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労使協定における労働者の過半数代表者の選出方法と資格要件とは

時間外・休日労働のための36協定や就業規則を労働基準監督署へ届け出るなど、いくつかの手続において労働者の過半数代表者との労使協定の締結等が労基法で義務づけられていますが、その際の過半数代表者についての適正な選出手続、要件などを整理しました。

労働者の代表と労使協定の締結などが求められるもの

労基法は、次の表に示した労働時間や休暇・休憩などに関する12種類について、労使協定の締結を行う際の労働側の当事者については、「労働者の過半数で組織する労働組合」がある場合にはその「労働組合」になりますが、それがない場合には「労働者の過半数代表者」が当事者になる旨規定しています。

賃金控除や一斉休憩の除外に際して締結される労使協定や就業規則の意見書提出などにおいても同様なことが労基法に規定されています。

  

こうした労使協定に関しては、労基法ばかりでなく、育児・介護休業法や高年齢者雇用安定法など他の法律にも同様な規定があります。

労働組合の支部やその代表者がいない事業場でも当事者が労働組合になる

 

労働者の過半数で組織する労働組合があっても、その事業場では労働組合員が労働者の過半数を占めていない場合には、労働側の当事者は労働組合ではなく、労働者の過半数代表者になります。

一方、その事業場には労働組合の支部や分会もなく、その代表者も置かれていない場合であっても、その事業場の労働者の過半数が同一の労働組合に加入しているときは、当該労働組合が労使協定等の当事者でなければなりません(昭和36.9.7基収4932号、平成11.3.31基発168号)。

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労働者の過半数代表者になる要件

 

当事者が労働組合でなく労働者の過半数代表者になる場合の代表者要件は、次の 1⃣ 及び 2⃣ のいずれにも該当する者とされています(労基則6条の2第1項)。

1⃣管理監督者(労基法41条2号)の地位にある者でないこと
2⃣法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であって、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと
以前は行政解釈で示されていましたが、現在は労基則(省令)に規定されています。

過半数代表者の選出手続として適法なもの不適当なもの

代表者の選出に当たっては、投票、挙手のほか労働者の話合い、持ち回り決議など労働者の過半数が当該者の選任を支持していることが明確になる民主的な手続きであればよいとされています(平成11.3.31基発169号)。

適法なもの

◆朝礼などで全労働者が集合する場で、挙手により選出
◆選挙を実施して過半数の信任を得た労働者を代表者とする
◆回覧をして労働者の過半数の署名により信任を受ける

不適法なもの

◆労働者代表の選任手続きを経ないで、親睦団体や共済会などで選出された代表者を自動的に過半数代表者に転用
◆会社が指名や指示をすることで過半数代表者を選出

こうした不適法な選出をした場合は、適法な労働者の過半数代表者としては認められないため、その者との労使協定の効力も否定されてしまいます。

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過半数代表者の選任時期

労使協定の締結や意見書提出などその都度、過半数代表者を選任する必要があります。

任期制とすることは法律で禁止されていませんが、過半数の代表者は「法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして」選出されることが求められていますので、その場合は、どの協定締結等に関する代表であるかを正確に規定しておく必要があります。

過半数代表者の選出手続きには管理監督者は除外されない

労使協定の締結等の際に労働者の過半数代表者を選出するという場合、その労働者に含まれない者は誰でしょうか。

労使協定は事業場のすべての労働者の過半数の意思を問うもの

労基法の36協定における労働者の範囲に関する疑義照会に対する回答という形で行政解釈が示されています。

「当該事業場において法律上又は事実上時間外労働又は休日労働の対象となる労働者の過半数の意思を問うためのものではなく、同法第18条、第24条、第39条及び第90条におけると同様当該事業場に使用されているすべての労働者の過半数の意思を問うためのもの」(昭和46.1.18基収6206号、昭和63.3.14基発150号、平成11.3.31基発168号)
つまり、過半数代表者の選出に当たって母数の労働者とは、労基法第9条の労働者であり、事業場に在籍している限りその労働者から除外する理由はない、と解されているのです。
したがって、管理監督者を含め、病欠者、休職者、育児休業取得者、パート・有期雇用労働者、アルバイトや年少者など労使協定の対象になり得ない者も過半数代表者の選出の際の労働者にカウントされます。
労使協定の有効期間内に退職が明らかな臨時雇用労働者もこの労働者に含みます(昭和36.1.6基収6619号、平成11.3.31基発168号)。
選出された代表者が次の場合でも何ら問題はありません。
◆法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして民主的な手続きにより選出された者が、複数の協定締結等のための代表者を兼ねること
◆締結する協定の有効期間内で退職することが明確な者が代表者に選出されること

出向者はどちらの事業場の労働者にカウントされるか

出向者は、出向先、出向元のどちらにも在籍している状態ですが、どちらの事業場の労働者の過半数算定に含まれるかについては、出向契約の内容にもよります。

一般には、労働時間、休憩時間、休日、時間外労働・休日労働、年次有給休暇に関する規定の履行は実際に就労し勤務管理を行う出向先がその義務を負うと考えますので、それに関する労使協定の締結に当たっては出向先の労働者に含め、出向元の労働者からは除きます(昭和35.11.18基収4901号の2、平成11.3.31基発168号)。

貯蓄金協定、賃金控除協定、年休の賃金に関する労使協定に関しては、出向者の賃金を支払うのが出向元であるなら出向元の労働者としてカウントし、賃金支払が出向先なら出向先の労働者として扱います。

仮に、貯蓄金協定に関してのみ出向者にも出向元事業場の労働者として適用があるのなら、その労使協定に関しては出向元の労働者としてカウントします。

参考記事

政府は在籍出向が雇用維持に資するとして出向支援の立場にあります。厚労省では、ホームページに在籍出向専用サイトを立ち上げましたし、2021年2月には経済団体、労組、金融団体、中央官庁、出向支援機関である(公財)産業雇用安定センターから[…]

頬杖する女性

役員や派遣労働者の扱い

事業場に在籍している労働者のすべてが過半数代表の選出の際の母数になる労働者に含まれることから、取締役であっても工場長や部長職に就いて、労働の対価として報酬を支払われている場合は、その限りで賃金を支払われる労働者として、過半数労働者の算定にカウントされることになります。

参考記事

株式会社には、「執行役員」という「取締役」ではないものの、一般の社員とも違う地位や責任を負った方を選任する場合があります。この執行役員は、労働基準法や労働契約法の「労働者」に該当せず、年次有給休暇制度や労災補償の対象にはならないのでしょ[…]

コートを着た歩く男

派遣労働者は派遣元の事業場の労働者であり、派遣を受け入れている事業場の就業規則も36協定も適用されませんので、派遣労働者は派遣先の過半数労働者の算定に含みません。

管理監督者しかいない事業場では労使協定の当事者は誰になるか

労働者の過半数代表者には、労基法の労働時間、休憩、休日の規制の及ばない管理監督者は原則として就けません。

しかし、仮に管理監督者しかいない事業場においては、次の協定締結等に関しては管理監督者の中から労働者の過半数代表者を選出することになります(労基則6条の2第2項)。

●貯蓄金委託管理協定(労基法18条2項)
●賃金の一部控除協定(労基法24条1項ただし書)
●時間単位年休協定(労基法39条4項)
●年休の計画的付与協定(労基法39条6項)
●年休の賃金に関する協定(労基法39条9項ただし書)
●就業規則作成変更に係る意見(労基法90条1項)
これらに関する労使協定等の労働者側当事者は、管理監督者の中から、「法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であって、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと」に該当する者を過半数代表者に選出することになります。
参考記事

労基法41条では、週40時間、1日8時間以内といった労働時間の原則や勤務途中の休憩付与、4週間で4日の休日付与といった労働時間・休憩・休日に関する規制が適用されない者のひとつとして、事業の種類とは無関係に「監督もしくは管理の地位にある者[…]

不利益取扱いの禁止

 

使用者は、

◇労働者が過半数代表者であること
◇過半数代表者になろうとしたこと
◇過半数代表者として正当な行為をしたこと

を理由として不利益な取扱いをしないようにしなければなりません(労基則6条の2第3項)。

 

使用者の配慮義務

 

使用者は、過半数代表者が法に規定する協定等に関する事務を円滑に遂行することができるよう必要な配慮を行わなければなりません(労基則6条の2第4項)。

具体的には、過半数代表者が労働者の意見集約等を行うに当たり、必要となるイントラネットや社内メール、事業場スペースの提供を行うことが含まれます(平成30.12.28基発1228第15号)。

 

過半数代表者と労使協定の締結等を行う使用者側は誰か

労使協定の締結等の際の使用者側の当事者は労基法10条に規定する使用者になりますが、事業場の長に限定されていません。

事業場の労使協定の締結等の責任者のほか、当該事業場の総括代表者たる者も当事者として可能と解されています(昭和36.9.7基収1392号、平成11.3.31基発168号)。

例えば、労働時間管理の権限を有する使用者が36協定の締結当事者となるところ、その権限がある各支店長ではなく、各支店長の総括代表者である本社の代表取締役に一本化してもよいわけです。

参考記事

就業規則の作成・変更届と休日・時間外労働の労使協定(36協定)届については、本来は各事業場単位で行う必要がありますが、複数の事業場を有する企業において要件がそろえば、本社が一括して行うことも認められています。2021年4月以降は提出する[…]

携帯電話を耳に当てる外国女性

 

まとめ

労働者の過半数代表者の選出の意味や特性等を踏まえ適正な選出方法や代表者の要件などを整理しました。

簡単なようですが、36協定の労使協定などほぼ毎年手続きが必要になるものがあらかじめ分かっていることでしょうから、労働組合が組織されていない事業場に関しては、「回覧用紙の雛形を職場に提供する」等会社からの働きかけの工夫やツールの提供など配慮することが円滑な事務処理を図る上でも有益と考えられます。

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