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賃金や労働時間計算における小数点以下の正しい端数処理の方法は

【いまさら聞けない】賃金計算や時間計算において、1円未満や1時間未満の端数が出てきますが、その際の正しい処理方法を知っていますか?
コンピュータに任せて具体的な計算方法は分からない、なんてことも・・・。
賃金支払い不足があった場合、3年(時効まで)さかのぼって支払わなければならないこともあり得ます。
不足総額=カットした端数金額×社員数×12か月×3年分
さかのぼると相当の金額になることも。そうならないためにも、いまいちど適正な方法を確認しておきましょう。

端数処理が必要となる場面

毎月の給与計算のほかに次のようなときに、社員の1時間当たりの賃金や1日の平均賃金額を求めることがあります。

1⃣遅刻、早退、欠勤などのノーワークに対して賃金カットをするとき
2⃣時間外労働や休日労働の際に支給される割増賃金の計算をするとき
3⃣年次有給休暇の取得や解雇予告手当・休業手当の支給、減給処分の際に平均賃金を求めるとき
4⃣業務上の負傷等に対する災害補償給付などを行うとき
これら賃金単価や1日の平均賃金額を算出する際には、必ずと言っていいほど端数の処理を伴うことになります。
労働者に不利な扱いはできない
端数処理に当たって念頭に置くべきことは、労働者に支払う賃金については労働基準法で定めた最低基準を下回ってはならない、ということです。
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階段に座る女性
そこで基本的スタンスとしては、賃金・時間数の端数処理に当たっては、常に切り上げ計算(不支給の対象とするときは切り下げ計算)をすることは、労働者保護の法律の目的に反しておらず、そうすれば労基法上の問題は生じない、ということです。
しかし、事務の簡便化の観点から金額を1,000円単位で扱いたいとか、100円単位で処理したいといった事務上の都合もあります。
そこで、労働者保護に欠けているとまでは言えず、労基法違反として刑事責任を問うことにはならないとされる処理方法が行政通達で示されていますので、端数処理を行う場合にはこれに従って対応します。

賃金計算における端数の取扱い

行政通達(昭和63.3.14基発150号)により、次の端数方法は労基法違反としては取り扱わないとしています。

 

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割増賃金計算における端数処理

次の方法は、常に労働者の不利となるものではなく、事務簡便を目的としたものと認められるから、労基法24条(賃金全額払い)及び37条(割増賃金支払い)違反としては取り扱わない、としています。

 

端数のある場合処理方法
1か月における時間外労働、休日労働、深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること。
1時間当たりの賃金額、割増賃金額に円未満の端数が生じた場合50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること。
1か月の時間外労働、休日労働、深夜業の各々の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合同上

 

ここで、時間外労働等の時間数については、1か月における合計を算出した場合の1時間未満の端数処理が示されており、決して、日々の時間数の端数を切り捨てる処理をしてはならないことに注意です。

1か月の賃金支払額における端数処理

次の方法は、賃金支払の便宜上の取扱いと認められるから、労基法24条違反としては取り扱われないとし、これらの方法をとる場合には、就業規則(賃金規程)の定めに基づき行うこと、とされています。

 

端数のある場合処理方法
1か月の賃金支払額(控除金がある場合には控除した額)に、100円未満の端数が生じた場合50円未満の端数を切り捨て、それ以上を100円に切り上げて支払うこと。
1か月の賃金支払額に生じた1,000円未満の端数翌月の賃金支払日に繰り越して支払うこと。

 

具体的な例

天引き後の賃金が、33万2,109 だとすれば、

❶の場合:100円未満の端数処理
33万2,100
50円未満の9円は切り捨て
❷の場合:1,000円未満の端数処理
➡33万2,000
109円は翌月に繰り越し
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遅刻、早退、欠勤等の時間の端数処理

5分の遅刻を30分の遅刻として賃金カットするといった処理は、ノーワークの時間を超えるカット(25分についてのカット)に当たりますので、賃金の全額払いの原則に反し違法となります。

このような取扱いを減給の制裁として就業規則に定め、労基法91条(制裁規定)の制限内で行う場合には、全額払いの原則が適用されず違法とはなりません。

つまり、遅刻などによるノーワークの分を超える賃金カットについては、制裁規定に基づいた懲戒処分としての減給だというのなら、労基法24条の全額払いは問題にならず、制裁規定の適用の結果のカット処理だということになります。

なお、減給の制裁を定める場合には、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならないこととされています(労基法91条)。
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手を広げる女性

特約がなければ1円未満を四捨五入

通達により、1か月の割増賃金に1円未満の端数が生じた場合に、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げることができますが、「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」第3条には「債務の支払金の端数計算」として同様のことが認められています。

この「通貨貨幣法」には、支払うべき金額の合計額に50銭未満の端数があるとき、その端数金額を切り捨てて計算するものとし、50銭以上1円未満の端数があるときは、その端数金額を1円と強いて計算するものとする、旨規定されています。

ただし、特約がある場合にはこの限りでない、とされていますので、就業規則(賃金規程)などに特約の規定として「100円未満の端数について、50円未満の端数を切り捨てそれ以上を100円に切り上げて支払う」などの規定があればこれが優先されることとなります。

 

平均賃金の算定における端数の取扱い

解雇予告手当や休業手当などの支払においては、平均賃金の30日分以上とか、平均賃金の60%以上という具体に、平均賃金の算出が求められます。

この平均賃金の算定における端数処理については、行政通達(昭和22.11.15基発232号)で次のとおりとされています。

一日の平均賃金算定に当たり、銭未満の端数を生じたときは、これを切り捨て、各種補償等においてはこれに所定日数を乗じてその総額を算出する。
「銭未満の端数」を切り捨てるとは、0.01円未満は切り捨て小数点以下第2位までの数値を用いて算定することで構わないということです。
具体的な例
一日平均賃金が、9,876円54銭32厘 の場合
銭未満の端数処理➡9,876円54銭
仮に5日分の休業手当を支払う場合
平均賃金×5日×60%
9,876円54銭×5日×60%
29,629円62銭
1円未満の端数処理
29,630
解雇予告手当も賃金に準じて端数処理
解雇予告手当は「賃金」には当たりませんが(昭和23.8.18基収2520号)、平均賃金額をベースに算定した額を支払うことから、就業規則に特段の規定がないなら休業手当に準じた端数処理が相当です。

労災保険における端数処理

参考までですが、業務上災害や通勤災害に対する補償や給付を行う労災保険では少し違う扱いになります。

労災保険では、休業補償給付などの金額を計算する基礎として「給付基礎日額」を用いますが、これは原則として労基法の平均賃金に相当する額とされています。

しかし、給付基礎日額に1円未満の端数があるときは1円に切り上げるとされています(労災保険法8条の5)。

また、労災保険では、休業補償給付については1円未満の端数があるときは、これを切り捨てるとされています(昭和49.7.10補償課長事務連絡)。

国の債権債務で金銭の給付を目的とするものは、確定金額に1円未満の端数があるときは、端数金額を切り捨てるとされています(国等の債権債務等金額の端数計算に関する法律第2条)。

さいごに

賃金や労働時間数の算定における端数処理は、労働者にとって不利になる方法は、賃金の全額払いに反することになりますから認められません。

ただ、事務簡便を目的としたものや、賃金支払の便宜上の取扱いと認められる方法で常に労働者にとって不利になるとまで言えない処理については、通達で示されており、これによれば違法扱いはしないとされています。

具体例として、過去3か月(暦日数91日)の給与総額が74万円、3日分の休業手当を支給するケースの計算例を見てみましょう。

●平均賃金
=74万円/91日
=8,131円86銭81厘【労基法12条】
➡8,131円86銭【銭未満を切り捨て】
(昭和22.11.15基発232号)
●休業手当3日分
=平均賃金×3日×60%
=14,637.348円
➡14,637円【1円未満を四捨五入】
(通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律)
又は
➡14,600円【100円未満を四捨五入】
(昭和63.3.14基発150号)
いかがでしたか?
基本的なことですが、単価計算や平均賃金の算定などの際には、労働者に対しては必ずしも不利になるとはいえないという方法に留意して処理していくことを押さえておきましょう。
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