この記事は、清算期間が1か月を超えるフレックスタイム制を導入した場合に、時間外・休日労働がどのように適用されるのか改めて確認したい人や、違法な残業・休日労働とならないための注意点などについて知りたい人向けの記事です。
フレックスタイム制の基本についてはこちら⇒
法定の時間外労働に該当するのは2つある
清算期間が1ヶ月を超えるフレックスタイム制では、次の労働が時間外労働になります。
1⃣1か月における時間外労働
1か月ごとに区分した各期間で、月の実労働時間が週平均50時間を超えた時間
清算期間が1か月超えの場合、期間の始期から1か月ごとに区切り、その区切りに労働した実労働時間からその区切りの期間に応じた週平均50時間相当の労働をした場合の時間数を差し引いたものが、1⃣に当たります。
もちろん、差し引きしてマイナスになる場合は、週平均50時間の労働を上回っていないことから、1⃣の算定においては、時間外労働はないことになります。
2⃣全体を通じた時間外労働
清算期間終了時に清算期間の全体を通じて、法定労働時間の総枠を超えた時間(1⃣で計算した分は除く)
清算期間全体を通じて労働した実労働時間合計が、清算期間の長さに応じて決まる法定労働時間の総枠を超えた分がこれに当たります。
ただ、既に1⃣で一部の時間外労働分を算出済みですので、この時間数を除いて計算した結果が2⃣になります。
もちろん、差し引きしてマイナスになる場合は、法定労働時間の総枠を上回っていないことから、2⃣の算定においては、時間外労働はないことになります。
以上の1⃣ と 2⃣ を合算した時間数が、清算期間が1ヶ月を超えるフレックスタイム制における時間外労働の時間数となります。
割増賃金の支払義務は法定の時間外労働・休日労働
割増賃金を支払うことが罰則をもって義務付けられているのは、法定の時間外労働と法定の休日労働に対してです。
法定の時間外労働
法定の時間外労働の時間数は、先にみたとおりの2つの労働時間数のことです。
ここでは、週平均60時間を超えた時間外労働に対しては、割増率が25%でなく50%以上としなければならないことに注意です。
法定の休日労働
法定の休日労働は、休日が4週間で4日を下回った場合のその下回った日数のことです。
週休二日制のような場合には、4週間で8日も休日があるので、4週間で4日以上の休日が確保できることも多いはずです。
関連記事
所定の休日に少しだけ仕事をする必要があり、例えば半日勤務した場合に、その分を他の勤務日に振替し半日の休日にすることで、割増賃金を支払わなくてもよい「休日振替」を行ったことになるのでしょうか。単なる連続24時間の休[…]
広告
時間外労働と休日労働の上限規制
「特別条項付き」の36協定の締結・届出があり、限度時間を超えることができる場合で、特別条項の適用が可能なときであっても、次の制約があります。
① 法定時間外労働のうち月45時間を超える月数は6月まで(6回まで)
② 法定時間外労働の年間の上限は720時間以内
③ 時間外労働と休日労働を合わせて単月で100時間未満
④ 時間外労働と休日労働を合わせて2~6か月平均で80時間以内
関連記事
時間外労働についての新たな規制は、労基法改正により、大企業については2019年4月から、中小企業には2020年4月から適用されました。戦後に労基法が制定されて以来の、”ホント”の上限規制が規定されたのです。労使が合意して36協定を締[…]
上限規制違反になりやすいケース
清算期間全体を通じて、総実労働時間数が総法定労働時間数を超えない場合であっても、それだけでは時間外労働がないとは判断できません。
一見して、全体の清算期間内で法定の時間外労働が発生しないようにみえても、1か月ごとに区分した各期間で月の実労働時間が週平均50時間を超える時間があれば、その部分を時間外労働の発生とします。
清算期間全体を通じて法定労働時間の総枠内におさまるとしても、労働時間が特定の月にかたよるなど、労働者の負担が大きくなり得るところ、これのブレーキとして月単位での時間外労働の考えが導入されているからです。
清算期間の最後の月に残業が少なくても、大きな時間外労働が算出されることもあります。
清算期間終了時点で清算期間内の法定労働時間の総枠を超える時間数を算定する必要があります。
この算出された時間は清算期間が終了する月の時間外労働とされています。
そのため、最後の月の時間外労働については、その月だけの時間外労働のほか清算期間全体の時間外労働も合算した時間数となってしまうのです。
年間で時間外労働が45時間を超える回数が6回を超えるおそれがあります。
1か月ごとの期間で限度時間を超える特別条項付き36協定の締結があった場合でも、各月の時間外労働と各清算期間ごとの全体の時間外労働が算出されますので、各々が45時間を超えると、年間で45時間を超える回数が6回までの規制があるところ、これを上回ってしまい法違反が生じることがあり得るのです。
特に、各清算期間の終了月では、その月の時間外労働と清算期間を通じた時間外労働が合算されることから、45時間を超える可能性が大きくなります。
そこで、各月単位の時間外労働だけでなく、清算期間終了月特有の時間外労働の算出合算による影響は要チェックです。
清算期間終了月には、時間外労働・休日労働の時間数が100時間を超え法違反が生じる場合があります。
清算期間終了月に休日労働があり、さらに清算期間を通じた時間外労働を算出すると、それらの合算時間が清算期間終了月の時間外労働・休日労働の時間数となります。
その結果、その月に限って時間外・休日労働時間数が100時間を超えることになる場合があり得るのです。
2~6か月平均で80時間を超え法違反が生じる可能性があります。
時間外労働と休日労働を合わせて、2~6か月平均80時間以内でなければならないところ、80時間を超える場合があり得ます。
清算期間終了月では時間外労働・休日労働の時間数が多めに算出される仕組みから、清算期間終了後の次の清算期間が開始されてから時間外労働・休日労働が比較的多い場合には、それらの清算期間をまたがって平均した場合に1月当たり80時間を超える可能性が大きいからです。
広告
まとめ
清算期間が1か月超えのフレックスタイム制においては、各月ごとの週当たり50時間の枠を超える時間数の清算と、清算期間終了月における清算期間全体の時間外労働の清算、これに休日労働の加算があり、思ってもいない時間外労働・休日労働の時間が算出されてしまうことがあります。
日々の始業・終了時刻を労働者に委ねるという制度本来の趣旨に沿って、各月の繁閑の違いをあらかじめ見込んだ上で、清算期間や対象労働者を労使で協定するよう注意する必要があると言えます。
関連記事
変形労働時間制の一つであるフレックスタイム制を導入する場合には、就業規則の規定だけでなく労使協定の締結も必要です。制度導入のために必要な要件など基本事項を整理しました。フレックスタイム制の適用のために必要な二つの要件[…]
関連記事
時間外・休日労働のための36協定や就業規則を労働基準監督署へ届け出るなど、いくつかの手続において労働者の過半数代表者との労使協定の締結等が労基法で義務づけられていますが、その際の過半数代表者についての適正な選出手続、要件などを整理しました。[…]