2021年4月から、規模301人以上の企業は、毎事業年度ごとに正規雇用労働者の中途採用比率を公表することが義務化されました(改正労働施策総合推進法)。
どんな内容を、どのように公表しなければならないのでしょうか。
大企業に伝統的に残る新卒一括採用中心の採用制度の見直しを期待
その年に採用した正社員のうち中途採用した人数がどの程度かを示す「中途採用比率」については、2017年度のデータとして、規模5,000人以上の大企業では37%程度に過ぎませんが、規模300人未満の中小企業では77%程度もある状況です(下図参照)。
転職が増加傾向にあっても、企業規模が大きくなるほど中途採用比率は低く、大企業では安定雇用の機会が新卒中心に提供されている実態ですので、「人生100年時代」を迎え、中途採用の環境整備を一層推進する必要に迫られた、というわけです。
以下、厚労省通達(令和3年2月1日 職発0209第3号)、厚労省2021年2月9日公表「中途採用比率の公表における解釈事項等について」に基づき整理しました。
中途採用比率の公表は一事業年度ごとに一回以上、直近3事業年度分
公表頻度などは以下のとおりとされています。
正規雇用労働者の中途採用比率の公表は概ね1年に1回以上、公表した日を明らかにして公表
最初の公表は、2021年4月以後の最初の事業年度で、準備でき次第可能な限り速やかに実施する必要があります。
次回からは、前回公表から概ね1年以内に公表することとされています。
公表期日については、きっかり1年ごとにすることまでは求められていませんので、各事業年度ごとに準備でき次第速やかに公表することを心掛けていればよいことになります。
対象は直近の3事業年度(正社員採用活動が終了した年度)における採用比率
対象となる直近の事業年度は、正社員の採用活動を終えた中途採用者の状況を「見える化」することができる状態となった最新の事業年度を含めた3事業年度を指します。
仮に4月から事業年度が始まる企業において、2021年8月時点で公表するときに、2021年度の正社員採用活動がまだ継続しているのなら、既に採用活動が終了した2020年度~2018年度の3事業年度が対象となります(下図参照)。
グループ企業全体で一括採用を実施し、各社ごとの採用比率の計算が困難なら、グループ全体での採用比率で代替可能
グループ企業であっても、各社ごとに募集採用しているのなら、中途採用比率も個社において公表します。
中途採用比率の公表の方法はホームページや事業所への掲示などで可
公表のやり方ですが、特に行政機関への書類提出などは不要であり、以下のように「見える化」を図ります。
公表は求職者等が容易に閲覧できるように行う必要がある
公表の方法は、自社のホームページや厚労省がインターネット上に開設する職場情報総合サイト「しょくばらぼ」の利用も可能で、求職者が容易に目にすることができるように行います。
公表に当たってはどこに情報が掲載されているかを明確にする
その他の方法として、日刊紙への掲載、会社事務所の見やすい場所に備え付ける、求めに応じて一般の人が知り得るようにする方法でも差し支えないとされています。
そもそも採用自体を行っていない年についてはその旨を公表
正社員の採用活動自体を行っていない年については、その旨を記載することとされています。
そのときは、「0%」ではなく、「正規雇用労働者の採用は実施せず」などと記載します。
公表する中途採用比率の値は原則として整数値
各事業 年度における「正規雇用労働者の採用者数(A)」に占める「中途採用者数(B)」の割合が中途採用比率です。
したがって、
公表する中途採用比率 = B /A × 100
となります。
小数点以下は四捨五入して整数値を公表します。
計算結果が 18.42 なら 「18%」 です。
通達では、小数点以下第2位以下の位を四捨五入した値を公表しても差し支えないとしていますので、
計算結果が18.42 なら 「18.4%」 でもかまいません。
内定者・試用期間中の者・退職済みの者については「実際に採用した」ことに着目して整理
雇用が確定していない者などについての扱いについては、厚労省の解釈が示されています。
採用比率の計算において公表対象年度の終了時点における内定者は計算に含めない
対象年度の終了時点で雇用が開始されていた者のみを中途採用比率の計算に含めることとされていますので、内定者(始期付き解約権留保付労働契約)は計算に含みません。
採用比率の計算において公表対象年度の終了時点における試用期間中の者は計算に含める
対象年度の終了時点で正規雇用労働者として雇用が開始されていれば、試用期間中の者(解約権留保付労働契約)についても、中途採用比率の計算に含めます。
採用比率の計算において公表対象年度に採用したが公表時点で既に退職している者も計算に含める
対象年度内に実際に採用を行い、勤務を開始した者については、公表時点で退職済みであっても、中途採用比率の計算に含めます。
さらに「中途採用」として取扱うか否かに関する厚労省の解釈が示されている
中途採用とは、新規学卒等採用者以外を指します。
高年齢者の再雇用労働者は中途採用とは扱わない
継続雇用制度における再雇用労働者については、労働者の募集に対する採用とは異なる性質のものであり、中途採用としては取り扱われません。
雇用している非正規雇用労働者が正規雇用労働者に転換した場合には中途採用として取扱う
例えば、契約社員として契約後、正規雇用労働者に転換した場合などは、正規雇用労働者に転換した事業年度における中途採用として取扱います。
グループ会社等からの転籍や出向してきた者は中途採用として取扱われない
転籍や出向については、転籍先・出向先の事業主における中途採用として取扱われません。
さいごに
●第4次産業革命と言われる急速な技術革新が進展する中で、企業の内部労働市場だけでは必要な人材の確保は難しく、中途採用を通じて経験豊富な人材、専門性を有した人材を確保するニーズも高まっている。
●職業生活の長期化が見込まれ、労働者の主体的なキャリア形成による職業生活のさらなる充実や再チャレンジが可能となるよう、中途採用に関する環境整備をさらに推進していくことが必要
【令和3年2月9日職発0209第3号、令和元年6月21日閣議決定「成長戦略実行計画」等】