労働基準監督官はホントに抜き打ちで事業場を訪れ、労働条件や安全衛生に係る遵法状況をチェックします。これを『臨検監督』と言います。行政としての監督指導の実施方法の一つです。その臨検監督を受けたときには会社はどう対応するのが適切なのでしょうか?
監督官の臨検は日本だけでなく国際的な基準
労働基準監督官が実施する事業場への臨検は、事業場には連絡せず唐突に行うのが大原則となっています。
これは日本国だけにかぎらず、国際労働機関(ILO)条約で謳われていることなのです。
正当な証明書を所持する労働監督官は、次の権限を有する。
(a)監督を受ける事業場に、昼夜いつでも、自由にかつ予告なしに立ち入ること。
ただ、場合によっては、事前の連絡により必要な準備を依頼することもあり、それはその必要がある場合の臨検だと受けとめましょう。
なお、労働基準監督官が事業場を訪問することが常に「臨検」目的という訳でもありませんの、一応念のため。
臨検は事業場に何か問題があるから実施されるのか
労働基準監督署では、その管内での遵法状況などを踏まえ、どういう目的で、どの業種、規模の事業場をいつ頃臨検するかについて計画を毎年策定しています。
そういった計画的な臨検のほかに、労働者から権利の救済を求める申告を受けた場合のように、労働基準法違反などの違法状態がありそうだと受け止められた事業場には、適宜臨検をします。
突然の臨検には多忙等を理由に他日に変更を申出できるのか
監督官の立ち入りや調査を拒んだり、妨げたりした場合には、労基法により処罰の対象になるとはいえ、抜き打ちで来られた場合に、対応できる者が不在で困るときがあるかと思います。
幹部や担当者がいないなどにより、会社として臨検対応が困難だとして監督日を他の日に変更するよう依頼はできます。
が、臨検の目標や事業場の状況によっては、誰か立ち合いがいれば済むからと臨検を続けることもあり得ます。
監督官が基本的状況を見聞きしてから、後日、具体的な説明を求めるため担当者の監督署への来署を求め、署内でじっくり行政指導を行うこともあり得ます。
臨検拒否と評価されるような悪意ある対応さえなければ、通常は後日の再度の臨検か来署通知による呼び出しなどになろうかと思います。
大事なことは、臨検によりどういう行政指導になるかの「中身」の方ですので、入り口でもめることで得る利益はないので、臨検の先伸ばしなどの画策は意味の無いことでしょう。
労働基準監督官への『申告』は”密告”か
労働者は、労働基準法に違反する事実について労働基準監督署や労働基準監督官に申告することができます。
厚労省調べによると、平成30年度には全国で約2万5千件もの申告受理があったそうです。
それは法で認められた正当な権利であり、使用者はこの申告を理由として労働者に不利益取扱いをした場合には、最高で懲役6箇月の刑に処せられる旨規定しています。
ですので、仮に労働者が監督署に申告したことが判明しても、使用者としてはそれをお咎めず、事業場に申告されるような問題があったことのほうを問題視するのが健全な会社でしょう。
2 使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。
『是正勧告書』『指導票』により行政指導を受けたら是正・改善報告を行う
「是正勧告書」は明らかに法違反状態にあることに対しての行政指導文書です。
是正すべき期日が明記され、期日までに是正しないと送検の手続をとることがある旨の警告を付されることもあります。
「指導票」は、法違反とまでは言えないが、改善すべき事項、問題の再発防止策などについて報告を求める指導文書です。
是正期日については、社内の諸事情も踏まえ、現実的な期日になるよう相談は可能です。ただ、労働時間などについてはただちに是正する必要があり、期日は「即日」とされるでしょう。
なお、是正期日までに是正措置が完了しないときには、前もって労働基準監督官に連絡して是正期日の延長を相談できます。
是正報告の内容がどのようなものになるか説明し理解を求めておくことが肝要です。
労働基準法が改正され、2020年4月からは未払いの賃金を請求できる労働者の権利は3年経過すると時効により消滅し、以後は使用者が時効を理由に支払わないことが認められます。この時効消滅の期間は、それまで2年だったのが5年に延長されたのですが[…]
臨検はそのときの対応が大変なのではなくその後の労務管理体制の構築が重要
以上見てきたように、臨検そのものに対する対応は、照会については誠実に回答し、その結果、是正方の行政指導があれば、監督官に率直に相談し、必要な教示を受けながらどういう改善の方法があるか検討し、是正措置をとって報告すれば一件落着です。
その後、数年間、臨検を受けることがない場合もあれば、翌年また臨検を受けることもあります。
是正の報告を行った際に、それを現認しに再度臨検を受けることもあります。
ですので、臨検対応に振り回されるのではなく、臨検において指摘されたような問題を将来に向かっても生じさせない社内体制、企業文化の構築を図ることが重要であり、そこにエネルギーをつぎ込むことの方が重要なんだと思います。
臨検は無料で労務管理に関するコンサルタントを受けること、社内で大きな問題に膨らむ前に改善の方向性や方法を教示してもらえる、と思えば、こんな有難いことはない(?)のではないでしょうか。
臨検を機に労働基準監督官との距離を縮めよう
どういう背景・事情で監督官から監督指導を受けることとなったのかについて十分な整理・分析を行い、将来に向かって同種の問題を生じさせない方策を確立することが重要だと考えられます。
そういうことが社内で行える企業は、ほかの労働関係の諸課題にも適正な取組みが図られるものと考えられます。
そのためにも何か労務管理上の課題が生じた際には、せっかくお近づきになった労働基準監督官ですので、気楽に相談やら情報の提供を求めるなど、会社が監督官を有効活用する発想をもつことは”有り”だと考えます。
行政には多くの情報、資料があり、照会するといくらでも(?)分かりやすいパンフレットなども含め無料で提供してもらえます。
相手は公務ですので、民間が大いに活用するという考えに立つべきかと考えますが、いかがでしょうか。