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有期雇用に定年制を適用することで無期転換申込権が消滅するのか

1年ごとに更新する有期労働契約の社員について、最後の契約期間の終期を正社員に適用される定年制と同様な定年日(例えば60歳到達月の月末)までとする制度とした場合、通算した契約期間が5年を超えたとしても、定年退職者として無期転換の対象から外してもよいのでしょうか。

なお、有期雇用労働者の雇止めや無期転換に関する基本的なことはこちらの記事をご覧ください。

有期労働契約の不更新条項の有効性

有期労働契約を反復更新する中で、契約更新時に次回の契約期間満了後は契約の更新をしない旨の「不更新条項」を契約内容に入れる場合があります。

不更新条項のパターン

契約を更新しないことについて、有期労働契約の更新回数が上限に達することを理由にしたり、契約期間の通算の長さが上限に達することを理由にしたり、これらを組み合わせたりなどいろいろのケースがあり得ます。

定年日を迎えることを理由に、つまり一定の年齢に達したことを理由に雇用期間の満了日を設定することも、不更新条項の一種ともいえます。

 

不更新条項に関連する裁判事例

不更新条項によって雇止めとなる際に、解雇についての法的原理を類推適用して「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときには雇止めは許されない」といった雇止め制限法理との関係が問題になります。

こうした不更新条項と雇止め制限法理との関係に関する裁判事例には、次のようなものがあります。

❶雇用契約終了の合意があり、雇止め制限法理が適用されない
【平成17.1.13大阪地裁判決「近畿コカ・コーラボトリング事件」】

❷雇用契約の終了の合意は認められないことから雇止め制限法理が適用されるが、更新の合理的期待の程度は高くなく、雇止めを正当化する理由もあり、解雇権の乱用には当たらない
【平成25.4.25横浜地裁判決「東芝ライテック事件」】

❸不更新条項について自由意思による同意があり、雇用継続の期待利益を確定的に放棄したと認められ、雇止め制限法理の適用が否定される
【平成24.9.20東京地裁判決「本田技研工業事件」】
以上の裁判事例によると、不更新条項の有効性の判断に当たっては、これについて自由意思により同意したかが重要であり、自由意思による合意が認められ不更新条項が有効であっても、今度は、その後の事情により雇用継続に対する合理的期待が生じたか否かを踏まえ、雇止めの有効性が判断される、と言えます。

自由意思による同意

一般には、当初の採用時に交わした有期労働契約において、既に不更新条項が合意されていて、その後も他の有期雇用労働者についても例外なく同じ扱いがされているなど、継続雇用が期待されるような事情が生じていない場合には、この不更新条項について自由意思による同意があり、その条項により雇用終了の合意があると判断されることでしょう。

自由意思によらない”同意”

逆に、契約更新時に、今まで聞かされていなかった不更新条項が会社から持ち出され、今回限りの契約更新に応じないと更新自体をしないなどと通告された中で契約更新に応じることがあります。

こうした場合では、不更新条項について労働者の自由意思による同意があったと認められず、既にその時点で継続雇用についての合理的期待が生じていたなら、こうした不更新条項の同意をもってしても継続雇用の期待は否定されないことでしょう。

特に、無期雇用への転換を申込む権利が発生する直前に雇用契約期間の終期を設定するケースについては、無期転換権を定めた労働契約法18条の潜脱に該当したとして、こうした終期設定は無効との判断にもなりかねません。

ですので、終期の設定は無期転換権の行使を阻止するために行ったと評価されないよう慎重に対応する必要があります。

無期転換申込権の取得要件を確認

有期労働契約の無期労働契約への転換を申し込める権利を得てこれを行使するためには、次の3点を全て満たす必要があります。

無期転換申込権の行使要件は3つ

 

1⃣同一の使用者と1回以上有期労働契約を更新していること

同じ法人や個人事業主と、一度以上契約の更新をしている必要があります。

例えば、期間が3年間の有期労働契約を同じ内容で1度更新すれば、合わせて2回以上の有期労働契約を通算して6年、つまり5年を超える期間の労働契約を締結したことになります。

 

2⃣通算契約期間が5年を超えること

これまでの契約期間と現に開始されている有期労働契約期間の満了日までを合わせて判断します。

契約期間の途中で病気休職など実際の就労がなかった期間も通算期間に含めます。

「契約の通算期間」であって、「就労した期間」ではないからです。

 

3⃣契約期間満了日の翌日から無期の労務を提供する労働契約締結の申込みであること

現に開始されている有期労働契約期間の満了前に、期間満了直後に無期雇用として就労することを申し込みます。

 

以上の1⃣~3⃣がそろっていれば、無期転換申込権を取得した上でこれを行使できます(労働契約法18条1項)。

無期転換申込権を取得した後は、その後さらに有期労働契約を更新した場合であっても、無期転換申込権はその後の各契約期間の満了前に行使できます。

 

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定年制とは雇用期間の定めのない労働者に適用

無期雇用の場合

定年制は本来、終身雇用制のような雇用期間の定めのない労働契約において、定年までの雇用保障や勤務年数の積算上のメリットを享受するために設定されている面があり、長期にわたる労働契約の終了事由を一定の年齢に達することとするものです。

無期雇用ゆえ就労上限年齢を一律的に定めることで、あらかじめ長期的な労働契約期間の終点を明確化しようとするものです。

 

有期雇用の場合

これに対して、有期労働契約の雇用期間の長さは、労基法が規制する上限期間の範囲内で労使が任意に定めるものであって、契約締結時にその期間の始期と終期を定めます。

有期労働契約は、事業の完了時期や臨時的な業務への対応などに着目して必要な雇用期間を意図するのが建前であり、したがって、無期雇用のような長期にわたる労働契約関係に立つことを予定しない建前のはずです。

そこで、定年制なる考えは本来、有期労働契約には入り込む余地がないと言えます。

高年齢者雇用安定法第9条(注:定年の定めがある場合の65歳までの雇用確保措置)は、主として期間の定めのない労働者に対する継続雇用制度の導入等を求めているため、有期労働契約のように、本来、年齢とは関係なく、一定の期間の経過により契約終了となるものは、別の問題であると考えられます(厚労省高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)A1-11)。
つまり、有期労働契約において、契約する雇用期間の終期を、例えば、正社員の定年日である「満60歳に達した日の属する月の月末」と同じルールを適用しその日までを限度とする場合、それは「有期労働契約の定年」を定めたものではなく、単に契約不更新となる終期について統一的な取扱いをしたに過ぎないとも解されます。

期間の定めのない労働契約とみなされる場合は定年適用

仮に、有期労働契約を繰り返し更新し、その実態によっては期間の定めのない労働契約を締結していると評価されるほどの状況になっている場合もあります。

そのような場合は、有期労働契約であっても、もはや正社員と同様、65歳までの安定した雇用の確保措置(再雇用や継続雇用など)が義務付けられることとなります(高年齢法9条)。

有期契約労働者に関して、就業規則等に一定の年齢に達した日以後は契約の更新をしない旨の定めをしている場合は、有期労働契約であっても反復継続して契約を更新することが前提となっていることが多いと考えられ、反復継続して契約の更新がなされているときには、期間の定めのない雇用とみなされることがあります。
これにより、定年の定めをしているものと解されることがあり、その場合には、65歳を下回る年齢に達した日以後は契約しない旨の定めは、高年齢雇用安定法第9条違反であると解されます(厚労省高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)A1-11)。
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定年を60歳とする有期労働契約を考える

最初の有期労働契約を交わす際に不更新となる年齢(例えば60歳)があることを承知した上で、有期労働契約を更新している場合を想定してみましょう。
通算期間が短いケース
58~59歳程度で採用された有期雇用労働者について、通算期間が1~2年程度で不更新年齢の60歳に達したことを理由に雇止めとなった場合には、当初から不更新条項に同意しており、その間に継続雇用の合理的期待も生じていないのであれば、一般的にはこの雇止めは有効と判断されることでしょう。
その場合でも、不更新年齢は有期労働契約における「定年」とは解されないことでしょう。
通算期間が長いケース
通算期間が5年を超えるような場合に不更新年齢に達したときはどうでしょうか。
無期転換申込権を取得する中で、不更新年齢で雇止めとなる場合、当初から不更新条項による契約終了の合意をしていたとしても、それは無期転換申込権の放棄までも意味するとは必ずしも言えません。
最初の有期労働契約を交わす際に、「契約更新があったとしてもその限度は不更新年齢に達するまで」ということが合意されていたとしても、通算期間が5年を超え無期転換申込権が取得できた際にもこの権利を放棄するということまで労働者の自由な意思により合意されていたのかが不明です。
さらに、契約更新も形式的に繰り返されてきたなどにより通算期間も長期にわたる場合には、無期転換申込権が生じたか否かにかかわらず、期間の定めのない労働契約とみなされることもあります。
そうなれば、不更新年齢は有期雇用の不更新条項としてではなく、「定年の定め」をしているものと解されることとなり、それが65歳を下回る年齢に達した日以降は契約しない旨の定めだとすると、その定めは高年齢者雇用安定法第9条違反であると解される、ということになるのです。
つまり、有期労働契約が繰り返し更新され通算期間が長くなると、無期転換申込権の取得とその行使が認められる場合や、期間の定めのない労働契約における「定年」を定めていると解されるに至り、それが65歳以上を設定していない限り違法となります。
このように、有期労働契約において「定年」を設定することは、むしろ65歳までの雇用継続を期待させるものになりかねず、結局、有期労働契約において「定年」を導入することは雇用期間が有期であることと「調和しない」と言えそうです。

定年日の前に契約期間が通算5年を超える場合

有期雇用期間の終期が、正社員の定年日に相当する日と設定した場合で、その日の前にすでに契約期間が通算5年を超えているときのことを少し整理しましょう。

労契法18条1項の適用に当たっては、無期転換を申込んだ時点で、申込時の有期労働契約の契約期間が満了する日の翌日から労務が提供される始期付き無期労働契約が成立すると解されます。

申し込みがあれば、使用者は当該申込みを承諾したものとみなされ、その時点で契約期間満了日の翌日を就労開始日とする無期労働契約が成立する。
したがって、たとえば、労働者の無期転換申込権の行使にあわてた使用者が、当該労働者を雇止めしたとしても、無期労働契約の成立そのものは阻止しえないのである(菅野和夫「労働法」第11版補正版317頁)。

したがって、現に締結している雇用契約の期間満了日の前の段階で、労働契約法規定の無期転換申込権を取得して行使できる要件を満たしている限り、期間満了日までに申込みをすれば満了日の翌日に無期転換することになります。

ここで、有期雇用契約期間の終期である日がどういう理由でその日に設定されたのかにかかわらず、その日は有期雇用契約期間の終期としての意味しかないと考えられます。

雇用期間の終期が正社員の「定年日」に当たるとしても、無期転換申込権を行使した有期雇用労働者はその終期の翌日からは無期転換して労務を提供するという契約がすでに成立している以上、その終期は有期雇用労働者の「定年退職日」にはなり得ません。

 

無期転換申込権の放棄は可能か

無期転換申込権が発生する前に有期雇用労働者の自由意思でその権利を放棄することはあり得ます。

無期転換申込権は労働者個々人の選択権であるので、合理的な理由があってそれが本人の真意に出ていると認められれば、放棄できると考えられる。
……無期転換権が発生する前の時点での交渉によって、無期転換権を放棄する代わりに自分が納得できるプレミアムを獲得したという場合には、放棄の意思表示は合理的な理由があり真意に出た意思表示として、有効と認めて差し支えない(菅野和夫「労働法」第11版補正版317頁)。
一方で、労働者の意思表示が自由で合理的な意思表示とは認められない場合には、労働者の無期転換申込権の放棄は無効とされ、現に遂行中の労働契約期間の終期までに無期転換の申出をすると、当該の雇用期間満了翌日から無期雇用が開始されるという労働契約が成立します。

定年日以降に無期転換した場合

厚労省Q&Aにおいても、定年年齢を超えて無期転換した者に当然にその定年が適用されるものではない旨説明しておりますので、この扱いに準じると、「定年日」の翌日以降について、無期転換した労働者について特段の定めがない場合には、その労働者はこれまでの有期労働契約の内容をベースにした労働条件で期間の定めのない労働契約に入った状態と解されます。

有期契約労働者が、既に企業等において定めている定年の年齢を超えた後に無期転換申込権を行使した場合(例:60歳定年制の企業において、62歳に通算5年を超える有期契約労働者が無期転換申込権を行使した場合など)についても、同様に無期転換ルールは適用になります。
この場合、上記定年が、定年の年齢を超えた後に無期転換した労働者に当然に適用されるわけではないことに注意が必要です。
【「無期転換後の労働条件編」Q7(無期転換ハンドブック18頁)】

まとめ

有期労働契約における「定年」設定と無期転換申込権との関係などを整理してみました。

総論としては、

●有期労働契約と「定年制」とは調和しないこと
●定年制を有期労働契約に取り込むことはむしろ期間の定めのない契約や継続勤務の期待につながること
●有期雇用の不更新条項への合意には自由意思を阻害しないような事情が求められること
●無期転換申込権の取得前にはその行使を放棄する場合も自由意思によることが客観的に明白な場合にはあり得ること
●無期転換申込権の取得後はその行使により現に遂行中の有期雇用期間の満了日の翌日から無期雇用の労務提供をする契約が成立すること

などと整理されます。

無期転換後の労働条件は、別段の定めがない限り、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件とする(契約期間のことは除かれますが)旨労働契約法18条に規定されています。

しかし、無期転換申込権を行使した有期雇用労働者について期間の定めのない労働者になるというだけにとどめるのは現実的には課題があります。

これを機に無期転換した者についての責任や負担、異動範囲等についても就業規則を整備するのが重要と言えます。

65歳を第二定年として設定し65歳までの雇用確保を図るのか、60歳超え65歳までの間にグループ会社への出向を見込むのか、など従来の無期雇用社員同様、有期からの無期転換者についても高年齢労働者の労務管理としての制度設計をすることが求められるのではないでしょうか。

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