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コートを着た歩く男

退職金が支払われ部長から執行役員になった者は労働者ではない?

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株式会社には、「執行役員」という「取締役」ではないものの、一般の社員とも違う地位や責任を負った方を選任する場合があります。この執行役員は、労働基準法や労働契約法の「労働者」に該当せず、年次有給休暇制度や労災補償の対象にはならないのでしょうか。

 

1⃣ 役員等についての労働者性を判断する際の考慮要素は何か

2⃣ 執行役員であろうと取締役であろうと、労働者性が認められることがあること

3⃣ 執行役員は基本的に社会保険の適用があり、労務対償性の部分については労働保険の適用対象になること

 

執行役員は『重要な使用人』

まずは、取締役との違いについて

取締役は、会社の取締役会を構成し、会社業務の執行について意思決定を行い、取締役の中から業務執行取締役が選定されている場合は、その取締役が取締役会の監督の下、業務執行を担うといった、会社を代表する権限と業務執行権限のある会社経営者です。

取締役会がない会社では、取締役の過半数によって会社業務の執行について意思決定と執行を担います。

では、「役員」という名称のついた執行役員ですが、取締役との違いは何でしょうか。

執行役員については、もともと経営陣の不祥事を契機に誕生した経緯があるようですが、取締役には本来の経営業務に専心してもらうため、取締役の減員、審議迅速化、会社監督と執行の分担を図るために設置された業務執行担当です。

執行役員は一般には、取締役会で選任され、取締役の指揮監督のもと業務執行を担当します。

 

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執行役員は法的根拠がない

取締役や監査役については会社法において、株主総会の決議で選任、会社とは委任の関係に立つことなど、地位や責任、任期や選任・解任、報酬などに関する規定が置かれています。

一方、執行役員については、会社法でそうした特段の規定は置かれず、任意の制度として広まったいわば会社運用上のポストです。

このように、執行役員制度については法の根拠はないことから、
「会社法制上は一種の『重要な使用人』と位置づけるほかない」(菅野和夫 労働法第11版補正版174頁)
と解されています。

 

執行役員の労働者性は個々のケースごとに判断される

執行役員が、会社法でいう「重要な使用人」であれば、使用される人、つまり取締役(経営者)ではないとも言えます。

それでは、執行役員は会社内で「経営陣のひとり」と位置づけていても労働者になるということでしょうか。

会社によっては、執行役員への就任が決まれば、従業員としての退職金を支給し、会社とは形式的には委任契約に切り替えるなど、労働者を卒業した扱いをしているところもあるようです。

ただ、そうした場合であっても、執行役員の労働者性については、その業務実態で最終的に判断されるものと考えます。

 

執行役員が担う業務が、
●業務執行権を有する経営担当の業務や権限に該当すると言えるのか否か
●誰かの承認・決裁を得ながら業務執行を行っているのか否か
●報酬の労務対償性があるといえるのか否か
などの実態判断によります。 

 

 

 
副主任
退職金まで支給されているんだったら。もう労働者扱いはしなくていいのでは?
 
 
主任
定年時でも退職金を支給後、再雇用契約を交わしシニアとして継続雇用、つまり労働者として雇用されてますよね。
 
副主任
うーん、退職金支給だけでは決め手にならんか。

 

 

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執行役員の労働者性に関する裁判事例がある

亡くなった執行役員の遺族が労災保険給付を求めて裁判になった事例があります。

労災は労働者に対する補償ですので、執行役員が労働者に当たるかが争点になりました。

 

 

◆船橋労基署長遺族補償支給処分取消等請求事件(東京地裁 平成23.5.19判決)
執行役員だった者が亡くなったのは、過重労働に起因する労災であるとして、遺族が労基署に労災保険の遺族補償給付等を請求したところ、労基法上の労働者に該当しないとして不支給の決定があったため、その処分の取り消しを求めて訴訟となりました。

裁判所の判決主旨

・亡くなった執行役員は一般従業員のときに理事に就任し、次いで取締役、執行役員に就任する一連の経過を通じて、一貫して一般従業員の管理職が行う営業・販売業務に従事し、業務実態に質的変化はなかったということができる。

・執行役員は法律上定められた業務執行権がなく、執行役員として経営会議に出席し、経営計画委員会の委員の活動をしていたといっても経営担当者に当たるとはいえない。

・執行役員の地位にあったが、業務実態は、会社の指揮監督の下に業務執行権の一部を分担してそれを遂行し、その対価として報酬を受けていたということができ、従業員としての実質を有していた者と認められるから労災保険法(労働基準法)上の労働者に該当するというべきである。

 

この事件では執行役員が理事に就任したところで退職金が支払われていますが、裁判所は

「一つの区切りとして退職金を支払うこととしているという事実上の取扱いであると解されるから、理事の地位や権限に関する認定判断等を左右するものではない」

旨判示し、既に退職金が支給されていることは何ら決め手にはならないことを示しています。

 

また、会社との関係が雇用契約ではなく委任契約だとの主張に対して、裁判所は

「執行役員規程は従業員の地位を有する執行役員の存在を想定している」
「従業員を兼務する取締役がいることが認められ、取締役であるからといって単純な委任契約であるということはできない」
「業務実態は一貫して会社の指揮命令を受けて業務に携わっている」
委任契約ならば委任する業務内容を変更する際にその旨別途合意が必要と解されるが、多数回にわたって役職変更が行われたが、その証拠がない

という指摘をして、会社が使用者としての立場からその時々の必要性等に基づき、業務命令として役職変更を行ったものと推認するのが相当である、とし、従業員時代と法的性質に違いがないと判断しました。 

 

執行役員は、業務執行権の一部を分担して執行する担当者であり、法的根拠のない任意の制度であること、一般に取締役や取締役会の監督を受けることと併せ考えると、会社経営担当者であると解することはできないでしょう。

 

ということで、一般には、会社と執行役員との関係が委任契約であることが明々白々でない限り、雇用契約、つまり、労働者性が認められる可能性はかなり高いと考えた方が良さそうです。

使用人兼務取締役の労働者性が認められるケースもあるぐらいですので……。

なお、会社法では、委員会(指名・監査・報酬委員会)設置会社の取締役は使用人と兼務することは禁止(法331条3項)、監査役についても使用人と兼務することを禁止(法335条2項)としています。

関連する行政通達もある

 

 

法人の重役について労働基準法上の労働者性に関する通達があります。

 

法人のいわゆる重役で業務執行権又は代表権を持たない者が、工場長、部長の職にあって賃金を受ける場合は、その限りにおいて法第9条に規定する労働者である。

【昭和23.3.17 基発461号】

労働基準法にいう労働者とは、事業又は事業所に使用される者で賃金を支払われる者であるから、法人、団体、組合等の代表者又は執行機関たる者の如く、事業主体との関係において使用従属の関係に立たない者は労働者ではない。

【昭和23.1.9基発14号、昭和63.3.14基発150号、平成11.3.31基発168号】

法人や団体の代表者や執行機関である者は賃金ではなく、役員報酬を受けることとなり、その点では労基法上の労働者にはなり得ないでしょうが、

❶ 代表取締役、専務取締役などの代表権限や執行権限を有しておらず

❷ 上記❶による指揮監督を受けて工場長、部長などの使用人の労務に従事し

❸ 報酬が使用人の労務の対価としての賃金の性質がある

以上のような者(使用人兼務取締役など)は、取締役等の役員の地位と労基法上の労働者としての地位を併存することもあり得ることに留意です。

 

労働保険審査会の裁決で示された取締役の労働者性についての判断要素

亡くなった会社の取締役の遺族が、業務上の死亡であるとして労災保険の給付を求めたところ、労働者性が否定されたことから、再審査請求を行った事件について判断した労働保険審査会は、労働者性の判断の要素等として次の❶と❷をあげています(平成28年労第500号再審査請求事件等)。

 

 労災保険法の労働者は労働基準法の労働者と同義

 取締役の労働者性については、

●取締役就任の経緯
●会社における地位
●定款上の業務執行権の有無
●取締役としての執務の具体的な内容
●拘束性の有無及び内容
●業務に対する対価の性質及び額
などの事情を総合的に考慮して、会社の実質的な指揮監督関係、従属関係に服していたか否かという観点から判断するのが相当と解される。

 そうして、本事件における取締役については、

会社全体の経営判断に関わる重要な意思決定に参画

事業部を統括し、事業部の事業方針につき広範な裁量権の下でその方針や業務内容を決定し、傘下の従業員を指揮監督する立場にあり、他の従業員と同様の業務に従事していたものではない

勤務時間の管理を受けず、自らの裁量で執務する時間を決めている

当初から取締役として勤務時間に対応しない定額の役員報酬を受領

自由に使用できる社用車の貸与も受けていた

などにより、

会社の指揮監督の下で労務を提供し、その労働の対価として賃金たる報酬を受け取る立場になく

会社の実質的な指揮監督関係ないし従属関係に服す従業員としての実質を有する者であったとは認められない

として、労働者性は否定されました。

 

執行役員の報酬の性質、会社との使用従属性など労働者性の判断要素を検討

執行役員の労働者性についても、取締役と同様な事情を考慮して総合的に判断することが適当と考えます。

会社とは委任関係にあるといっても、その実態次第では委任関係が否定され、雇用関係が認められることもありますので、形式的な判断にとどまらないように注意すべきです。

考慮要素に沿って執行役員に関する事情を列挙すれば、

●執行役員就任の経緯
●会社における地位
●定款上の業務執行権の有無
●執行役員としての執務の具体的な内容
●拘束性の有無及び内容
●業務に対する対価の性質及び額

 といったものが挙げられます。

 

例として次のような実態に当てはめてみると、

執行役員への就任経緯としては、取締役会による選任
会社内の地位としては、部長より上位の高級管理職だが取締役ではない
定款上業務執行権は付与されていない
執務は担当取締役の指揮監督(承認を得ながら)特定部門業務の執行を担当
管理監督者としての裁量権はあるが、会社からの業務執行要請や担当部門の変更指示に対する諾否の自由はない
再委託などできず代替性もなく、会社への専属性も求められる
報酬については所得税が源泉徴収されており、事業所得として確定申告を行うこととされていないなど外形上も報酬が賃金であることを否定していない

以上の考慮要素による整理ができる場合は、会社(担当取締役)の指示の下、労務提供に対する報酬を得ているとして、労働者性が認められるものと考えます。

つまり、

執行役員は、会社とは委託関係にあるとか、既に退職金は支給済みであるとか、報酬の名称は役員手当であるとか、そういった労働者性を否定するような事情があったとしても、実態判断を丁寧にすれば、会社との関係性については雇用関係と解されることは少なくないことだと考えます。

 

労働保険・社会保険の適用の考え方

最後に、参考までに、いわゆる会社の重役などに対する社会・労働保険の適用についての基本的な考え方を次のとおり整理しました。

1⃣労災保険

原則として、法令、定款等の規定に基づいて業務執行権を有すると認められる者以外の者で、事実上、業務執行権を有する法人の取締役、理事、代表社員等の指揮、監督を受けて労働に従事し、その対償として賃金を得ている者は労働者となリます。

【昭和34.1.26基発48号】

したがって、代表権や業務執行権を有する取締役には適用はありませんが、支店長や営業統括部長などの役職に就き、報酬の労務対償性がある限度で適用されると整理できますので、執行役員についても同様な扱いが可能で、役員報酬ではなく賃金部分について保険料算定を行います。

2⃣雇用保険

法人の代表取締役は被保険者にはなりません。

その他の取締役などについては、次の要件を満たすなら被保険者となります。

❶代表者以外の取締役であること

❷会社の部長、支店長など従業員としての身分を有すること

❸報酬支払等の面からみて労働者的性格の強い者であること

【行政手引20351】

つまり、取締役であっても支店長や営業統括部長などの役職に就き、報酬の労務対償性がある限度で適用されると整理できますので、執行役員についても同様な扱いが可能で、役員報酬ではなく賃金部分について保険料算定を行います。

3⃣厚生年金・健康保険

法人の代表者又は業務執行権者であっても、法人から労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者の資格を取得できます。

社団又は組合の総裁、会長及び組合及び組合長等その団体の理事長の地位にある者、又は地方公共団体の業務執行者についても同様な取扱となります。

労基法上の労働者性が認められない場合であっても、「法人に使用される者」として、代表取締役も被保険者となり得ますので、執行役員についても他の役員同様、被保険者となります。

【昭和24.7.28 保発74号】     

 

参考記事

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まとめ

コートを着た歩く男

執行役員となった従業員は一定の高みに達した喜びを味わうかもしれません。

しかし、会社経営との一体性を求められるとはいえ、その労働実態の面では「管理監督者」とほぼ同様な状況と捉えるのが妥当でしょう。

執行役員は取締役ではないし、法的根拠のない会社内の重要な立場に立つ従業員のひとつと理解した上で、その実態により労働法の適用対象となることが一般的であると考えるべきでしょう。

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