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災害等の場合に36協定がなくても時間外労働等が可能な臨時業務

災害や避けることのできない事由によって臨時の必要のある場合、36協定の締結がなくても行政官庁の許可を受けて、法定労働時間を延長したり、休日労働をさせることができます(労基法33条1項)。事態急迫のため許可を受ける暇がないときには、事後に遅滞なく行政官庁に届出る必要があります。
では、具体的にどんな業務なら許可されるのでしょうか。

行政官庁の許可、事後届出義務

法定労働時間の延長や法定休日に労働することについては規制があり、これに違反すると処罰の対象になります(労基法32条、35条等)。

しかし「災害その他避けることのできない事由」によって「臨時の必要」がある場合に許可があれば、「その必要の限度において」上限規制にかかわらず時間外労働や休日労働をさせることができるのです(労基法33条)。

これを「災害時等の時間外労働等」などと呼び、労基法36条に基づく労使協定(36協定)の締結とは無関係に実施することができるのです。

どんな業務がこれに該当するかの判断については、

1⃣原則的な許可基準(旧許可基準)
2⃣その一部を改正した許可基準(新許可基準)
3⃣これらの許可基準を明確化するための行政通達

以上によって、対象となる業務の考え方や範囲が示されていますので、企業としても概ね判断できますが、許可や事業承認は行政官庁が担います。

許可は所轄労働基準監督署長から受け、許可を受ける暇がないほどの事態急迫時には事後届出を所轄労働基準監督署長にしなければなりません(労基則13条)。

許可基準改正や通達の推移

❶旧許可基準は、労基法が公布された昭和22年に労基法33条についての解釈として示されました。

❷その後、労基法33条にかかる解釈について数件の通達が発出されています。

❸平成30年には、大阪府北部地震(6月)、西日本豪雨(7月)、北海道胆振東部地震(9月)など甚大な被害をもたらす自然災害が相次ぎ、ライフラインの早期復旧が課題となりました。

このことを背景に、労基法33条の適用対象となり得る「ライフラインの復旧に関連する業種」や「臨時の必要性のある期間」等の取扱いについて通達が発出されました。

❹働き方改革実行計画(平成29年3月28日決定)において、時間外労働の上限規制を設けることとの関連で、労基法33条の解釈の明確化を図るとされたことを受け、令和元年6月に新許可基準が示されました。

❺令和2年には、新型コロナウイルス感染症の発生・感染拡大の影響を踏まえ、人命や公益の観点から行われる緊急業務などに関係した労基法33条についての解釈が通達されました。

令和4年3月31日時点の厚労省ホームページにおける新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)にも、新型コロナワクチン接種業務の労基法33条の要件該当性について示されています。

では、これらの許可基準や通達の内容を具体的にみてみましょう。

なお、旧許可基準や通達はすべて現在においても生きており、新許可基準やその後の新たな通達を含め、これまで示されているすべての考え方を踏まえて許可対象となるか否かの判断をすることになります。

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原則的な許可基準(旧許可基準)

労基法33条1項は、災害、緊急、不可抗力その他客観的に避けることのできない場合の規定であるから厳格に運用すべきものであって、その許可または事後の承認は、概ね次の基準によって取扱うこと、として4点示されています。

1⃣ 単なる業務の繁忙その他これに準ずる経営上の必要は認めないこと
2⃣ 急病、ボイラーの破裂その他人命又は公益を保護するための必要は認めること
3⃣ 事業の運営を不可能ならしめる様な突発的な機械の故障の修理は認めるが、通常予見される部分的な修理、定期的な手入は認めないこと
4⃣ 電圧低下により保安等の必要がある場合は認めること
【昭和22.9.13発基17号、昭和26.10.11基発696号】
災害発生が予見できる場合も適用
災害その他避けることのできない事由には、災害発生が客観的に予見される場合をも含みます(昭和33.2.13基発90号)。
時間外の消火作業も適用
火災が発生した場合、使用者が所定労働時間を終え帰宅している所属労働者を招集した場合は、労基法33条に該当します(昭和23.10.23基収3141号)。
36協定の上限時間をさらに延長可能
災害その他避けることのできない事由によって協定に定める労働時間を超えて労働させる臨時の必要がある場合さらに延長しても差し支えありません(昭和23.7.27基収2622号、平成11.3.31基発168号)。
18歳未満の年少者も適用可能
年少者を労基法33条1項の規定により、労働時間を延長し又は休日に労働させる場合には、年少者に関する労働時間、休日労働及び深夜業の規制は適用されません(労基法61条4項、昭和23.7.5基収1685号、昭和63.3.14基発168号)。
年少者に対する労働時間等の規制はこちら☞
派遣労働者についての取扱い
派遣中の労働者に関しては、派遣先のみを、派遣中の労働者を使用するとみなして、労働基準法第33条を適用するとされています(派遣法44条2項)。
ですので、派遣先は派遣労働者についても労基法33条に該当する災害時等の時間外労働等をさせることができるのです。
この場合に、事前に行政官庁の許可を受け、またはその暇がない場合に遅滞なく届出をする義務を負うのも、派遣先の使用者となります(昭和61.6.6基発333号)。

ライフラインの復旧に関連した許可等の取扱い

災害発生時に行われるライフライン復旧に関連した臨時業務に関して、労基法33条の許可対象について、次の取扱いをする旨の通達があります(平成30.9.18基発0918第3号)。

 

許可等の対象となり得る業種

●ライフラインの復旧とは、電気、ガス、水道等のライフラインの復旧工事の現場作業に限定されず、地質調査、測量及び建設コンサルタント業務など、復旧作業に伴う一連の業務を行う事業場についても33条許可等を行い得ること。

 

許可対象となり得る期間

●申請・届出を行う事業場が、業務運営上通常予想し得ない事由により、36協定で協定された限度時間を超えて労働させる臨時の必要がある場合等に認められ得るもの。

●災害発生から一定期間(一か月等)が経過した後であっても、その事由のため必要があると認められる場合には、許可の対象となり得るもの。

●臨時の必要があると認められる期間が複数月の場合には、33条許可等の対象となり得る期間は当該複数月となること。

 

被災地域の労働者が被災地域出張業務する場合の許可等を行う官庁

●許可等を行う行政官庁は、被災地域の事業場に所属する労働者が被災地域において出張作業により業務に従事する場合には、被災地域の所属事業場を管轄する労基署長、転勤等により被災地域内の事業場に所属を移す場合には、被災地域の事業場を管轄する労基署長であること。

●出張作業により業務に従事する労働者について、所長の許可を受ける暇がない場合には、被災地域内での業務に従事後、被災地域外の所属事業場を管轄する労基署長に届出を行うこととして差し支えないこと。

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改正した許可基準(新許可基準)

現代的な事象等を踏まえて解釈の明確化を図るとして、旧許可基準の一部が改正されましたが、「旧許可基準及び関連通達で示している基本的な考え方に変更はない」としています。

労基法33条についての運用に当たっては、「その臨時の必要の限度において」厳格に運用すべき、という表現が加わっております。

 

1⃣ 単なる業務の繁忙その他これに準ずる経営上の必要は認めないこと
2⃣ 地震、津波、風水害、雪害、爆発、火災等の災害への対応(差し迫った恐れがある場合における事前の対応を含む。)、急病への対応その他の人命又は公益を保護するための必要は認めること
3⃣ 事業の運営を不可能ならしめるような突発的な機械・設備の故障の修理、保安やシステム障害の復旧は認めるが、通常予見される部分的な修理、定期的な保安は認めないこと
例えば、サーバーへの攻撃によるシステムダウンへの対応は含まれること
4⃣ 上記2及び3の基準については、他の事業場からの協力要請に応じる場合においても、人命又は公益の確保のために協力要請に応じる場合や協力要請に応じないことで事業運営が不可能となる場合には、認めること
【令和元.6.7基発0607第1号】

新許可基準の解釈留意事項

新許可基準について、解釈するうえで留意すべき点が次のとおり補足的に示されています(令和元.6.7基発0607第1号)。

1 災害その他避けることのできない事由に該当するに当たり、必要不可欠に付随する業務を行う場合が含まれる。

例えば、事業場の総務部門において、当該事由に対応する労働者の利用に供するための食事や寝具の準備をする場合や、当該事由の対応のために必要な事業場の体制の構築に対応する場合等が含まれる。

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2 「雪害」については、道路交通の確保等人命又は公益を保護するために除雪作業を行う臨時の必要がある場合が該当する。

例えば、安全で円滑な道路交通の確保ができないことにより通常の社会生活の停滞を招くおそれがあり、国や地方公共団体等からの要請やあらかじめ定められた条件を満たした場合に除雪を行うこととした契約等に基づき除雪作業を行う場合や

人命への危険がある場合に住宅等の除雪を行う場合のほか、

降雪により交通等の社会生活への重大な影響が予測される状況において、予防的に対応する場合

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3「ライフライン」には電話回線やインターネット回線等の通信手段が含まれる。

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4 新許可基準に定めた事項は例示であり、限定列挙ではなく、これら以外の事案についても「災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合」となることもあり得る。

例えば「他の事業場からの協力要請に応じる場合」について、国や地方公共団体からの要請も含まれる。

そのため、例えば、災害発生時において国の依頼を受けて避難所避難者への物資を緊急輸送する業務は対象となる。

新型コロナウイルス感染症拡大を踏まえた解釈の明確化

新型コロナウイルス感染症の発生に関連して、厚労省事務次官通知により労基法33条の対象等についての解釈が示されました(令和2.3.17厚生労働省発基0317第17号)。

労基法33条の対象になり得るもの

❶新型コロナウイルス感染症に感染した患者を治療する場合

❷手厚い看護が必要となる高齢者等の入居する施設において、新型コロナウイルス感染症対策を行う場合

❸新型コロナウイルスの感染、蔓延を防ぐ他雨に必要なマスや消毒液、医療機器等を緊急に増産又は製造する場合

等が対象になり得る。

状況に応じた迅速な運用

人命・公益を保護するために臨時の必要がある場合には、これに該当し得るとしているところであり、状況に応じた迅速な運用を図ること。

必要な限度の範囲内に限り認められる

やむを得ず、月に80時間を超える時間外・休日労働を行わせたことにより、疲労の蓄積の認められる労働者に対しては、医師による面接指導等を実施し、適切な事後措置を講じる必要があること。

【参考】厚労省新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)令和4年3月31日時点版はこちら☞

労基法33条と労基法36条との違い

労基法33条の災害等による臨時の必要のある場合に許可等を受けて時間外・休日労働を行うことと、労基法36条に基づき労使協定(36協定)の締結・届出による時間外・休日労働を行うことでは何が違うのでしょうか。

36協定は、労使協定を締結しこれを行政官庁に届けることで、法定労働時間や法定休日を上回る労働をさせても処罰されないという「免罰効果」があります。

しかし、この36協定自体が時間外労働や休日労働を労働者に課す根拠そのものにはなりません。

それには別途、法定労働時間や法定休日を超えて時間外・休日労働を命じることのできる根拠を労働協約や就業規則の規定が求められると解されています。

これに対して、労基法33条の非常災害時の時間外・休日労働については、その性質上、労働協約や就業規則にその実施根拠規定が置かれていなくとも、労働者には一定の範囲でこれに応じる義務を認め得ると一般的には解されているのです。

ただ、就業規則に念のため、非常災害時には通常の時間外・休日労働とは別に勤務延長等を命じることがある旨の規定をしておくのが一般的ではないでしょうか。

まとめ

36協定の上限時間などと無関係に残業や休日労働ができるのは、労基法33条に基づく災害等の臨時の必要のある場合であって、原則として事前許可制です。

事態急迫のときには事後に遅滞なく届ける必要がありますが、事後届出の際には、その時間外労働や休日労働が不適当と判断されれば、休憩や休日を与えることを命令されることもあり得ます(労基法33条2項)。

ですので、可能な限り事前の許可を受けることとし、事後届出になりそうなときには、当記事でみたような許可基準や通達の趣旨を十分に考慮・確認し、事後に問題が発生しないよう注意すべきでしょう。

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