労基法39条に規定する年次有給休暇については、法の要件がそろえさえすれば労働者は当然にその取得する権利を有し、労働者は単に取得時季を定めて使用者に伝えれば、使用者が時期変更権を行使できる場合以外は、労働提供義務のある日を休暇とする制度です。
したがって、労働者が一切年休を取得しないのも労働者の自由だったのですが、法改正により使用者が5日の年休の時季指定義務を負うこととなりました。どういうことでしょう?
5日について使用者が基準日から1年以内に時季を定めて取得させる
年休については、初めは雇入れ日から6か月継続勤務し全労働日の8割以上出勤した場合に、その後は、その基準日から継続勤務年数1年ごとに全労働日の8割以上の出勤を条件に有給の休暇が与えられるという制度です。
一週間あるいは一年間の所定労働日数の少ない労働者には、その勤務日数に按分比例した「比例付与年休」がありますが、付与日数が少なくなるだけで取得の要件は同様です。
こうして付与される年休が基準日に10日以上付与することとなると、そのうちの5日については使用者が労働者の意見を聴取しながらできるだけ希望に沿うよう時季を決めて実際に取得(消化)させなければ、使用者が基準法違反として処罰の対象(30万円以下の罰金)になる法改正が2019年4月以降適用されました。
一方で、年休の一定日数は本人の都合により取得することが本来の年休制度であることから、この5日を超える日数は使用者が指定することはできません。
計画年休に基づく年休を取得すれば、その分は時季指定義務の5日から差し引く
労働者代表と書面協定により年休を付与する時季についての定めをし、たとえば労働者に5日分は本人が自由に時季を決められる年休として残し、そのほかの日数のうち数日を協定書にあるとおりの時季に年休を取得することとするのが「計画的付与」方式です。
この場合、計画的付与日数が5日以上あり、実際にその計画年休を取得するのであれば使用者の時季指定義務はそれ以上ない、ということになります。
仮に、この計画的付与が3日分の年休しかないのであれば、使用者はあと2日についてだけ時季指定して実際に取得させるという義務が残ります。
もちろん、労働者が3日の計画的付与とは別に、自分で決めた2日以上の年休を取得していれば、もはや使用者の時季指定義務はありません。
結果として、1年以内で5日以上の年休を消化していれば、使用者の時季指定義務はなくなります。
半日単位の年休は時季指定義務の5日と調整可能
年休の取得促進の観点から問題がないとして取り扱われる半日単位の年休ですが、基準法改正によっても取扱いに変更はありません。
この半日単位を労働者が取得した場合については、使用者の時季指定義務による年休を与えた場合として取り扱って差し支えない旨の通達があります【平成30年9月7日付け基発0907第1号】。
労働者に年休取得希望を聴いた際に、半日単位の年休を希望したら、使用者が半日単位で時季指定することも差し支えないとしています。この場合、日数は0.5日として取り扱います。
時間単位年休は時季指定義務の5日とは調整できない
使用者の時季指定義務は
『労働者本人が請求した年休(半日年休を含む)』と『労使協定で定めた計画的付与年休(時間単位年休を含まない)』
についてのみ調整できる規定ですので、時間単位年休については、使用者の時季指定義務の5日から差し引くなどの調整はできません【平成30年12月28日付け基発1228第15号、平成21年5月29日付け基発0529001号】。
半日単位の年休と違い、時間単位年休は基準法にその要件等の規定が別途ありますが、5日付与義務の対象となる年休には時間単位年休が含まれていないのです。
実務上は、復職日程を考える際に、復職直後に数日間の年休を取得することも計画に含めて予定を立てることによって、5日の年休消化が可能となる方法も考えられますね。
10日以上の年休を法律上の基準日より前倒しに付与する場合
入社日が4月1日であって、6か月後の10月1日を待たずに前倒しして入社日に10日の年休を付与する会社も少なくないかと思います。
この場合、改正基準法施行規則により、法律上の基準日前に10日以上の年休を付与する日を「第一基準日」と称し、その場合は、第一基準日から1年以内に時季を定めて5日の年休を指定する義務が生じます(第一基準日から1年ごとを年休付与期間とする)。
また、第一基準日(つまり、上記の例だと4月1日)又は基準日(上記の例だと10月1日)に10日以上の年休を付与した上で、一斉付与日の統一などのためにそこから1年経過する前に、新たな10日以上の年休を付与することとした場合には、その日を「第二基準日」と称して(第二基準日から1年ごとを年休付与期間とする)、第一基準日又は基準日を始期(期間計算の起点)とし、第二基準日から1年後を終期(期間計算の終点)とする一年数カ月の「履行期間」の月数を12(月)で割った数に5(日)を掛け合わせた日数について、この履行期間中に時季を定めて与える方法でもよいとされています。
履行期間内であれば、前半だろうが後半であろうが取得時季は問いません。
10日未満の日数を年休の一部として基準日より前の日から付与する場合
4月1日に5日付与し、7月1日に5日付与した場合、7月1日に合わせて10日以上付与したことになるので、7月1日を第一基準日としてこの日から1年ごとに5日について時季を定めて取得させることになります。
もし、第一基準日の7月1日前に年休を何日か取得してあるのなら、その取得日数を5日から差し引くことになります。
5日について時季指定することに関して就業規則に規定することを忘れない
休暇に関する事項は就業規則の絶対的記載事項ですので、時季指定対象者の範囲や時季指定の方法などについて就業規則への記載が必要です。
ここまでのまとめ
❶「第一基準日」から使用者による5日の時季指定義務が発生する
❷5日の時季指定義務の履行期間に重複が生じる「ダブルトラック」が発生する場合には、第一の履行期間の始期(起点)から第二の履行期間の終期(終点)までの期間の長さに応じた日数を、これら合わせた期間中に取得させることも認められる方法
❸付与された年休日数が合算して10日に達する前に(履行期間開始前に)、その間に年休を労働者自身が時季を決めて取得した場合には、当該日数分については使用者が時季を定めることにより付与する日数から差し引く
もう一度「用語」を確認
■法定の基準日
雇入れから継続勤務期間を6か月経過した日から1年ごとに区分した各期間の初日のこと(この基準日から1年以内に時季を定めて5日の年休を付与しなければならない)
■第一基準日
基準日前で10日以上の年休を付与する日(第一基準日から1年以内に時季を定めて5日付与しなければならない)
■第二基準日
基準日又は第一基準日以降の1年以内の日で新たに10日以上の年休を付与する日
■履行期間
基準日又は第一基準日を始期として第二基準日から1年経過日を終期とする期間(履行期間の月数を12で除した数に5を乗じた日数について当該履行期間中に時季を定めて付与することができる)
出向において出向元と出向先とで基準日に違いがある場合
年休の付与日数が10日以上の出向者に対する5日の年休付与義務について、出向元事業場と出向先事業場とで基準日に違いがある場合にはどう対応すべきでしょうか。
厚労省のパンフレット「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」には、在籍出向の場合は、基準日及び出向元で取得した年次有給休暇の日数を出向先の使用者が指定すべき5日から控除するかどうかについても、取り決めによります」とあります。
では、労働時間・休暇等の労働条件は出向先の就業規則に従うという取り決めで労働者を在籍出向させた場合、どう考えるのでしょうか。
1⃣5日の年休をまだ取得させていない労働者が出向したときには、出向先の年休付与基準日にかかわらず出向元の基準日から起算して1年以内に出向先において5日の年休を時季指定しなければならないのか、それとも出向先の基準日から1年以内に時季指定することでいいのか。
2⃣また、逆に、既に5日の年休を取得してある労働者が出向した場合には、出向元の基準日から1年以内に出向先の基準日が到来した場合、出向先はその基準日から1年以内にさらに5日の時季指定を行わなければならないのか。
以上の疑問が湧きます。
上記1⃣、2⃣について厚労省に照会した労働局から回答いただきました。
1⃣について
出向元の基準日から1年以内に出向先で10日以上の年休が付与されないときには、出向元の基準日から1年以内に出向先が5日の時季指定をすることが必要。
出向元の基準日から1年以内に出向先の基準日が到来し10日以上の年休を付与する場合には、パンフレット9頁の「5日の指定義務がかかる1年間の期間に重複が生じる場合」を当てはめ、出向元における基準日から、出向先における基準日から1年間経過する日までの間において、5日を按分した日数について時季指定することになる。
2⃣について
取り決めにもよるが、出向先の基準日から1年以内にさらに5日時季指定するか、1⃣の後段のような対応を行うこととなる。
以上の回答を得ています。
5日の時季指定義務年休については少し複雑ですが、年間通じて、5日以上の年休を確実に取得できていれば何ら複雑なことはなく、法違反も生じませんので、使用者としては最低でもそれをこころがけて、労働者が年休を積極的に取得できるような社風づくりを進めることが肝要だ、ということですね。