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時間外労働の制約がなく残業手当もつかない管理監督者の範囲は?

労基法41条では、週40時間、1日8時間以内といった労働時間の原則や勤務途中の休憩付与、4週間で4日の休日付与といった労働時間・休憩・休日に関する規制が適用されない者のひとつとして、事業の種類とは無関係に「監督もしくは管理の地位にある者」が挙げられています。

この管理監督者は、いくら長時間労働をしても残業手当は不要ですし、休日労働も限度がありません。

そういった、管理監督者に該当する具体的な要件、一般労働者との線引きは何なのでしょうか。

 

労基法では「監督もしくは管理の地位にある者」としか規定していない

法律上は「管理監督者」は労働時間などの規制は適用しないとされていますが、どのような者が管理監督者に該当するのかの定義はありません。

そこで、みんなが悩むことになります。

 

行政通達【昭和22年9月13日付け発基17号】で原則的な考え方が示されている

「管理監督者」に該当するか否かの判断については、次のとおり、労働基準法の施行の際に発出された行政通達【昭和22年9月13日付け発基17号】で原則的な考え方が示されています。

◆一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であること

◆役付者のうち、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職務と責任を有し現実の勤務態様も労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限って管理監督者として適用の除外が認められる趣旨であること

◆したがってその範囲はその限りに限定しなければならないこと

職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要があること

◆基本給、役付手当等においてその地位にふさわしい待遇がなされているか、一時金の支給等についても、一般労働者に比し優遇措置が講じられているか否か等について留意する必要があること
 
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近年の管理監督者の範囲解釈

その後、昭和22年の法制定当時にはあまりみられなかった「スタッフ職」についても、一定の範囲の者について、処遇の程度によっては管理監督者と同様に取り扱うことが妥当であると考えられる旨の通達が発出されています【昭和63年3月14日付け基発150号】。

さらに、金融機関や多店舗展開の小売業・飲食業等の店舗における管理監督者の範囲についての考え方が示された行政通達もあります。

こうした最近までの行政通達をまとめると、管理監督者か否かの判断基準は以下の観点から行うこととされていることが分かります。

 

判断基準

❶ 労務管理について経営者と一体的な立場か

❷ 重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も労働時間の規制になじまないか

❸ 地位にふさわしい待遇であるか

❹ 本部の組織の長や出先機関の長と同格以上に位置づけられる者で経営上の重要な事項に関する企画、立案、調査等の業務を担当するスタッフ職でも管理監督者と同様に取り扱えること

❺ 次の管理監督者性を否定する重要要素及び補強要素を考慮すること

 

職務内容・責任
 ・採用や解雇についての責任と権限がない
 ・部下の人事評価に関わらない
 ・勤務シフト作成、残業命令の責任と権限がない
  
勤務状況
 ・遅刻や早退のときの制裁や負の評価を受ける
 ・人手の足りないときには自らも対応する等労働時間の裁量がない(補強要素)
 ・部下と同様の勤務態様が労働時間の大半を占める(補強要素)
  
賃金等の待遇
 ・月給などの賃金を時間単価に換算した場合、パートタイム労働者等の時間額や最低賃金額より低くなる
 ・役職手当などの額が実際の労働時間数から算出する割増賃金額に比べ十分でない(補強要素)
 ・年間の賃金総額が他店舗も含めた一般労働者の賃金総額と同程度以下(補強要素)

 

裁判所は管理監督者性については行政解釈より厳しく判断する傾向?

行政通達があったとしても、判断のあてはめ方には幅があり、紛争に至ることも少なくありません。

 

たとえば、会社ともめて解雇や退職に追いやられた管理監督者が、これまでの時間外労働に対する割増賃金分を含む未払い賃金を請求することにより、裁判所で管理監督者性について判断するケースがあります。

 

裁判所における判断基準は概ね統一されているといわれていますが、多くの裁判は管理監督者性については厳しい傾向がみられると指摘されています。

 

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判断の観点は行政解釈とほぼ同じ

日産自動車事件(横浜地裁2019年3月26日判決)の例でみると、以下の3つの観点から管理監督者性を判断すべき、としています。

 

❶ 実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されているか

❷ 自己の裁量で労働時間を管理することが許容されているか

 給与等に照らし管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇がなされているか

 

日産自動車事件ではどうして管理監督者性が否定されたのか

日産自動車事件では管理監督者として処遇されていた労働者については、以下の2点に関しては管理監督者性を認めることができると判断されています。

 

❶ 勤怠管理システムに勤務時間を入力し承認者の承認を得ていたが、遅刻早退による賃金控除はなく、自己の労働時間について裁量を有していた

 

❷ 待遇については、部長職等級の課長職に就き、年収も部下より240万円以上も高く管理監督者としてのふさわしい待遇がなされていた

 

ところが!

実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職責及び権限を付与されていなかったとして最終的には管理監督者性を否定しました。

 

経営方針を決定する重要な会議に参画する機会を与えられていたが、本部会議で提案する前に上司から、あらかじめプランの承認を受ける必要があること、
上司も同会議に出席し一緒にプランを提案する立場にあること、
担当車種が議題に上るときだけ本部会議に出席すること、

からすれば、上司の補佐にすぎず、経営意思の形成に対する影響力は間接的なものにとどまると評価すべきであり、実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職責及び権限を付与されていたとは認められない

 このように、ふさわしい待遇や労働時間の裁量性があったとしても経営者との一体的立場にないとして、管理監督者性を否定したのでした!

 

 

裁判所は「経営者との一体性」をあまりに厳格に解釈している?

日産自動車事件で裁判所は、労働時間管理の裁量性地位・責任にふさわしい待遇の点では管理監督者性が認められると判断しました。

 

、職務及び権限が上司の補佐に過ぎず、経営意思の形成に対する影響力が間接的であり、経営者側で決定した経営方針の実施状況について現状報告し、支障となる事象の原因究明の報告をしていることに過ぎず、経営者と一体的な立場にあるとまで評価することができない、とし

 

実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの職務と責任、権限を付与されているとは認められないと判断して、総合考慮すると管理監督者に該当するとは認められない、との判決を下したのでした。

 

裁判所は、日本マクドナルド事件(東京地裁2008年1月28日判決)でも、「経営者と一体的な立場にあること」を「事業経営に関する重要事項に対して実質的な関与があること」と解し、店長の管理監督者性を否定しました。

 

こうした判断に対しては学説は批判的なようです。
(井村真己氏解説「労働時間規制の適用除外」労働判例百選第9版 村中孝史・荒木尚志編 Jurist no.230 November2016 有斐閣)

 

益々悩ましい管理監督者性の判断

皆様のところでは本当に「経営者と一体的な立場にある者」の解釈を「事業経営に関する重要事項に対して実質的な関与があること」と『狭く』理解しているのでしょうか。

 

また「経営意思の形成に対する影響力が間接的なものにとどまる」ような者は管理監督者扱いはしないこととしているのでしょうか。

 

行政解釈は決して『ゆるい』ものではありませんが、「経営者との一体的な立場」については裁判所よりは広くとらえているように思います。

 

行政通達では「労働条件の決定その他の労務管理について」経営者と一体的な立場、としている一方、逆に、裁判所はこのことをあまりに『狭く』し過ぎている感がします。

 

「経営者との一体的な立場」を求められない「高度プロフェッショナル」規定が改正基準法に導入され、労働時間等の規制だけでなく、深夜労働に対する割増賃金の支払いも不要な制度が創設されたところですので、本当は、管理監督者に関する議論も働き方改革の中で行ってほしかった、という声が聞こえそうです。

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