こんにちは 『ろうどうブログ』は労働法に関する記事を中心に構成されています。

採用内定取り消しは無効?内定の法的性質を理解しリスク回避を

企業が労働者を採用するに当たって、内定を出したり、内々定としてほぼ内定に近い「仮の内定?」を出したりすることは一般的です。
しかし、本採用前にもし採用を取りやめることとなった場合には紛争に発展することもありますので、内定等の位置づけや性格などを一応整理しておく必要があろうかと思います。

 

1⃣ 内定取り消しは解雇に当たると理解すること
2⃣ 内定取消しの理由に合理性が求められること
3⃣ 内々定では未だ労働契約が成立していないことも

 

採用内定の法的性質

会社からの採用募集に対して、労働者からの応募が労働契約の申込みに当たり、
会社からの採用内定通知が申込みに対する承諾あって
入社日を就労の始期とし、
その間、採用内定取り消し事由に基づく解約権を留保した労働契約=始期付・解約権留保付労働契約が成立すると一般的には解されています【最高裁:昭54.7.20 大日本印刷事件】。 

 

関連記事

採用内定した新規学卒者に対し、入社までに業界で必要とされる基本的な検定試験を受験・合格することを義務として課すことは可能なのでしょうか。採用内定者の同意など労働契約上の根拠があれば可能だが、学業の阻害になるほどの負担を強いるようなものな[…]

 

試用期間

採用後の「試用期間」について法的にどう捉えるかについて、最高裁(昭48.12.12 三菱樹脂事件)は、解約権留保付の労働契約が成立しているとし、

本採用拒否はその留保解約権の行使つまり解雇であって、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認できる場合にのみ許される」

としており、こうした考え方が採用内定にも適用されているのです。

 

 

採用内定取消しは解雇

 

採用内定取り消しは、留保解約権の行使であり、解雇に当たりますので労働契約法16条の解雇規定が適用されます。


つまり、採用内定当時知ることができず、
また、知ることが期待できないような事実であって、
これを理由として内定を取り消すことが解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られます。 

 

【労契法16条】解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする。

 

 

 

広告

内定取り消しとなる具体的事由として裁判で認められた例

・成績不良による卒業延期
・健康状態の著しい悪化
・虚偽申告の判明
・逮捕・起訴猶予処分を受けたこと

 

採用「内々定」の取り消しは解雇か?

採用の内意を伝える「内々定」の法的性質については、それぞれの具体的状況によっては「内定」と何ら変わらない場合もあるかと思います。

が、労働契約の申込みに対する承諾の意思表示であるとまでは言えず、労働契約は未だ成立しているとは解せないとされ、故に、内々定段階の取り消しは解雇には当たらないということになります。

 

しかし、場合によっては労働契約が締結されるという「期待権を侵害した」として不法行為に該当する可能性もあり得るので、内々定段階では、労働契約の締結が確実と受け取られるような伝え方を決して行ってはいけません(正式な採用内定手続には進んでいない旨を明確化するなどの対応をすべきです)。

 

広告

まとめ

採用内定は、来る○月〇日に入社することとするが、それまでの間に一定の事由があれば労働契約を解約するという権利を留保した労働契約=始期付・解約権留保付労働契約が成立した労働契約と考えられています。

内定により、既に労働契約が成立しているとみるわけです。

ですので、いったん成立した労働契約を取り消すというのは、「解雇」と同様に、その取消し理由が合理的で社会的相当性が認められるようなものでないと、一方的な契約取消は無効とされるのです。

   

内々定については、その実態により「内定」とみるか、「内定には未だ至っていない状態」とみるかで性質が違ってきます。

企業は、仮に内定に至っていないが「内々定」を打つのなら、内定との相違を明確化し、採用されるであろうとの合理的期待を抱かせるような言動をしないよう、十分慎重な対応が求められると言えるでしょう。

なお、採用活動期間中に受理する「履歴書」について、様式ひな型について動きがありましたので、次の記事で紹介します。

    

関連記事

2021年4月16日、厚労省は履歴書の様式例を新たに作成し公表しました。JIS規格から履歴書の様式例が削除されたなどの背景があり、厚労省は公正な採用選考を確保する観点から作成したものです。これまでのJIS規格の様式例との違いなどを見てみ[…]

履歴書
最新情報をチェックしよう!

労働法をもっと理解したい

職場で生じる人事労務に関する問題やトラブルに的確に対処するには、基本的なルールと判例、行政通達の理解が欠かせません。不安や疑問の生じた際などに当ブログを手軽にチェックしてみてください。

CTR IMG