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履歴書のJIS規格様式は廃止、厚労省様式の性別欄は任意記載に

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2021年4月16日、厚労省は履歴書の様式例を新たに作成し公表しました。JIS規格から履歴書の様式例が削除されたなどの背景があり、厚労省は公正な採用選考を確保する観点から作成したものです。これまでのJIS規格の様式例との違いなどを見てみましょう。

履歴書の性別欄は任意記載欄とした

 

履歴書の様式例にこれまであった「男・女」欄を任意記載に変更しました。

 

厚生労働省労働政策審議会安定分科会提出資料から抜粋

 

 

性別欄を任意記載欄としたのは、性自認の多様な在り方に対応するためと厚労省は解説しています。

 

応募者が記載したい内容で記載し、未記載も有りとしています。性別の把握が必要な場合には面接時などで適切な方法で確認することは可能、としています。

 

性別を確認する必要がある場合の例

 

どういうときに、男女の性別を確認する必要性が生じるのでしょうか。

次の3つの例を厚労省は示しています。

 

性別確認の必要例

❶ 坑内業務など特定の性別の者を就業させることができない場合に事業者として把握の必要が生じることがあります。

❷ 女性活躍推進法や次世代育成法による事業主行動計画で目標値の設定や情報公開にあたり、男女の応募者数の把握の必要性が生じることがあります。

❸ 男女雇用機会均等法に基づき、女性を積極的に採用する必要から把握の必要性が生じることがあります。

 

こうした事情による場合には募集時などに性別の確認を行うことはあるのでしょうが、履歴書の性別欄への記入を応募者に強いることとなっては問題です。

 

 

LGBTQ等支援団体の指摘

 

NPO法人ReBitによる調査では、トランスジェンダーの約9割が就活の際に困難を感じたとのことですが、履歴書の性別欄への記入を強いることは応募者にカミングアウトを強いることであって、アウティングという人権侵害に相当する、とNPO法人POSSEの方も指摘しています。

 

こうした団体からは、履歴書に性別を書くことは、その情報を入社後も不特定多数の人が見られる状況があれば、性的少数者だと暴露されるアウティングになる恐れがある、との指摘もあり、今後とも性別欄の完全削除を求めていくとしています。

 

厚労省「新たな履歴書の様式例の作成について」リーフレット要旨
性別の把握が必要な場合には、理由を説明し、応募者本人の十分な納得の上で行うようにし、性別の回答を強要することのないよう配慮をすべき。

 

 

履歴書から通勤時間や配偶者情報なども削除された

 

応募者のプライバシー要素が非常に高い情報であるとして、次の4つの欄は削除されました。

 

厚労省労働政策審議会安定分科会提出資料から抜粋

 

削除された4つの欄はつぎのとおり。

 

削除事項

❶ 通勤時間
❷ 扶養家族(配偶者をのぞく)
❸ 配偶者
❹ 配偶者の扶養義務

 

こうした情報について把握していた場合は、公正採用選考に留意した上で次の質問例を参考に面接時等に確認するようにと厚労省は指摘しています。

 

なお、

 

 質問は面接者全員に行うこと

 これらの質問を行う必要がある場合は、あらかじめ求人票や募集要領等に、関係する情報を記載すること

 

以上について厚労省は留意事項として掲げています。

 

質問例は以下のとおり

 

1⃣超過勤務・休日出勤関係

 当社では時期により早朝出勤、深夜までの残業、休日出勤をお願いする場合がありますが、対応は可能でしょうか。また、対応ができない場合、朝何時から、または夜は何時頃までであれば勤務可能でしょうか。

 

 

2⃣緊急対応関係

〇〇により当番制でオンコール対応(〇〇分以内の出勤)がありますが、対応は可能でしょうか。

 

 

3⃣配置先関係

 配置先は複数の営業所が候補となりますが、どの営業所でも勤務は可能でしょうか。

 配置先について配慮して欲しいことがあれば、その理由とともに教えてください。

 

 

4⃣転勤関係

 転勤をお願いする場合がありますが、対応は可能でしょうか。

 転勤のお願いにあたり配慮すべきことはありますか。 

 

 

5⃣その他

 当社で勤めるにあたり、配慮すべきこと等お伺いしておいた方が良いことはありますか。

 通勤時間が概ね〇〇分以上の場合、宿舎の利用もできますが、希望はありますか。

 

 

パート労働者の場合

 扶養の範囲内での勤務などは必要ありますか。

 

 

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厚労省策定の様式例には法的拘束力はない

 

厚労省が新たに作成した履歴書の様式例については参考として示したものであり、何ら法的拘束力はなく、そのためこの様式を使用するかどうかは個別の企業の判断になります。

 

この様式以外の履歴書やエントリーシートなどを活用することも可能です。

 

厚労省「作成した様式例の位置づけ」

●公正な採用選考を確保するため、履歴書の様式例を示すもの。

●公正採用選考の周知・啓発は法律に基づくものではなく、企業の理解を得て行っているもの。

●別の様式の応募用紙を使用する際には、就職差別につながる項目を含めないよう留意が必要。

 

 

まとめ

 

2020年6月に、NPO法人POSSEと当事者たちが経産省にJIS掲載の履歴書にある性別欄の削除を求めて要望活動を行ったことを機に、「履歴書が動いた」わけですが、文房具大手企業も2020年8月にJIS規格から履歴書様式例が削除されたことを受け、性別欄を削除するに至りました。  

 

JIS規格(JIS Z 8303「帳票の設計基準」)に掲載されていた履歴書の様式については、規格の内容を説明する際の様式例の一つとして掲載していたものであって、様式例そのものを規定しているものではない、として削除されたのです(2020年7月17日 一般財団法人日本規格協会公表)。

 

2021年4月16日以降、厚労省は全国の都道府県労働局へ厚労省作成の履歴書様式例を通知し、管内事業所へ周知するよう指示しています。

全国の各使用者団体に対しても、会員企業への周知協力を依頼しています。

 

公的機関として履歴書の様式例を示しているのは、この厚労省作成のものしかありません。

 

厚労省は、今後はこの様式例の活用状況等を把握し、適宜活用状況について公表するとしていますが、特に、性的少数者と言われる方々からの要望・意見により企業における活用の仕方などに変化があれば、将来、様式例の内容も変化せざる得ないのではないかと考えられます。

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