会社が労働者を採用する際には、期間を決めないのを無期雇用といい、期間を決めた雇用を有期雇用と称します。無期雇用と言っても永遠に雇用するという意味ではなく、期間の定めがないので、契約終了をしたくなったら、一定の期間前に申出をすることで解約する、又は、定年で終了するという雇用契約なのですが、注意を要するのは有期雇用の場合です。
有期雇用については、設定する雇用期間に制約があることや繰り返し有期雇用の更新をした場合などには会社の思いとは別に、法律上無期雇用に転換してしまう場合もある。
有期雇用の契約期間には制限がある
有期の雇用をする場合には、労基法ではその期間は3年以内とされています。
趣旨は、人身拘束の弊害を排除するため、ということらしいのですが、実際的には労働者の方は辞めたければいつでも辞めていってしまうので、どれほど意味があるのかと思ってしまいます。
が、約束した以上その期間満了まで就労する義務があるはずだ、一方的に退職することで会社に何らかの損害が生じたら全部賠償してもらうからと会社から強く言われると、労働者は精神的にも大いに拘束を感じることでしょうから、やはり雇用期間を定める場合には一定の長さまでしか認められないとする規制があることは意味があると言えます。
ちなみに、民法においては5年超えの有期雇用もあり得るような規定がありますが(民法626条)、労基法により有期の労働契約は原則3年までとなっているのです。
なお、有期雇用の雇入れ時の労働条件明示など留意点はこちらの記事。
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有期の雇用契約期間の例外
「原則」と表現したのは、例外があるわけで、以下の場合には3年を超えることができることとされています。
❶ ダム建設などのような有期の事業完了までの雇用とするものは、その事業完了時まで
❷ 満60歳以上の者、高度専門的知識を有する者でその知識等を必要とする業務に就く者(つまり、弁理士、公認会計士、税理士、社労士、不動産鑑定士などの専門的業務に就く者)、については最長5年まで
それぞれ3年を超える期間まで雇用契約を定めることができます。
【労基法14条、平成15年10月22日付け厚生労働省告示356号】
有期雇用から無期雇用への転換制度
有期雇用の場合には契約更新が一般的によく行われるかと思いますが、通算して労働契約期間が5年を超える労働者については、契約期間満了前に期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときには、使用者は当該申込みを承諾したとみなす旨のルールが労働契約法に規定されています(平成25年度から施行されていますので、平成30年度から本格的に対象者が出ています)。
無期雇用転換申込権
例えば、1年更新を繰り返し5回目の更新後、労働者がその就労6年目の契約が終了する前に、
自分は通算して5年超えの雇用契約を締結したので、今の契約(6年目の契約期間)が終了したら、今度は雇用期間の定めのない労働契約に替わりたいのでよろしく、
と無期雇用転換の申込みをすれば、使用者はそのとおりにせざるを得なくなるということです。
1⃣ 同じ事業主(会社法人ならその法人、個人事業主ならその個人)と2回以上の有期労働契約を締結していること
営業店間などで異動があったとしても同じ会社に使用されていれば同じ事業主と労働契約を締結していることになります。
2⃣ 通算契約期間が5年+1日以上であること
現に経過したかではなく、締結した期間のこと。私傷病などで休職した期間も含みます。
3⃣ 有期労働契約満了前に、満了翌日から無期の労務提供をする旨の契約締結を申し込むこと
ただし、これにも例外があります。
会社を定年後その会社やグループ会社に継続雇用(再雇用)される場合には、雇用管理計画(1~2枚程度の様式)を作成し会社所在の所轄労基署経由で労働局長から認定を受けると、その事業主に雇用されている間は有期雇用が通算5年超でも無期雇用転換申込権は発生しません。
雇用期間の通算とリセット
なお、「通算5年」といた雇用期間の通算に関しては、一定の期間以上の雇用中断があれば通算のリセットがされます。
つまり、雇用契約期間がない状態が6か月以上あれば直前の雇用終了で一旦リセットです。次の雇用契約を締結しても新たな1年目として通算が始まります。
また、例えば、1か月の契約期間であればその後1か月以上の空白期間があればやはり通算期間はリセットされます。
3~4か月の雇用期間であればその半分(端数は1か月に切り上げ)の2か月以上の空白期間、5~6か月の雇用期間であれば3か月以上の空白期間、9~10か月の雇用期間ならその後5か月以上の空白期間、という具合に雇用期間を締結していない一定の期間があれば通算期間はリセットされます。
これらは、あくまでも同一事業主に何度も使用されることが前提ですので、別の会社に就労すれば通算規定は適用されません。
通算5年超の契約期間の考え方
通算5年超というときには、実際にまだ5年以上就労していなくても、1回の契約期間が3年の場合、契約更新により次の3年を雇用期間とする労働契約を締結したときには、合わせて6年の労働契約をかわしたことから通算5年超の労働契約となりますので、4年目の就労時点で無期雇用転換申込権が発生することに要注意です。
無期転換と労働条件
契約期間が有期から無期に転換することと、労働条件をどのように設定するかは一応別物と言えます。
雇用期間は無期(定年まで)となってもその他の労働条件を変える義務は会社にはありません。【労働契約法18条】
そこで、これまでどおりでよいのですが、会社としては定年まで雇用することとなれば、それなりに能力向上も図られますので有効な活用という観点で新たな評価制度の設計も含め業務範囲や責任程度の見直し等も検討することになるのではないでしょうか。
有期雇用について「同一労働同一賃金」の観点から無期雇用に転換することに関する記事はこちら。
パートタイム・有期雇用労働者の待遇と、通常の正社員の待遇との間に不合理な相違を設けてはならない旨のいわゆる同一労働同一賃金ルールがあります。では、雇用契約を有期から無期に転換すれば、フルタイムの無期雇用者はもはや有期雇用には当たりません[…]
有期雇用契約労働者の雇止め
有期の労働者について、もうひとつ重要な労務管理上留意すべき観点があります。
契約更新を繰り返していたところ、次の契約更新はしないとなったときの雇止め問題です。
雇用期間を定めて労働契約を締結して就労しているのですから、その期間が満了すれば使用者は契約更新の義務はないとして、更新しないことは何ら問題がないように思えることでしょう。
しかし、過去、契約を更新しないことは無効であるとして訴訟に発展したことが多くあり、最高裁の判決もあって、判例上の基準が形成されてきました。
「雇止め法理」と言われていますが、これを法律にしたのが労働契約法でして、次の2点の場合には雇止めは無効であり労働者が更新の申込みをした場合には承諾したものと扱われます。
● 反復更新されたことにより、雇止めをすることが無期雇用者の解雇と社会通念上同視できると認められるときや、
● 有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由が認められるときに
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときには雇止めは認められないこと、
その場合、労働者が更新の申込みをしたとき、使用者は従前と同一の労働条件で有期労働契約の申込みを承諾したものとみなされること
つまり、更新を繰り返すことにより更新しない場合には、単に期間満了だからということで契約終了とはいかず、一般の無期雇用者を解雇するときと同様に合理的理由と社会通念上相当という要件が求められることがあるということ、
さらに更新の期待があるような状況になっている以上、更新拒絶はやはり解雇相当だろうということです。
【労働契約法19条】
有期雇用の労働者を契約期間途中で退職させることは困難
世間では、期間の定めのない無期雇用労働者(一般的な会社員)より、有期雇用の労働者の方が解雇し易いという印象をもっているようですが、法律上はその逆でして、有期雇用の場合はよほどのことがない限り、期間満了まで待ちなさい旨規定しているのです。
無期雇用労働者については、合理的理由があり社会通念上相当ならば解雇は有効となりますが(もちろん、産前産後休暇など法律で解雇を禁止している期間は除きますが)、
有期雇用労働者については、「やむを得ない事由がある場合でなければ解雇できない」」と規定されています。
どっちが厳しいか一目ではわかりづらいですが、「やむを得ない事由がある場合」に限定されている有期雇用労働者の解雇のほうがホントは難しいのだと考えるべきです。
なにせ、双方了解のもと期間が定まっているのですから、不都合なら、期間満了後更新しなければいいのであって、途中で解約するとはよほどのことですよ、ということです。
まとめ
有期雇用はアルバイト、パートタイム、再雇用のシニア雇用など広く一般的にあるのですが、無期雇用転換や雇止めの問題が生じる可能性がありますので、漫然と有期雇用を繰り返し更新することは労務リスクを増大させるだけと言えそうです。
有期雇用者についても、その業務範囲や責任程度に合わせた評価制度をつくり、評価に基づき更新の是非を厳格に決定していくとか、期間が満了したら例外なく更新はしないとか、これまでの有期雇用に関する認識について反省すべき点はないか要検討ですね。
2020年10月13日と15日に「同一労働同一賃金」に関連する重要な最高裁の判決が相次いで出ました。判決当時にはすでに法が改正され、今は存在しない旧の労働契約法第20条に関する訴訟ですが、非正規労働者と正規労働者との待遇の相違が不合理か[…]
「非正規という概念をなくす」といった政府の働き方改革がありましたから、ここで短時間勤務の正規雇用制度を導入するとか、2~3年の雇用期間で評価をクリアしたものは5年を待たずに無期雇用転換対象とするとか、攻めの労務管理を検討したいところですね。