育児休業を取得していた従業員が職場復職するに当たって、社内体制の変化や復職者の今後の時短勤務の実施などを考慮し、休業前にいた部署とは違う部署に配属させる、あるいは別の営業所への転勤を命じることは、育児休業法に照らして問題はないのでしょうか。
元の部署や元の業務に復帰させないことが直ちに法違反になるものではない
育児休業法には、原職復帰を義務付ける規定はありません。
ただし、厚労省の指針(平成21年12月28日告示第509号)において、育休者については原則として原職や原職相当職に復帰させるように配慮することを求めています(指針第二の七)。
また、その他の労働者についての配置については、育休者が原職や原職相当職に復帰することを前提にして行うことについて配慮することも求めています。
原職復帰させないこと自体が直ちに違法となるものではありませんが、職場復帰時の待遇の内容によっては、法で禁止している不利益取扱いに該当するなどとして、違法・無効とされる場合があることには注意を要します。
休業後の賃金や配置などの労働条件に関する事項は、あらかじめ社内規程等に定めておくとともに、周知することとされています(法21条の2第1項第2号)。
ですので、原職復帰以外の異動があり得るのであれば事前に知らしめておくべきです。
原職復帰が無理なときは不利益取扱い禁止や配慮義務に反しないよう注意を怠らない
育休法は、次の禁止事項や措置努力、配慮義務を規定していますので、育休からの復帰時に、休業前の部署や業務とは違った配置替えなどをする場合には、これらの各規定に照らして問題とならないように十分注意する必要があります。
❷育休後に休業者が円滑に就業できるよう必要な措置を講ずる努め(法22条)
❸就業場所の変更の場合には特に子の養育状況に配慮する義務(法26条)
職場復帰の際に注意する禁止事項、措置努力、配慮義務とは
育休者の復職に当たって関連する「禁止事項」「措置努力」「配慮義務」について、もう少し具体的にみてみましょう。
1⃣育休を申出・取得したことを理由として不利益取扱いをすることは禁止
労働者が育児休業の申出又は取得したことを契機として行われた不利益取扱いは、原則として育児休業の申出又は取得をしたことを理由として不利益取扱いがなされたと解されます。
原則として育児休業の事由の終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合は、「契機として」いると判断される旨、行政は解しています(厚労省「育児・介護休業法のあらまし」)。
ですので、育休者に対して「不利益な配置の変更を行った」と判断されるような復帰を強いると、それは「育休取得を理由とした不利益取扱い」と判断されます。そうなると、その配置は違法と判断され無効扱いとなってしまうのです。
なお、実施時期が事前に決まっているとか、定期的に行う人事異動や人事考課、雇止めについては、育休の事由の終了から1年超えであっても、その事由終了後の最初のタイミングまでの間に、もし不利益取扱いをした場合には、「契機として」いると判断されます(厚労省「育児・介護休業法のあらまし」)。
不利益取扱いと判断される例
不利益取扱いとなる行為については、不利益な配置の変更も含め、指針で次のものが該当するとしています。
❶解雇
❷有期雇用契約者についての雇止め
❸契約更新の上限の引き下げ
❹退職強要、非正規社員への労働契約変更強要
❺自宅待機命令(育休終了予定の延長を強要するものも含む)
❻意に反して残業・深夜業の制限や時短措置等を適用
❼降格
❽減給や賞与等における不利益算定
❾昇進・昇格の人事考課で不利益評価
❿不利益な配置の変更
⓫専ら雑務に従事させる等就業環境を害する
例外は次の2つ
特段の事情があるとして違法ではないと言い得る例外は次の2つがあります。
かつ、
❷業務上の必要性が不利益取扱いによる影響を上回る場合
この場合は、育児休業を契機としていても、法が禁止している「育児休業取得を理由とする不利益取扱い」ではないと解されます。
これは次の点を勘案して判断されます。
❶経営状況を理由とする場合
・債務超過や赤字の累積など不利益取扱いをせざるを得ない事情が生じているか
・不利益取扱いを回避する真摯かつ合理的な努力がなされたか
・不利益取扱いが行われる人の選定が妥当か
❷本人の能力不足・成績不良・態度不良等を理由とする場合
・妊娠等の事由の発生以前から能力不足等を問題としていたか
・不利益取扱いに内容・程度が能力不足等の状況と比較して妥当か
・同様な労働者に対する不利益取扱いと均衡が図られているか
・改善機会を相当程度与えたか否か
・同様な労働者と同程度の研修・指導などが行われたか
・改善機会を与えてもなお改善する見込みがないと言えるか
❷有利な影響が不利な影響の内容・程度を上回り、事業主から適切に説明がなされるなど、一般的な労働者なら同意するような合理的な理由が客観的に存在するとき
この場合は、そもそも法が禁止する「不利益取扱い」に該当しないと解されます。
これは次の点を勘案して判断されます。
❶事業主から労働者に対して適切な説明が行われ、労働者が十分に理解した上で当該取り扱いに応じるかどうかを決めることができたか
❷不利益取扱いによる直接的影響だけでなく、間接的な影響(降格に伴う減給等)についても説明がなされたか
❸書面など労働者が理解しやすい形で明確に説明されたか
❹自由な意思決定を妨げるような説明がなされていないか
❺契機となった事由や取扱いによる有利な影響があって、その有利な影響が不利な影響を上回っているか
つまり、同意したことが客観的に本当の了解であったという状況があるなら、不利益取扱いには当たらないと言ってよいでしょう、ということです。
2⃣原則として原職又は原職相当職に復帰させるよう配慮することが求められる
指針においては、育休後は原則として原職又は原職相当職に復帰させるよう配慮することとされています。
❷休業前と休業後とで職務内容が異なっていないこと
❸休業前と休業後とで勤務する事業所が同一であること
以上のいずれにも該当する場合には、原職相当職と判断されます(令和元年12月27日雇均発1227第2号)。
3⃣配置の変更後に子の養育が困難とならないよう意を用いる必要
子の養育を行っている従業員にとって、転居を伴う転勤により、雇用継続が困難となったり職業と家庭の両立に関する負担が著しく大きくなる場合があり得ます。
そこで、配置替えで就業場所の変更を伴う場合に、それにより就業しながら子の養育を行うことが困難となる従業員がいるときには、その従業員の子の養育状況について配慮することが事業主の義務となっています(法26条)。
❷配偶者等の家族の状況
❸就業場所近辺における育児サービス状況
通勤や子の養育等の観点からは通常甘受される範囲内の異動であるかどうか確認する必要があります。
まとめ
育休者が職場復帰するときには、休業前にいた部署への復帰が育休者にとっては慣れ親しんだ労働環境でもあり、負担感も少ないので最も望ましいと考えるのは自然です。
しかし、1~2年の休業中に職場の業務執行体制等が変化しているのも自然です。
ですので、諸事情を考慮し、育休者が望む原職復帰ができない場合には、あらかじめ育休者に異動の件を説明し理解してもらうように努めることがトラブル防止のためにもなります。
仮に、復職先の業務について経験不足であるなら、会社は育休中に復帰後の業務に関する情報を適宜提供するなどして復職の準備が円滑にできるよう支援する配慮も求められると考えます。
社内の育児休業規程には休業後の労働条件を明確化しておき、必ずしも原職復帰ばかりでないことが想定されるのであれば、規程にはその旨規定し事前に周知しておくべきでしょう。
いずれにしても、育休者の復職に当たって配置替え等の異動を行う場合は、育児休業の取得を契機に育休者にとって経済的・精神的に不利益となる取扱いをしたとして、その異動は違法・無効であると指摘されないよう諸事情について慎重に検討し適切な対応をすべきですね。