男性の育児休業取得促進を図る等のために、2021年6月の通常国会で育児介護休業法の改正が行われ、あらたに『出生時育児休業制度』が創設されました。産後8週間内に取得することから、厚労省は「産後パパ育休」と呼んでいるようです。2022年10月から施行されましたが、どんな制度なのか整理しました。
子の出生直後の時期における柔軟な育休の枠組み
育児休業は子が1歳(最長2歳)までに1回取得するのを原則としていますが、「出生時育児休業」は子の出生後8週間以内で4週間まで取得可能な育休です。
この育休の取得は、一般の育休とは別枠で扱われますので、この制度による休業のほかに、しかるべき時期に一般の育児休業も取得可能です。
出生時育児休業は、4週間分を分割して2回取得も可能であり、また、要件がそろえば休業中に就労も可能とされています。
このように、子の出生直後に柔軟な育休を取得しやすい制度を創設し、特に男性の育休の増加を期待するものなのです。
出生時育児休業と一般の育児休業の違いは次の表のとおりです。
育児休業制度については、令和4年(2022年)4月1日、同年10月1日、令和5年(2023年)4月1日、の3段階を経て制度改正が施行されています。各内容を確認しましょう。育児休業制度の主な改正事項と施行時期 […]
出生時育児休業の申出を拒否できる対象者
過半数労働者代表との書面協定で定めた次の者からの申出は拒むことができます。
②一週間の所定労働日数が2日以下の労働者
「子の出生の日から起算して8週間を経過する日の翌日から6月を経過する日までに、その労働契約が満了することが明らかでない者」に限り、この休業の申出が可能
❷有期雇用契約者について2回分割扱いしないケース
労働契約の終了予定日を出生時育児休業の終了予定日として育休しているものが、労働契約の更新がなされた結果、更新後の労働契約の初日からこの休業を開始する予定とする申出をする場合は、これを「2回分割して取得した」という扱いにはしない
出生時育児休業の取得の申出は原則2週間前までに
出生時育休の申出は、原則として休業の2週間前までに行うこととされています。
仮に、2週間を切っているなら、本来の2週間経過日との間で事業主が指定することができます。
ただ、法を上回る取り組みを事業場で実施することを労使協定で定めている場合は、申出は1箇月前までとしてよいとされています。
労使協定で定める職場環境整備等の措置は以下の3つ
1⃣ 雇用する労働者に関して次のうち2以上の措置を講ずること
⓵ 育休に係る研修の実施
② 育休に関する相談体制の整備
③ 育休取得に関する事例収集と提供
④ 育休制度と取得促進に関する方針の周知
⑤ 育休取得の円滑化のための業務配分、人員配置に係る必要な措置
2⃣ 育休取得に関する定量的な目標を設定し、育休取得促進方針を周知すること
3⃣ 労働者の意向確認のための措置を講じた上でその意向把握のための取組を行うこと
休業開始日の繰り上げと終了日の繰り下げのルール
休業開始予定日の変更のルール
開始予定日の前日までに、予定日前の出産などを理由に、前倒し開始の申出を「1回限り」可能。
ただし、変更申出から1週間を超える先の日を「変更後の開始予定日」としないときは、事業主が変更後の開始予定日を指定可能。
休業終了予定日の変更ルール
当初の終了予定日の2週間前の日までに、「1回に限り」事由を問わず、終了予定日を繰り下げることが可能。
申出が2週間を過ぎる場合には、事業主はこれに応じる義務はありません。
分割して2回取得可能
一般の育休では、原則として休業を分割することはできませんが(子の出生後8週間以内に父親が育休を取得した場合に再度育休を取得できる=パパ休暇は認められました)、出生時育休においては、2回取得可能です。
なお、一般の育休についても法改正により、2022年10月から2回まで分割可能となりました。
出生時育児休業期間中の就労ルール
一般の育休では、休業中にあらかじめ予定して就労するようなことはできませんが、出生時育休では労使協定締結の上、定められた労働者については、事前に調整した合意の範囲内で、休業中に就労が可能です。
ちなみに、一般の育休中に労働者が一時的に、会社に申し出て就労すること自体は問題ないとされていますが、休業を取得している労働者が10日(10日を超える場合は80時間)以内の就労なら育児休業給付金の対象者として維持されます。
ただ、就労により収入が一定あると給付金はゼロになることもあります。
育児休業期間中の就労が、臨時・一時的であって、就労後も育児休業をすることが明らかであれば、職場復帰とは扱わず、支給要件を満たせば育児休業給付も継続して受け取れます。しかし、就労日数や時間が一定数以上になれば給付金は支給されなくなるなどのデメ[…]
出生時育休中に就労する場合の手順
1⃣ 労働者が条件を申出
予定日前日までに
②その日の就業可能時間帯(所定労働時間内に限ります)
③その他の条件
を会社に申出しておきます。
申出は書面の外、会社が認める場合はFAXや電子メール送信でも可能です(注意!書面化可能なものに限定されます)。
2⃣ 会社が申出条件の範囲内で、候補日、時間を労働者に提示
②就業希望日について時間帯やその他の労働条件
を速やかに回答します。
事業主からの提示も書面の外、労働者が希望する場合はFAXや電子メール送信でも可能です。
3⃣ 労働者の同意
事業主からの提示に対して労働者が同意するとき、書面の外、会社が認める場合はFAXや電子メール送信でも可能です。
4⃣ 事業主から同意を得た事項を通知
次の事項を速やかに通知します。
②就業させることとした日時その他の労働条件
事業主からの通知は書面の外、労働者が希望する場合はFAXや電子メール送信でも可能です。
就業可能日等に上限がある
休業中の就労については、日数や労働時間数の上限規制があります。
❷ 就業日の労働時間合計は出生時育休期間における所定労働時間合計の半分以下
❷ 就業日の労働時間合計は出生時育休期間における所定労働時間合計の半分以下
休業中就業を同意撤回できる場合
休業中の就業について、特別の事情が生じたときには同意を撤回できますが、次の事情のある場合とされています。
事業主は、労働者に対して以下の事項の事実を証明する書類の提出を求めることができます。
❷配偶者が負傷、疾病又は身体・精神上の障害その他これらに準ずる心身の状況により出生時育休申出に係る子を養育することが困難な状態になったこと
❸配偶者が申出に係る子と同居しないこととなったこと
❹申出に係る子が負傷・疾病等心身の状況により2週間以上にわたり世話を必要とする状態になったこと
不利益取扱い禁止
事業主は労働者に対して、休業中の就業に関する次の事由を理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはならないとされています。
❷休業中に就業を希望する旨の申出が事業主の意に反する内容であったこと
❸申出に係る就業可能日等の変更をしたこと又は当該申出の撤回をしたこと
❹休業中の就業に係る事業主からの指示に対して同意をしなかったこと
❺休業中の就業に係る事業主との同意の全部又は一部の撤回をしたこと
育児休業を取得していた従業員が職場復職するに当たって、社内体制の変化や復職者の今後の時短勤務の実施などを考慮し、休業前にいた部署とは違う部署に配属させる、あるいは別の営業所への転勤を命じることは、育児休業法に照らして問題はないのでしょう[…]
まとめ
産後8週間以内に4週間まで、2回に分割して育児休業を取得できる制度が創設されました。
その休業途中で、合意の範囲内で就業も可能という柔軟な制度となっています。
2022年10月からこの新制度は施行されましたが、1割程度しかいなかった男性の育休取得率が新制度を活用することで上昇することが期待されており、そのため各企業では社内の意識改革と業務遂行方法・体制の改革など種々の取組が求められそうです。