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介護を証明する書類を提出しない者の介護休業申出は拒否できるか

介護休業は対象家族を介護するために、労働者が事業主に申し出ることによって取得することができます。この休業は、育児休業同様、育児・介護休業法で付与された労働者の権利であり、事業主が独自の判断で拒否することはできず、適正な申出があれば取得できる制度です。しかし、そもそも介護休業の申出ができない労働者がいますし、申出があっても拒むことができる場合もあります。

介護休業の申出ができない労働者

次に該当する労働者については介護休業の申出ができない者とされています。

申し出できない者❶

日々雇用される日雇い労働者は制度の対象外です(法2条)。

 

申し出できない者❷

有期雇用労働者であって、介護休業開始予定日から起算して93日を経過する日から6か月経過する日までに労働契約が満了することが明らかな者も対象外です(法11条1項)。

『93日を経過する日』とは、介護休業開始予定日を1日目として数え、93日目に当たる日のことで、例えば、2022年4月1日が休業開始予定日であれば93日経過日は、2022年7月2日となります。

その場合、『93日経過日から6か月経過する日』は、2023年1月1日となります。

なお、この「93日」に関して、その前に介護休業を既に何日か取得している場合であっても、それには関係なく、期間の計算自体は変わりません。

 

申出できない者❸

介護対象の家族について、既に3回、介護休業を取得したか、通算して93日の介護休業を取得した者も対象外となります(法11条2項)。

介護休業は同一の対象家族について3回まで、通算日数は93日までです(休業開始日から終了日までの日数には休日など勤務日でない日も含みます)。

 

以上に該当する者から仮に介護休業の申出があったとしても事業主は法律上、介護休業取得対象者ではないとして介護休業の申出を認めないことが可能です。

 

有期雇用契約の更新もあり得るときは、”労働契約が満了することが明らか”とは言えない

雇用契約の終了が客観的に明確で確定しているのなら「満了が明らか」と言えますが、介護休業の申出時点で明確ではなく、更新もあり得るような状況であれば上記の  申出できない者❷  には該当しないと解されています。

たとえば、

1⃣ 雇用契約については更新しないことがあらかじめ明示されており、「介護休業開始予定日を起算日にして93日を経過する日からさらに6か月経過する日」までに、その雇用契約期間の末日がきてしまうケース

2⃣ 契約更新はできることとなっているが、更新回数や延べ雇用期間の上限があらかじめ明示されていて、「介護休業開始予定日を起算日にして93日を経過する日からさらに6か月経過する日」までにその更新回数や延べ契約期間の上限により雇用契約期間の末日がきてしまうケース

こうしたケースでは、「満了することが明らか」として扱うことが可能です。

契約終了の条件についてはっきりと合意がある場合や労働者自身が退職を申し出ているような場合以外は、「労働契約満了が明らか」という扱いはできないということになります。

 

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有期雇用は雇用期間満了があるのだから、介護休業の取得はあり得ない?

有期雇用の労働者については、育児休業制度の適用の場合と同様、介護休業の適用に当たってもここが一番迷うところではないでしょうか。

形式的には、雇用期間が定められているので、その期間を超える介護休業はあり得ないと単純に判断するのは危険です。

雇用期間満了が客観的にはっきりと確定している状況でないのなら、有期雇用労働者にも介護休業を認めることとなります。

そして雇用期間の末日まで介護休業をする労働者は、雇用契約の更新に伴い、更新後の新たな雇用期間の初日から引き続き介護休業を予定するときは、休業取得日数が通算93日に達していない限り、3回までという取得回数の制限は適用されず、継続した介護休業を取得することになります【法11条4項】。

 

介護休業の申出があっても拒むことができる場合

労働者から介護休業の申出があったときは、その申出を事業主は拒むことができないとされています。

しかし、育児休業制度と同様に、事業所の過半数で組織される労働組合(それがない場合には、労働者の過半数を代表する者を決めてもらってその代表者)と書面による協定をし、介護休業を取得できない者を定めることができます。

ただし、法令でその範囲は限定されています。

労使協定で次の1⃣から3⃣のように介護休業が取得できないと定めた者からの申出は拒むことができるのです。

1⃣ 雇用された期間が1年未満の労働者(法12条2項)

過半数労働者代表との協定で有期雇用労働者でも無期雇用労働者であっても、勤続期間の短い者を対象から外すことができるのです。

 

2⃣ 介護休業申出の日から93日以内に雇用関係が終了することが明らかな労働者(法12条2項、規則24条)

定年を迎えるとか、あらかじめ事業主に退職の申出をしているなど雇用終了が決定している者を意味し、場合によっては退職するかも、というような雇用関係の終了が未確定、あいまいな者は含まれないことに注意が必要です。

 

3⃣ 一週間の所定労働日が2日以下の労働者(法12条2項、規則8条2号)

 

 

ここまで、介護休業の申出ができない者と申出があっても拒める者を説明しました。

まとめると、

 

介護休業の申出を拒否できるのは労使協定の締結を前提にすると、

1⃣ 日雇い労働者
2⃣ 週の所定労働日数が2日以下の者
3⃣ 雇用されてからまだ1年経過していない者
4⃣ 介護休業開始予定日から起算して93日を経過する日から6か月経過する日までに退職することが明らかに決まっている有期雇用労働者
5⃣ 介護休業申出の日から93日以内に退職が明らかに決まっている者
6⃣ 介護対象の家族について既に3回介護休業取得したか、通算して93日に達した者

このように、介護休業を認められない者については法令で限定列挙されていますので、これ以外の理由では申出を拒めないと解されているのです。

 

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介護休業の申出は対象家族が要介護状態にあることを明らかにしてしなければならない

介護休業は、要介護状態にある家族を介護するための休業ですが、そもそもこの要介護状態とは次のことをいいます。

 

負傷、疾病又は身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態(法2条、規則2条)

 

介護休業の申出は、対象家族が要介護状態にあることを明らかにしてしなければならないとされており、また、事業主は介護状態の申出があった際には、対象家族が要介護状態にある事実を証明することができる書類の提出を労働者に求めることができるとされています【法11条3項、規則23条】。

 

そんなわけで、休業申請に当たっては、家族が2週間以上にわたって介護が必要な状態であることを証明する診断書などを添付することを介護休業規程や就業規則で規定している会社もあるのではないでしょうか。

 

証明書は診断書に限定されず幅広く方法が認められている

行政は、要介護状態の事実を示す関係書類については、会社の同僚など第三者の申立書など様々な方法が可能としており、かつ、申出をする労働者に過大な負担かけることのないようにすべきもの、と通達しています(令和元年12月27日付け雇均発1227第2号)。

 

証明書類の例などについて通達で示されている

事業主が提出を求めることができる「証明することができる書類」として利用可能な書類の例などについては、以下のとおりです。

 

❶市町村が交付する介護保険の被保険者証又は医師、保健師、看護師、准看護師、理学療法士、作業療法士、社会福祉士又は介護福祉士が交付する「判断基準」(のちほど説明します)に係る事実を証明する書類

 

❷上記の証明書等に代わってそれぞれの事実が証明できる他の書類を提出することを妨げるものではなく、当該労働者の同僚等第三者の申立書の提出なども含め様々な方法が可能であること

 

❸証明方法について、介護休業申出をする労働者に過大な負担をかけることのないようにすべきもの

 

❹介護休業に関しては、特に情勢が様々に変化することがあるので、臨機応変かつ柔軟な対応が望まれるものであること

 

 
副主任
介護保険制度の要介護状態区分でいう「要介護2」以上であるとの判定書類があればそれで充分でしょうが、介護休業での要介護状態は介護保険法とは違い、労働行政が独自に示した「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」というのがあり、これで判断できるとしています。
 
 
主任

しかも、「基準に厳密に従うことにとらわれて労働者の介護休業の取得が制限されてしまわないように、介護をしている労働者の個々の事情にあわせて、なるべく労働者が仕事と介護を両立できるよう、事業主は柔軟に運用することが望まれる」とまで説明していますよね。

 

 

 
副主任
それでは、「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」をみてみましょうか。

 

 

「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」に該当すれば診断書は不要

常時介護を必要とする状態については、次の1⃣か2⃣のいずれかに該当する場合であること、とされています。

1⃣ 介護保険制度の要介護状態区分において要介護2以上であること

2⃣ 次の状態❶~⓬のうち、状態Aが2つ以上または状態Bが1つ以上該当し、かつ、その状態が継続すると認められること

 

結論を言えば、状態Aが2以上、または、状態Bが1以上該当し、それが2週間以上継続する状況であるなら、介護休業を取得するための「要介護状態」であると認められます。

そのため、その他の書類まで提出を求めることは必要がなく、診断書等の提出にこだわるのは社内規程ではそうであっても、実際上はそれは必須の手続とは言えないということです。

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