副業・兼業の導入にはまだまだ多くの企業が慎重な中、政府方針として「労働者が一つの企業に依存することなく主体的に自身のキャリアを形成することを支援する観点から」普及促進するとされ、そのためのガイドラインが策定されました。さらに「実効性のある労働時間管理について検討を進めた」結果を反映した改訂版が2020年9月に策定されましたので、その主な内容を見ていきましょう。
副業・兼業を制限できる場合とは?
ガイドラインでは、
安全配慮義務、秘密保持義務、競業避止義務、誠実義務この4事項に支障ある場合は副業・兼業を禁止・制限できるとするのを基本的考え方としましょう、
と副業や兼業については原則禁止ではなく、原則可能という立場を強調しています。
労働時間の通算管理の基本を押さえよう
複数事業場で労働する場合は労基法どおり労働時間は通算管理することになります。
特に、平均月80時間以内、月100時間未満の労働者個人ごとの時間外労働の上限規制については、通算して適用されますのでその点は十分注意する必要があります。
労働時間の通算の仕方は自社の労働時間と、労働者の自己申告などで把握した他社の労働時間を通算することで行う、として上限規制の管理は抜かりなく行わなければならないことを強調しています。
副業・兼業の開始前から”残業時間”確定
自社と他社の所定労働時間を通算(合算)して、法定時間超がある場合は、その部分は後から契約した会社の時間外労働になります。
副業・兼業を開始した後の労働時間通算の考え方
労働時間の通算については、以下のとおり順を追って整理します。
❶所定労働時間の通算をする
❷所定外労働時間が行われる順に、所定外労働時間を通算する
❸自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分が時間外労働となる
❹各々の使用者は、通算して時間外労働となる時間のうち、自らの事業場において労働させる時間については、自らの事業場における36協定の延長時間の範囲内とする必要がある
❺各々の使用者は、通算して時間外労働となる時間(他の使用者の事業場における労働時間を含む)によって、時間外・休日合わせて月100時間未満、平均月80時間以内の遵守のため、1か月単位で通算管理する
❻自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分のうち、自ら労働させた時間について時間外労働の割増賃金を支払う必要
簡便な労働時間管理の方法がある
常に労働者に不利益にならないような運用となる管理方法を選択すれば、他の事業場の実労働時間をいちいち把握しなくても労基法を遵守できる〈管理モデル〉があります。
その仕組みは以下のとおりです。
つまり、いつも他社が上限まで労働させているであろうということを前提に労働時間・残業時間を算定するもので、管理のわずらわしさを免れる一方で費用負担が増えるという方法です。
この〈管理モデル〉を適用する場合は、先契約会社が管理モデルによることを求め、労働者と後契約会社がこれに応じることによって導入可能となります。
健康管理に十分留意する
使用者側の指示により副業等を開始した場合
他社との情報交換、難しいときは労働者からの申告から他社時間を把握し、自社時間と通算した時間に基づき健康確保の措置を実施
使用者が労働者の副業等を認めている場合
健康保持のための自己管理を行うよう指示し、心身不調があれば都度相談を受けることを伝え、必要に応じ法を上回る健康確保措置の実施など健康確保に資する措置を実施
労働者の対応
・就業時間等が適切な副業等を選択すること、
・自ら業務量や進捗状況、時間や健康状態を管理すること、
・他社の業務量や健康状況等について会社に報告することは企業の健康確保措置を実効あるものとする観点から有効、
以上の点を気に留めていて副業・兼業に就くことと指摘しています。
複数事業場で労働することを反映した労災補償についても制度改正
例えば、副業している者がどちらかの事業場で災害にあって休業する場合では、これまでは実際に災害が発生した事業場に関してだけ休業による賃金補償が認められ、残りのもう一つの事業場についても休業せざるを得なかったとしてもそちらの事業場の賃金補償までは労災補償の対象になりませんでした。
この点を制度改正し、休業の補償に関しては両社の賃金を合算して算定するように変更されたことや、本業事業場から副業事業場に移動する際に災害にあったときは通勤災害として労災保険の給付対象となるなどの制度改正が020年に行われました。
本業のほか兼業や副業など複数の事業場で就労する労働者(複数事業労働者)の負傷、疾病、障害、死亡に関しては、以前までは労災が発生した一つの事業場の賃金額だけをベースに労災補償の給付額が算定されていました。しかし、労災保険法の改正により[…]
まとめ
複数事業場で就労する際の労働時間の通算管理の方法や、複数事業場での就労を前提にした労災補償制度の改正について説明しましたが、
ついでに触れると、
一つの事業場では労働時間数が短すぎて雇用保険の適用が無理でも、二つの事業場の労働時間を合算すると雇用保険が適用される基準をクリアするなら、65歳以上の労働者からの申出により雇用保険の対象とする制度改正を2022年1月から試行的に開始することとされました。
どのような形態の副業・兼業をするにしても、健康の確保、法定労働時間の規制の趣旨を踏まえて、長時間労働とならないよう、種々の留意事項がガイドラインで示されたので、必要に応じて確認しておくべきですね。