こんにちは 『ろうどうブログ』は労働法に関する記事を中心に構成されています。

初めて障害者を雇用しようとするときに知っておきたい基本的事項

2016年度から、改正障害者基本法、障害者差別解消法の制定、改正障害者雇用促進法の施行がなされ、これまでの障害者雇用の状況が大きく変わりました。労働者として障害者を受け入れ、障害者のそれぞれの特性に見合った働き方を実現できるよう、労務担当者も障害特性についての理解を深めながら、継続的な雇用を促進するといった経営が一層重要となってきました。ここでは、障害者雇用に当たっての基本的ルールを中心に整理しました。

 

障害者雇用促進法の改正

2016年から施行されている改正障害者雇用促進法にはそれまでなかった新たな次の3つの事項が加わり修正されました。

障害者に対する差別禁止合理的配慮の提供義務
差別禁止、合理的配慮に関する紛争について、労働局(紛争調整委員会)による調停や労働局長による勧告などを整備
法定雇用率の算定基礎に精神障害者を追加(施行は2018年4月

法改正背景

法改正の背景には、国連が関係しています。

①2006年 国連総会で「障害者権利条約」が採択されました。
これは、障害に基づくいかなる差別もなしに、すべての障害者のあらゆる人権、基本的自由を完全に実現することを確保、促進するというものです。

②日本は条約採択に賛成はしましたが、国内の法律の整備が追い付かず、2011年に障害者基本法改正、2013年には障害者差別解消法制定、障害者雇用促進法改正を行い、2014年に世界で141番目にこの条約を批准することができたのです。

かつては、世界の流れとして、障害は訓練、リハなどで克服されるべきと捉えていましたが(医学モデル)、近年は、障害とは多様な人が生活していることを想定せずに作られた社会の不備と捉え、問題は社会の側であり社会を変えることでバリアを取り除くという考え方(社会モデル)へ変遷しました。
【大胡田誠弁護士の講演から】

 

障害者の範囲と差別禁止合理的配慮の提供義務

障害者雇用促進法でいう障害者とは、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)、その他の心身の機能に障害があるために、長期にわたり職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者(法2条)、とされています。

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雇用分野における障害者に対する差別の禁止

雇用のあらゆる局面で、障害者であることを理由として、つまり労働能力等を適正に評価せずに単に障害者だからということを理由として

❶排除すること
❷障害者のみに不利な条件を設けること
❸障害のない者を優先すること

が、障害者であることを理由とする差別に該当します(平成27年告示116号)。

①積極的差別是正措置として障害者を有利に取り扱うこと
②合理的配慮を前提とした上で、労働能力等を適正に評価した結果として異なる取扱いをすること
③合理的配慮の結果として異なる取扱いとなること
④業務遂行上の能力及び適正の判断、合理的配慮の提供のためなど、雇用管理上必要な範囲でその障害の状況等を確認する必要がある場合に、プライバシーに配慮しつつ、障害者にそれらを確認すること
【平成27年告示116号】
 

雇用分野における障害者に対する合理的配慮の提供義務

障害者と障害者でない者との均等な機会や待遇の確保、障害者の能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するための必要な措置のことを「合理的配慮」といいます。

この合理的配慮の提供として、障害者からの申出により障害の特性に配慮した必要な措置を講じることや、障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置等の措置を講じなければなりません。

ただ、事業主に過重な負担を及ぼすこととなるときは、当該措置を講じる義務はありません

合理的配慮の提供とは、たとえば、採用面接時に就労支援機関の同席を認めることや、労働時間や休憩等に関して通院や体調に配慮するとか、知的障害者には分かりやすい絵図や文書を用いて作業指示することなどのことを指します。

①合理的配慮提供に当たっては、事業主と障害者との話し合いにより、内容が決定されるものであること
②雇用する労働者が障害者であることを知ることができない場合は、合理的配慮提供義務の違反を問われないこと
③考えられる措置が複数あるときは、より提供しやすいと考える措置を選択し講じることができる。
 過重負担に応じる義務はないが、その場合、過重負担にならない範囲で何らかの措置を講じる必要があること
④合理的配慮の円滑な提供のためには、障害の特性に関する正しい知識の取得や理解を深めることが重要
【平成27年告示117号】

 

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障害者雇用率の確保

民間企業に適用される法定の障害者雇用率については、2021年3月31日から2.3%となり、障害者を1人以上雇用する義務のある事業主は、常時雇用する従業員が43.5人以上の規模の事業主となりました。

常用労働者の範囲

障害者雇用促進法において「常用労働者」と言われる「常時雇用する従業員」とは、1年以上雇用される者や雇用が見込まれている者を指します。

これには、雇用期間の定めのない者(無期雇用労働者)が当然入りますが、次の者も含まれます。

①一定期間を定めて雇用される者(有期雇用労働者)であっても、その雇用期間が反復継続されて事実上、無期雇用労働者と同様の状態にあると認められる者
②日々雇用される者であっても、雇用契約が日々更新されて事実上、無期雇用労働者と同様の状態にあると認められる者
    

雇用率の算定における常用労働者

雇用率の算定においては、常用労働者のうち、1週間の所定労働時間20時間以上30時間未満である短時間労働者については、1人をもって0.5人の労働者とカウントします。

重度障害者については、1人を2人としてカウント。ただし、短時間障害者は1人としてカウントします。

1週間の所定労働時間20時間未満の者については、障害者雇用率制度における常用労働者には含めません。

2018年4月から2023年3月31日まで暫定措置として精神障害者である短時間労働者に関するカウントの特例があります。
①新規雇入れから3年以内、または精神障害者保健福祉手帳取得から3年以内で
かつ、
②2023年3月31日までに雇い入れ、精神障害者保健福祉手帳を取得した者
については、1人をもって1人とみなされます。
この精神障害者の短時間労働者のカウント特例については、
①退職後3年以内に、同じ事業主に再雇用された場合は特例対象とはしない
②発達障害により知的障害があると判定されていた者が、その発達障害により精神障害者保健福祉手帳を取得した場合は、判定の日を精神保健福祉手帳取得の日とみなす
といった扱いがあります。

 

法定雇用率の過不足に対する措置

法定雇用率に対する過不足に応じて調整金、報奨金、納付金が徴収や給付されます。

雇用率未達成企業に対しては、国(各県にある労働局)から指導がなされ、雇入れ計画の適正実施勧告を受ける場合があり、これに従わず改善が見られないときは、企業名が公表されることになります(ほぼ毎年1~2社が公表されている模様です)。

日頃から、ハローワークが定期的に開催する障害者雇用のための面接会に参加し採用につなげるとか、特別支援学校との連携や能力開発校の訓練生をインターンシップとして受け入れ、企業内の関係者の理解を深めるとか、何らかの企業としての努力が求められるということです。

 

雇用率算定の対象となる障害者であるかどうかの確認方法については次の方法があります。
身体障害者:障害者手帳、医師・産業医・健康管理医等医師の診断書・意見書
知的障害者:判定機関が交付する判定書、これに準ずる書類
精神障害者:精神障害者保健福祉手帳

 

さいごに

僕は、ここ5年程、障害者雇用のための採用面接の担当をしてきました。

障害者の雇用といってもボランティアで就労するものではありません。

企業運営の一員として業務を任せて報酬を支払うわけですので、やはり着眼点は、

業務を覚える意欲や業務に向かう姿勢が期待されるレベルにあるか、あるいは入社後早急にそのレベルに到達できそうな方かどうか、

自分自身をどれほど客観視できているか、つまり、自分の調子具合を自分で判断して、必要な時には声を上げることができそうか、周囲や上司に要望や相談をできそうか、

が中心になってきます。

よく面接応対用のお話しを練習してきたような方が見受けられます。

が、そういった話しの内容には興味なく、質問に対して自分の言葉で説明しようと努めている態度や話しぶりをみて、上述したような観点でしっかり就労現場で汗を流そうという気持ちが伝わるかどうかが大事だと思っています。

個人的な感想・思い、ですが…。

 

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