企画業務型裁量労働制は、労使委員会が、①対象業務、②対象労働者の範囲、③対象労働者が対象業務に従事したときの「みなし労働時間」、④その他苦情処理や健康確保措置、などについて決議し、これを労基署に届け出た場合に、対象労働者について「みなし労働時間」勤務したとする制度です。
その対象労働者が、対象業務に主として従事するものの、労使委員会でも決議されていない非対象業務にときどき従事するなどの場合には、みなし労働時間制は適用されなくなるのでしょうか。
2⃣ 非対象業務が臨時的に発生したときはその従事した労働時間は加算すること
対象業務は事業運営に関する事項についての企画、立案、調査、分析の業務
対象業務が存在する事業場においてのみ実施可能
この制度は、事業運営上の重要な決定が行われる本社に限定されませんが、「対象業務」が存在する事業場においてのみ実施可能とされています。
対象業務の特性から、この制度が実施可能な事業場は、
●本社・本店の具体的な指示を受けることなく独自に事業運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行う支社・支店など
に限定されます。
対象業務は4要件すべてに該当するものに限定
その対象業務というのが、基準法38条の4で次のように規定されています。
つまり、具体的には、労使委員会の決議で明らかにしなければなりませんが、次の4要件のすべてに合致する必要があります。
対象業務の要件
❶ 事業の運営に関する事項についての業務であること
❷ 企画、立案、調査及び分析の業務であること
❸ 当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務であること
❹ 当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務であること
このように、企画業務型裁量労働制が適用される業務は、企画、立案、調査、分析といった相互に関連しあう作業を、いつ、どのように行うかについての広範な裁量が労働者に認められている業務ということになります。
法38条の4に基づく「業務に従事する労働者の適正労働条件指針」には、もう少し具体的に、対象業務となり得る例と、なり得ない例を次の図表のとおり示しています。
担当部署 | 対象業務となり得る業務の例 | |
1 | 経営企画 | 経営状態・経営環境等について調査及び分析を行い、経営に関する計画を策定 |
2 | 経営企画 | 現行の社内組織の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな社内組織を編成 |
3 | 人事労務 | 現行の人事制度の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな人事制度を策定 |
4 | 人事労務 | 業務の内容やその遂行のために必要とされる能力等について調査及び分析を行い、社員の教育・研修計画を策定 |
5 | 財務経理 | 財務状況等について調査及び分析を行い、財務に関する計画を策定 |
6 | 広報 | 効果的な広報手段等について調査及び分析を行い、広報を企画・立案 |
7 | 営業に関する企画 | 営業成績や営業活動上の問題点等に関する計画を策定 |
8 | 生産に関する企画 | 生産効率や原材料等に係る市場の動向等について調査及び分析を行い、原材料等の調達計画も含め全社的な生産計画を策定 |
〈厚労省指針を基に整理〉
✖ 対象となり得ない業務の例 |
経営に関する会議の庶務等 |
人事記録の作成及び保管、給与の計算及び支払い、各種保険の加入及び脱退、採用・研修の実施等の業務 |
金銭の出納、財務諸表。会計帳簿の作成及び保管、租税の申告及び納付、予算・決算に係る計算等の業務 |
広報誌の原稿の校正等の業務 |
個別の営業活動の業務 |
個別の製造等の作業、物品の買い付け等の業務 |
〈厚労省指針を基に整理〉
労使委員会で4要件を満たさない業務を対象業務として決議しても効力はない
制度の適用となる対象用務は、4要件のすべてに該当することが必要です。
労使委員会で、その全部又は一部に該当しない業務を対象業務として決議しても、「労働時間のみなし効果」は生じません(業務に従事する労働者の適正労働条件指針第3の1(2)留意事項イ)。
対象労働者は対象業務に常態として従事している必要
対象労働者は、「対象業務を適切に遂行するために必要となる具体的な知識、経験等を有する労働者」である必要がありますが、対象業務には常態として従事していることが原則です。
●期初、期末における目標設定、成果評価等に必要な会議への出席や関係者等との打ち合わせ等時間配分に関し拘束を受ける場合が生じ得るものであり、
●自己の業務に関する情報・資料の収集、整理、加工等を行うこともあり得るものであるが、
●これらの作業は、企画、立案、調査及び分析の業務の不可分な一部分を構成するものとして、当該業務に組み込まれているものと評価できることから、これらの業務を含めた全体が対象業務と評価されるものであり、
●対象労働者は、そのような対象業務に常態として従事することが必要となるものであること。
非対象業務が混在する場合の制度適用の扱い
以上のことから、次の2点のことが言えます。
2⃣ 対象業務には常態として従事している必要があるが、業務に非対象業務が混在しているときで、その業務が対象業務と不可分の一部分を構成するものとして組み込まれていると評価されない場合には、全体として対象業務に常態として従事しているとは認められないこと
そうすると、
❷ 当初、非対象業務が予定されていなかったところ、臨時的に非対象業務に従事することとなった場合には、この非対象業務は制度の適用がないため、これに従事した労働時間は「みなし労働時間」とは扱えませんので、その日の労働時間はこれらの時間を合算する必要があります。
以上のような整理ができます。