こんにちは 『ろうどうブログ』は労働法に関する記事を中心に構成されています。

兼務出向時に会社が取り交わす労働時間通算管理に関連した覚書例

出向のうち特に兼務出向の契約を締結する際に、労働時間の管理に関して取り交わす覚書の例を示します。

兼務出向では出向元も出向先も労働時間の通算管理が必要

労基法には、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」(労基法38条1項)という規定があります。

そのため、週の一部の日のみ出向するような兼務出向の場合には、出向者は出向元と出向先の双方で就労することから、出向者の労働時間管理については、出向元、出向先の双方での労働時間を通算して管理することになります。

出向前

実際の出向勤務をする前の段階では、出向元と出向先それぞれの勤務すべき日の所定労働時間を通算して、その合算時間数が1日8時間又は週40時間を超える日や週が仮にあるのなら、初めから出向先での勤務の一部に時間外労働に該当する勤務時間が含まれていることになります。

自らの事業場における所定労働時間と他の使用者の事業場における所定労働時間とを通算して、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合は、時間的に後から労働契約を締結した使用者における当該超える部分が時間外労働となり、当該使用者における36協定で定めるところによって行うこととなること(令和2.9.1基発0901第3号)。
その時間外労働に該当する部分は、出向先では所定労働時間内であっても、割増賃金の支払い義務のある時間外労働とされ、出向先では出向先の36協定で定めた一日や一か月、一年の時間外労働の上限数を超えない範囲内か確認しておく必要があります。
出向後
出向勤務が開始された後では、当初の所定労働時間の通算に加えて、出向元での実際の所定労働時間と出向先での実際の所定労働時間を、所定外労働時間が行われる順に通算して、法定超えの時間部分に対してその勤務を行わせた事業場側の法定時間外労働となります。
(副業・兼業の開始前)の所定労働時間の通算に加えて、自らの事業場における所定外労働時間と他の使用者の事業場における所定外労働時間とを当該所定外労働時間が行われる順に通算して、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合は、当該超える部分が時間外労働となること(令和2.9.1基発0901第3号)。
出向においては、出向契約の取り決めにより労働時間管理の扱いを明確にしておくことが求められますので、例えば出向先での勤務日数が出向元での勤務日数より少ないのなら、労働時間の実績を出向元に集約して、出向元が労働時間全体の管理を一元的に行う方法が考えられます。
出向元で実際の勤務もしつつ出向する兼務出向では、これまで労務管理を行ってきた出向元に勤労関係の各種情報を集約し、出向元が計算等を引き続き行う一方、賃金等負担の在り方は別途定めておくという管理の仕方を採用する会社は少なくないのではないでしょうか。

労働時間管理に係る覚書の例

兼務出向者の労働時間管理に関する取扱いについて、兼務出向契約の締結に当たって取り交わしておく覚書の一例は次のとおりです。
1 労働時間の通算管理について 
労働時間の通算管理を適用させることを双方が確認します。

兼務出向社員に関する労働時間の取扱いについて(覚書)

注)甲=出向元、乙=出向先

甲及び乙は兼務出向社員の乙における勤務に当たり、労働時間管理については下記の取扱いがなされることを確認するとともに、甲及び乙は当該事項を踏まえた出向契約を締結するものとする。

あああああああああああああああああ

1 労働基準法第38条第1項の規定による労働時間の通算は、甲における労働時間制度を基に、乙における労働時間と通算することによって行う。

2 甲における労働時間と乙における労働時間とを加算して、甲の労働時間制度における法定労働時間を超える部分が法定の時間外労働となること。

2 出向前の時間外労働について 
仮に出向開始前に双方の勤務予定日における所定労働時間を通算すると法定時間外労働に当たる時間がある場合にはその確認をします。
3 兼務出向開始前において、甲における所定労働時間と乙における所定労働時間とを通算して、甲の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合は、乙における当該超える部分が時間外労働として、乙の36協定で定めるところにより乙の勤務を行うこと。
3 出向後の時間外労働について 
出向開始後の実際の勤務によって時間外労働が発生する場合の取扱いを確認します。
4 兼務出向開始後において、甲における所定外労働時間と乙における所定外労働時間とを当該所定外労働が行われる順に通算して、甲の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合は、当該超える部分が時間外労働となること。
4 時間外労働の上限規制について
労基法で規定されている上限規制を遵守することを念のため確認します。
5 甲及び乙は、通算して時間外労働と休日労働の合計が、時間外・休日労働の上限規制(注1)の範囲内となるよう、1か月単位で労働時間を通算管理すること。
5 割増賃金の支払いについて
出向開始後の実際の勤務において、通算によって時間外労働となる部分のうち、自社で労働させた時間についての割増賃金の支払い義務があることを確認します。
6 甲及び乙は、甲における労働時間制度を基に、乙における所定労働時間、所定外労働時間について、甲乙の順に所定労働時間を通算し、次に所定外労働の発生順に所定外労働を通算することによって、各社での所定労働時間、所定外労働時間を通算した労働時間を把握し、その時間について、自社の労働時間制度における法定労働時間を超える部分のうち自社で労働させた時間について自社における就業規則で定められた率の時間外労働の割増賃金を支払う義務があること。
6 有効期間等について
覚書の有効期間等を定めます。

7 この取扱いについて疑義が生じた場合は、甲乙双方が誠意をもって協議し、取り扱いを確認すること。

8 この取扱いについては、20××年3月31日までとし、その期日を超えて乙において兼務出向社員が勤務するときには、甲は期日の30日前までに乙と必要な協議を行うものとすること。

以上。

    
(注1)
時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満、複数月平均80時間以内とすること(労基法36条6項2号及び3号)。
なお、月の労働時間の起算日が甲と乙とで異なる場合には、各々の起算日から起算した1か月における上限をそれぞれ設定することとする。

広告

まとめ

兼務出向は、出向元での就労と出向先での就労の二重就労になりますので、副業・兼業に類似した扱いになります。

そこで、厚労省「副業・兼業ガイドライン」や通達「副業・兼業の場合における労働時間管理に係る労働基準法第38条第1項の解釈等について」(令和2年9月1日基発0901第3号)も踏まえて、出向関係各社が労働時間の通算規定の適正な運用が求められます。

兼務出向関係者が労働時間管理に関心をもつことで出向者への負担増が避けられるとの観点で、兼務出向契約を締結する際に念のため双方が確認しておくべき事項を覚書として交わしておくのは一定意味があるものと言えます。

最新情報をチェックしよう!

労働法をもっと理解したい

職場で生じる人事労務に関する問題やトラブルに的確に対処するには、基本的なルールと判例、行政通達の理解が欠かせません。不安や疑問の生じた際などに当ブログを手軽にチェックしてみてください。

CTR IMG