こんにちは 『ろうどうブログ』は労働法に関する記事を中心に構成されています。

使用者が就業規則を周知しようとしないなら労基署に開示請求可能

労働者を10人以上使用する事業場は就業規則を作成し、これを所轄の労基署に届出る義務があります(労基法89条)。
会社がその義務を果たしながら、肝心の従業員には就業規則を周知せず、従業員が就業規則の内容を承知したいと会社にいくら求めても見せてもらえないような事態に陥った場合には、労基署に保管されている就業規則の開示を労基署に要請する方法もあります。

就業規則を従業員に示さない理由は?

会社が作成・変更した就業規則を従業員に見せようとしないのは、

労基署に届出したものと会社保管の就業規則の内容が異なる
就業規則の規定の中に運用実態と違うものがある
従業員に権利意識を持たせたくない意図がある

など、いずれにしても労務管理上不穏当な状況があると推測されます。

周知しない就業規則は無効か

作成・変更した就業規則を従業員に周知しないことについて、少なくとも次の3点の問題を指摘できます。

1⃣就業規則で定める労働条件が従業員との労働契約の内容とはなり得ず、その規定の効力も否定され得ること

労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。
2⃣労働者の過半数を代表する者の意見を聴く義務を課している労基法の規定に反し、正当な労働者の過半数代表者から意見を聴く手続きをしていない可能性もあること。
使用者は、就業規則の作成または変更について・・・労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない
3⃣労基法に規定する周知義務に反していること。
使用者は、・・・就業規則・・・を常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない。
あ 
以上により、作成・変更された就業規則については、労働者にその内容を周知した時点で効力が生じると解されています。
いくら労基署への手続きが行われたとしても、就業規則をどこかにしまい込んだままでいると、従業員への周知をしたことにはなりませんので、効力は生じないこととなります。
広告

就業規則の周知方法は?

労基法施行規則では就業規則の周知方法については、次のいずれかの対応をすることを義務付けています。

❶常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
❷書面を労働者に交付すること
❸磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
あ 

また、具体的な対応方法に関して次の通達もあります。

●各作業場にパソコン端末を設置し、労働者にその操作権限を与え操作方法を周知し、労働者が必要な時に容易に記録を確認できるようにすること
●周知させるべき事項の内容に変更があった場合にも、当該変更後の内容を労働者に周知させなければならないこと
【平成11.1.29基発45号】
就業規則等を労働者が必要なときに容易に確認できる状態にあることが「周知させる」ための要件である。
【平成11.3.31基発169号】
あ 
以上は、就業規則を周知する義務を果たすための労基法規定の内容です。
あ  
労基法の規定に反して就業規則を労働者に周知していない場合には、労基法(106条1項)違反となりますが、「労基法違反=就業規則の効力が発生していない」というわけではありません。
あ 
効力発生要件の「周知」
就業規則の効力が発生するに必要な「周知」については、労基法で列挙された方法に限定されず、労働者が知ろうと思えば知れる状態に置かれることで足りると一般的に解されています(実質的周知)。
使用者が朝礼で概要を説明し改定後の就業規則を休憩室に掲示したが、重要な資料の掲示がなく実質的な周知とはいえないと判断された裁判例もあります(東京高裁判決平成19.10.30「中部カラー事件」)。
実際上、個々の労働者が就業規則の内容をきちんと知っているか否かは問わないと解されています。
労働者が知ろうと思えば知れる状態にありながら、労働者が興味を抱かず就業規則の内容を知らないといったことは、就業規則の効力発生には影響がないということです。
このように、従業員への周知が効力発生の要件の一つになるところ(もちろん内容の合理性も必要ですが)、使用者がこれを隠して見せようとしない状況は、いかにも異常な状況といえます。

労基署への開示要請

自社の就業規則を使用者がどうしても見せてくれないというときには、そもそも就業規則の内容の効力について議論する余地があります。
が、異状下にある事業場ではそういった議論をまともに交わす環境がないと思われます。
そうした場合の従業員としての対処方法の一つに、労基署に届けてある自社の就業規則をその労基署に出向き開示を求めることです。
こうした、労基署に対する就業規則の開示要請については、次の平成13年4月1日付け基発354号「届出事業場に所属する労働者等からの就業規則の開示要請の取扱いについて」が参考になります。
労働者が就業規則の内容を確認したい場合には、労働基準法第106条第1項の規定に基づき労働者に就業規則を周知すべき義務を使用者が負っていることから、本来使用者に対しこの義務の履行を求め、事業場において就業規則を閲覧する方法によるべきものである。
基本的には、使用者に周知義務を履行することを求めるのがスジである旨の考え方を示した上で、しかしながらとして
使用者がこの周知義務を履行せず、問題が生じていると認められる場合には、原則として、就業規則が適用される立場にある者か否かを基準に、労働基準監督署に届け出られている就業規則を開示することとして差し支えないものである。
既に事業場で問題が生じているときには、その事業場の就業規則が適用される者から開示を求められたら、労基署はこれに応じてもよいとしています。
届出事業場に所属する労働者等からの開示要請があった場合には、単に就業規則の開示の問題としてのみ対応するのではなく、当該労働者等が就業規則の開示要請をするに至った理由を確認し、就業規則の周知義務の履行を含め法定労働条件の履行確保上問題があるときには、必要に応じ、当該事業場に監督指導を実施すること。
労基署では状況を十分聞き取りながら、必要があると判断されれば、事業場を臨検し行政指導を行うこととしているのです。
なお、本通達においては、基本的に開示要請を行った者が届出事業場に所属する労働者であるか否かによって異なった取扱いをするものであるがの保有する情報の公開に関する法律に基づく就業規則の開示請求が行われた場合には、同法に基づき、開示又は不開示の決定については、開示請求者の如何を問わず一律に処理されるものであることに留意すること。
事業場に所属する者からの求めには応じるが、一般の情報公開請求の場合には情報公開法に基づき対応するとしています。
開示を行う対象者は、当該届出事業場に所属する労働者(労働基準法第9条に該当する者)及び使用者(同法第10条に該当する者)のほか、当該届出事業場を退職した者であって、当該事業場との間で権利義務関係の争い等を有しているものであること。
開示要請に応じるのは、その事業場の労働者・使用者、さらにその事業場を退職した者であって権利義務関係の具体的な紛争がある当事者としています。
開示に当たっては、適当な方法により、上記2に該当する者であることを確認すること。
開示を求めている者が事業場に所属している者などかどうかを適宜の方法で確認することとしています。
労働者又は退職労働者からの開示要請に対しては、当該事業場において労働基準法第106条第1項による周知義務が履行されているか否かを聴取し、当該義務が果たされておらず、かつ、使用者に求めても閲覧できる状況にないと判断される場合(退職労働者の場合にあっては、当該労働者が在職中の状況について同様に判断されるとき)には、労働基準監督署において保存している範囲の就業規則を閲覧させ、又は説明する等により開示すること。
労基署の周知義務が履行されておらず、らちが明かない様子であれば労基署に保管してある就業規則を閲覧するか説明するなどして開示に応じることとしています。
退職労働者に対する就業規則の開示に当たっては、当該退職労働者と当該事業場との間の権利義務関係に係る規定に限定すること。
既に退職してしまっている者については、争いになっている権利義務関係の事項に限定して開示に応じることとしています。
広告

まとめ

作成・変更された就業規則の効力発生の要件の一つには「従業員への周知」があります。

その周知をしようとしない使用者相手にらちが明かない場合には、労基署に届出してある自社の就業規則の閲覧などを労基署に要請することが可能です。

開示要請を行わなければならない事態に陥るということは、事業場は労務管理上の問題を相当抱えていそうです。

そういった場合には、一つには労働条件に関する問題について電話で相談できる

「ほっとライン」(☎0120-811-610)

を活用する方法や

全国の労働局・労基署などに設置してある

「総合労働相談センター」

に相談することをお勧めします。

なお、労基法規定の方法で就業規則の周知義務を果たさない使用者は労基法違反として処罰対象にもなり得ますので、労基署に監督指導を求める(申告する)こともできます。

最新情報をチェックしよう!

労働法をもっと理解したい

職場で生じる人事労務に関する問題やトラブルに的確に対処するには、基本的なルールと判例、行政通達の理解が欠かせません。不安や疑問の生じた際などに当ブログを手軽にチェックしてみてください。

CTR IMG