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フリーランス等労働者ではない人も補償される労災保険の特別加入

仕事が原因で負傷等したときには、一般の労働者であれば「労災保険」により政府から補償を受けられますが、労働者とあまり違わない働き方をしている自営業者や中小事業主などは、こうした補償は全く受けられないのでしょうか?
労災保険については特別加入という制度があり、要件を満たして加入が認められれば自営業者なども労働者とほぼ同様な補償が受けられるようになります。

当記事は、特別加入制度の適用要件など総括的な事柄をまとめました。

労災保険とは労働者保護のための補償制度

労災保険制度(労働者災害補償保険法)は、労働者が

⓵ 業務上の事由、複数事業の業務を要因とする死傷病を被ったとき
⓶ 通勤による死傷病を被ったとき

に対して必要な保険給付を行うとともに、被災労働者の社会復帰促進(アフターケア、義肢や車いすの提供など)等の事業を行う制度です。
その費用は、基本的には労働者の個人負担はなく、事業主が納めている保険料によってまかなわれています。

「個人負担はない」と書きましたが、厳密にいうと、通勤災害の場合には若干の負担があります。

通勤時に負傷等した場合で、治療(療養給付)又は休業による賃金減少に対する補填(休業給付)が行われる際に、個人負担が200円かかります。
給付時にその分を減額されていますので、本人は気づかないかと思います(労災保険法31条2項)。

こうしたことから、労災保険は雇用保険と違い、毎月の給与支給時に労災保険料の源泉徴収がないのです。

労災保険は、公務員の一部を除き、一人でも労働者(アルバイト、パートタイム労働者も含む)を使用する事業に強制適用され、原則として規模や業種も問いません(農林水産業の小規模個人事業の一部については暫定任意適用とされています)。

ですので、求人広告などに「労災保険あり」とうたっている会社がありますが、法人であれば法律上当然に適用されますので、少し奇異に感じます。

それはさておき、
労災保険は、「労働者」に対する補償制度であり、「労働者」とは労働基準法でいう「事業に使用され、賃金を支払われる者」を指します。

個人事業主などのように、いくら労働者と一緒に同じような業務に就き、同じような被災リスクを背負って働いていても、「労働者」に該当しなければ労災保険の補償対象になりません。

しかし、そのような人についても、一定の要件がそろえば労働者に準じて労災保険の制度が適用される道があります。

それが「特別加入制度」です。

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労働者ではないが労災保険に「特別に」加入できる制度が適用される人とは?

業務の実態や災害発生の状況などからみて、労働者に準じて保護するにふさわしい方がいるという現実を踏まえ、労働者ではないものの、特別に任意で労災保険に加入することを認めるのが「特別加入制度」です(労災保険法第4章の2)。

労災保険に特別加入できる者については、業務遂行に危険性が含まれているとか、業務の範囲についても明確であること、保険関係の事務処理を進める上での技術的な問題がないことなどを考慮し定められています。

法律では大きく分けて、次の4区分が認められています(労災保険法33条)。

⓵中小事業主とその事業に従事する労働者以外の者
⓶一人親方その他の自営業者とその事業に従事する労働者以外の者
⓷特定作業従事者
⓸海外派遣者

特別加入者の具体的な範囲

上記4区分ごとの具体的な範囲については、厚生労働省令で決められており、社会経済情勢の変化などを踏まえ、対象範囲の見直しが行われます。

2022年4月1日現在では、⓵~⓸のそれぞれにおいて、次の範囲で認められています。

⓵中小事業主とその事業に従事する労働者以外の者

使用労働者の総数が企業として常時300人以下の事業主が対象となる

ただし、事業主に代わって労働保険料の申告・納付等の事務手続きをおこなう団体である「事務組合」として認可されている商工会、商工会議所、事業協同組合などの団体に労働保険事務の処理を委託することが必須条件となっています。

労働保険事務組合についてはこちら

なお、常態として労働者を使用しない事業主は対象になりません。

この場合、次の⓶の一人親方に該当して特別加入の対象となるものもあります。
一年間で100日以上労働者を使用していると「常態として労働者を使用している」ものと扱われます。

300人以下の規模要件ですが、一部の業種によっては次のとおり規模の制約があります。
▶金融業、保険業、不動産業、小売業
 50人以下
▶卸売業、サービス業
 100人以下
これらの業種には、清掃業、火葬業、と畜業、自動車修理業、機械修理業は含みません。
上記中小事業主に従事する労働者以外の者も対象となる
事業主の家族従事者や、中小事業主が法人その他の団体である場合の代表者以外の役員などが対象になります。事業主とともに全員が包括加入することになります。
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⓶一人親方その他の自営業者とその事業に従事する労働者以外の者

労働者を使用しないで次の事業を行うことを常態とする一人親方その他の自営業者が対象となる

労働者を使用する日の合計が一年間に100日未満であれば、一人親方等として特別加入が可能です。

自動車を使用して行う旅客もしくは貨物の運送の事業、原付もしくは自転車を使用して行う貨物の運送の事業(個人タクシー、個人貨物運送業者など)
建設の事業(大工、左官、飛び、石工など)
漁船による水産動植物の捕集の事業
林業の事業
医薬品の配置販売の事業
再生利用の目的となる廃棄物等の収集、運搬、選別、解体等の事業
船員が行う事業
柔道整復師が行う事業
高年齢法に規定する創業支援等措置に基づき委託契約等に基づき高年齢者が新たに開始する事業
10あん摩はり師きゅう師法に規定するあん摩マッサージ指圧師、はり師又はきゅう師が行う事業

一人親方その他の自営業者が行う事業に常態として従事する労働者以外の者も対象になる

 

⓷特定作業従事者

次の9種類の作業に従事する非労働者が対象となります。

特定農作業従事者
年間農業生産物総販売額か経営耕地面積が一定水準以上で動力駆動機械を使用する作業や高さ2m以上の作業、農薬散布作業等に従事する人をいいます。
特定農業機械作業従事者
耕作、開墾、栽培、採取作業を行うために使用する動力耕運機、自走式田植機等、使用する機械が特定されています。
職場適応訓練従事者
国や地方自治体の行う求職者向けの訓練作業従事者です。
家内労働者とその補助者
家内労働者や補助者が行う特に危険有害度が高い作業が特定されています。
労働組合常勤役員
常時労働者を使用しない労働組合の一人専従役員のことです。
介護作業従事者・家事支援従事者
介護関係業務、家事代行・補助作業に従事する者です。
芸能関係作業従事者
放送番組、映画、寄席、劇場等における音楽、演芸、その他の芸能、演出、企画作業従事者です。
アニメーション制作作業従事者
アニメーション制作作業従事者(キャラクターデザイナー、作画、絵コンテ、原画、背景、監督、演出家、脚本家、編集他)です。
ITフリーランス
情報処理システムの設計、開発、管理、監査、セキュリティ管理もしくは情報処理システムに係る業務の一体的な企画
ソフトウエア、ウェブページの設計、開発、管理、監査、セキュリティ管理、デザインもしくはソフトウエア・ウェブページに係る業務の一体的な企画
その他の情報処理に係る作業に従事する人をいいます。

⓸海外派遣者

海外の支店、工場、提携先企業などの事業場は労災保険の対象外ですが、労災保険が成立している国内の事業場で就労していた社員が海外へ転勤したり、派遣される場合には、次の者は手続を経て特別加入が可能です。

日本国内の事業主から、海外で行われる事業に労働者として派遣される者
日本国内の事業主から、海外にある中小規模の事業に事業主や非労働者として派遣される者
国際協力機構など開発途上地域に対する技術協力の実施の事業(有期事業は除く)を行う団体から派遣されて、開発途上地域で行われる事業に従事する者

派遣先の事業場での職種やそれが転勤なのか移籍出向なのかも不問です。

 

特別加入に必要な「団体」の存在

海外派遣者を除いて、特別加入をする際には「団体」の存在が欠かせません。

中小事業主については、「事務組合」(◎◎商工会など)

一人親方等については、「一人親方等の特別加入団体」(◎◎一人親方労災会など)

特定作業従事者については、「特定作業従事者の特別加入団体」(◎◎芸能労災センターなど」

こうした団体は、いずれも都道府県労働局長が承認した団体であり、特別加入の手続きはその団体が行います。全国に種々の団体があります。

特別加入を希望する人は、関係する団体の会員となり、その団体が労基署長を経由して都道府県労働局長に対して特別加入の申請を行い、労働局長の承認を得ることで申請者が特別加入できるのです。

なお、一人親方その他の自営業者や特定作業従事者についての特別加入団体は、単に労災保険関係事務の処理ばかりでなく、業務災害の防止に関し団体が講ずべき措置、会員が守るべき事項を定める必要もあります。

特別加入時に健康診断を受診しなければならない人もいる

海外派遣者を除いて、特別加入に際して危険有害な業務に一定期間従事した人は、加入時健康診断と呼ばれる特定の健康診断を受ける必要があります。

❶粉じん作業に通算3年以上従事した人
じん肺健診の実施
❷振動工具作業に通算1年以上従事した人
振動障害健診の実施
❸鉛業務に通算6か月以上従事した人 
鉛中毒健診の実施
❹有機溶剤業務に通算6か月以上従事した人
有機溶剤中毒健診の実施

関係する人は、特別加入時健診申出書を団体を通じて労基署長に提出します。

すると、労基署長から健診実施指示書などが交付され、示された期間内にいくつかの決められた診断機関から選んで受診します。交通費は個人負担ですが、受診費用は国が負担します。

診断機関が健診証明書を作成しますので特別加入の申請書に添付します。これを提出しないと、特別加入が承認されなかったり、虚偽申請した場合には将来の保険給付が受けられないことにもなります。

仮に、診断結果が「療養に専念」のような場合では、特別加入は認められません。
作業転換で済むのなら、転換後の作業についてのみ特別加入が認められることになります。
なお、特別加入の業務に主たる要因があると認められる疾病については、保険給付は行われません。

保険料はどのようにして決まるのか

保険料は厚生労働大臣が決める建付けですが、実際には申請に基づいて都道府県労働局長が決定します。

どう決めるかというと、一日当たりの平均報酬額に相当するような金額がいくつかの刻みで用意されていますので、その中から選択します。

その選択した金額(これを「給付基礎日額」と言います)に対して365日分(一年分)を算出した額に、事業の種類ごとに決まっている保険料率を乗ずると一年間の保険料が求められます。

一般の労働者では、休日・祭日も含めて求めた一日当たりの平均賃金額を給付基礎日額としていますが、特別加入者は労働者のような賃金報酬ではないので、この給付基礎日額を特別加入者の希望を考慮して決定することとされているのです。

給付基礎日額を低く設定すればそれに応じて保険料は安くなる一方、休業補償給付など給付額はこの給付基礎日額をベースに算定されますので、給付額も低くなることに留意して決めることになります。

 

保険料の算定例は下表

年度途中に加入した場合の保険料は、年度内の特別加入月数(端数は1か月に切り上げ)に応じた額になります。

 

事業別の保険料率の例は下表

海外派遣者についての保険料率は、3/1000 の1種類のみです。

家内労働者・その補助者についての給付基礎日額は、3,000円、2,500円、2,000円もあります。

 

労災保険の給付対象となる災害は一般労働者と一部違うところも

特別加入者の被った災害が業務災害として保護される場合の業務の範囲は、あくまでも一般の労働者の行う業務に準じた業務の範囲です。

特別加入者の行う全ての業務に対して保護が与えられるものではありません(令和3.8.3改正基発0803第1号)。

たとえば、加入者ごとに一定の業務を行っていた場合に限られる面もあります。

 

中小事業主

申請時に記載した労働者の所定労働時間内に申請した事業のためにする行為及びこれに直接付帯する行為であって事業主の立場で行われる業務でないこと、就業時間内での事業場施設の利用中や行動中など

一人親方・自営業者

個人貨物運送業者なら、貨物運送の事業の範囲内で申請した種類の運転作業や積卸作業、これに直接付帯する行為など、

柔道整復師なら、柔道整復師の行うこととされている施術やこれに直接付帯する行為や作業準備・後始末、事務作業を通常行っている場所での作業など

特定作業従事者

家内労働者なら、作業場で申請時に記載した業務、作業の内容やこれに直接付帯する行為、作業上の隣接場所で材料、加工品などの積卸作業や運搬作業など

アニメーション制作作業従事者なら、契約に基づき報酬が支払われる作業のうち、アニメーションの制作作業及びこれに直接付帯する行為、それらの行為に必要な移動行為など

 

こうした、それぞれの特別加入の趣旨に沿った行為などでの災害が労災保険の給付の対象になるわけです。

なお、通勤災害 の適用がされない一部の特別加入者もあります。住居と就業場所との間の往復実態が明確でない等から、次の人については通勤災害に関して労災保険の保護対象としておりません。

❶個人タクシー業者、個人貨物運送業者
❷漁船による自営漁業者
❸特定農作業従事者
❹指定農業機械作業従事者
❺家内労働者・その補助者

まとめ

労働政策審議会労災保険部会からは「社会経済情勢の変化も踏まえ、特別加入の対象範囲や運用方法等について、適切かつ現代に合った制度運用となるよう見直しを行う必要がある」と建議され、また新しい資本主義実現会議の緊急提言(令和3.11.8閣議決定)では「フリーランスの方々が労災保険に加入できるよう、労災保険の特別加入の対象拡大を図る」とされています。

こうしたことを背景に、「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師」についても、2022年4月1日から特別加入の対象となりました。

今後とも特別加入の対象がさらに広がることでしょう。

特別加入制度の概要をまとめましたが、個々の特別加入の事業ごとの細部については最寄りの労働基準監督署(労災課)にお尋ねください。

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