労働契約の定め
就業規則に規定すべき事項
常時10人以上の労働者を使用する使用者は就業規則を作成し、これを労働基準監督署に届ける義務があります(労基法89条)。
労働条件の明示と同様、就業規則には始業・終業時刻、休憩時間、休日・休暇などを必ず規定しなければならない事項があります。
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成してこれを労働基準監督署に届け出なければなりません(労基法89条・90条)。これを変更したときは変更届をしなければなりません。就業規則に記載されている内容は、従業員とかわしている[…]
労働契約に定めることが考えられる事項
トラブル防止の観点から次のルールを確認し合っておくことや、就業規則に定めることが考えられます。
シフト作成ルール
具体的にシフトを作成するに当たっては、労使双方にとって予見可能性を高めるために双方が協議等しながら、シフトの決定を行うなどのルールを決めておくのが適当です。
●シフト表などの作成に当たり、事前に労働者の意見を聴取すること
●確定したシフト表などを労働者に通知する期限や方法
●シフトの期間開始前に、確定したシフト表などにおける労働日、労働時間等の変更を使用者又は労働者が申し出る場合の期限や手続き
●シフトの期間開始後に、使用者又は労働者の都合で、確定したシフト表などにおける労働日、労働時間を変更する場合の期限や手続き
●一定期間において、労働する可能性のある最大日数、時間数、時間帯
(毎週月、水、金曜日から勤務する日をシフトで指定する、など)
●一定期間において、目安となる労働日数、労働時間数
(一か月16日程度勤務、一週間当たり平均24時間勤務、など)
●一定期間において、最低限労働する日数、時間数
(一か月12日以上勤務、少なくとも毎週月曜日はシフトに入る、など)
シフト制労働者の年次有給休暇
シフト制労働者についても,雇入れの日から起算して6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤したときに、労基法所定の日数の年次有給休暇を付与しなければなりません(労基法39条1項)。
その後の1年ごとに、1年間の全労働日の8割以上出勤したときに、継続勤務年数に応じて新たな年休を付与することになります(労基法39条2項)。
一週間の所定労働時間数が30時間未満のシフト制労働者については、一週間当たりの平均所定労働日数又は一年間の所定労働日数に応じた日数の年休を比例付与します(労基法39条3項)。
シフト制労働者はシフト勤務日に年休取得
シフト制労働者については、事前に調整して勤務日を決めたのに、その勤務日に年休取得を請求されても困る、という使用者の声が聞こえそうですが、労基法の年休とはそういうものなのです(労基法39条5項)。
年休は就労義務のある日に取得する有給の休暇です。
所定の休日や休業を命じられているような就労義務のない日には、年休を取得する余地はありません。
年休を付与した時点で、就労義務のある日に有給休暇を取得することになる、ということを使用者としては理解しておく必要があります。
実際上は、その年休取得予定日も織り込んで、具体的なシフト勤務日を組むことでしょう。
労基法で規定する年次有給休暇をいつ取得するかの選択(時季指定の請求)は基本的に労働者が有する権利ですが、原則的な取得方法以外に、①時間単位年休(法39条4項)、②計画年休(法39条6項)、③使用者指定年休(法39条7項)、④半日単位年休、の[…]
所定労働日数の変更や不明な場合の年休付与
所定労働日数が年度途中で変更される場合
所定労働日数が年度途中で変更される場合、付与しなければならない年休の日数はどうなるのでしょうか。
これについては関連通達があります。
所定労働日数が確定しない場合、付与しなければならない年休の日数はどうなるのでしょうか。
これについては関連通達があります。
有期契約労働者として留意すべき点
労働契約の終了
シフト制労働者に係る解雇や雇止めにも、一般の労働者の解雇(労働契約法16条)や有期雇用労働者の解雇(労働契約法17条)、雇止め(労働契約法19条)のルールが適用されます。
2020年10月13日と15日に「同一労働同一賃金」に関連する重要な最高裁の判決が相次いで出ました。判決当時にはすでに法が改正され、今は存在しない旧の労働契約法第20条に関する訴訟ですが、非正規労働者と正規労働者との待遇の相違が不合理か[…]
トラブルの解決
「シフトが以前より少なくなった」、「シフトを一方的に減らされた」などのトラブルが発生した場合の解決方法の一つに、労働局、労働基準監督署に設置してある「総合労働相談センター」を経由して個別労働紛争解決制度を活用する方法があります。
労働局・労基署のほか、裁判所で行う労働審判制度や労働委員会のあっせんなどを活用する方法もあります。
労働者と会社との間の個別(集団的な労使紛争ではない、ということ)の労働関係紛争を最終的に解決する場は司法(裁判所の法廷)なのでしょうが、そこにたどり着く前に、もっと簡便で迅速、負担の軽い解決システムがあります。裁判とは違うので、裁判外紛[…]
労働審判事例
社会保険・労働保険
労災保険
労働者を使用する事業場である限り(個人経営の農林水産業で労働者が5人未満の事業の一部は任意適用となっていますが)労災保険は適用され、業務災害や通勤災害などについて補償給付等がなされます。
労働者個人の費用負担は実質ゼロ円です(給与から保険料は天引きされません)。
仕事が原因で負傷等したときには、一般の労働者であれば「労災保険」により政府から補償を受けられますが、労働者とあまり違わない働き方をしている自営業者や中小事業主などは、こうした補償は全く受けられないのでしょうか?労災保険については特別加入[…]
雇用保険
次の2点とも満たす場合に雇用保険の被保険者になり、離職などの日以前2年間に2か月以上の被保険者期間があると、離職した後に労働の意思や能力があるが仕事に就くことができない状態にあれば基本手当の給付、育児休業を取得した場合であれば育児休業給付の対象となります。
❶ | 一週間の所定労働時間が20時間以上 |
❷ | 31日以上引き続き雇用されることが見込まれること |
シフト制労働者の場合、労働契約書などで定められている所定労働時間の基本的考え方や実際の勤務時間に基づき平均の労働時間を算定して判断します。
健康保険・厚生年金保険
次のいずれかに該当すると健康保険・厚生年金保険の被保険者となります。
❶ | 一週間の所定労働時間及び一か月の所定労働日数が事業所内の正社員の4分の3以上 |
❷ | 正社員の4分の3未満であっても、次の5つの要件を満たす者 |
❷ー1 | 週の所定労働時間が20時間以上 |
❷ー2 | 勤務期間が1年以上見込まれること(2022年10月1日以降は「1年以上」が「2か月超え」に変更) |
❷ー3 | 月額賃金が8万8千円以上 |
❷ー4 | 学生でないこと |
❷ー5 | 従業員501人以上の企業又は500人以下で労使合意をしている企業に勤務していること(2022年10月1日以降は、「501人」が「101人」、2024年10月1日以降は「51人」に変更 |
まとめ
シフト制にかかる労務管理の基本と留意事項について、厚労省留意事項を引用しながら説明しました。
シフト制については、労働日や各日の労働時間数が直前にならないと確定しないという点で変則的な働き方であり、多くはパートタイム労働者やアルバイトでみられる勤務形態です。
したがって、労働日や労働時間数の決め方に関連した労働基準法の基準をクリアすることはもちろんですが、「短時間・有期雇用労働法」で事業主に求められる措置(文書により労働条件明示義務が労基法より広い範囲、通常労働者と比較した場合の不合理な待遇禁止、短時間・有期雇用管理者の選任など)についても適法な対応となるよう注意が必要です。