所定の休日に少しだけ仕事をする必要があり、例えば半日勤務した場合に、その分を他の勤務日に振替し半日の休日にすることで、割増賃金を支払わなくてもよい「休日振替」を行ったことになるのでしょうか。
単なる連続24時間の休息では休日を取得したことにはならない
ここで、「休日」とは労働基準法35条で規定する休日のことです。
●使用者は、労働者に対して毎週少なくとも1回の休日を与えなくてはならない。
●4週間を通じて4日以上の休日を与える使用者については適用しない。
この休日の期間をどう考えるかについては行政通達があります。
【昭和23.4.5 基発535号】
したがって、暦日で終日の休息をしていない限り、法で規定した休日を取得したとは認められません。
半日の休日では、「半日の休日労働をした」こととなり、決して「半日の休日を取得した」ことにはならないのです。
運用上、暦日単位の休日でなくても違法扱いされないものもある
一般的な企業においては上記のとおりですが、一部の労働態様や業種については暦日単位以外の休日が運用上認められています。
【昭和26.10.7 基収3962号、昭和63.3.14 基発150号】
【昭和57.6.30 基発446号】
【平成元.3.1 基発93号】
振替休日は労働契約上それができる場合に実施可能
休日とは、労働契約において労働義務のないとされる日をいいます。
したがって、使用者から特別の要請がない限り、労働者は休日に就労しなくても制裁を受けることはなく、また、使用者も労働者に対し債務不履行の責任を追及し得ない(労働法コンメンタール 労働基準法・労働省労働基準局編)、と解されています。
そういう性格ですので、休日の振替を行う会社では、就業規則などに
「業務の必要により所定休日を他の日に振替えることがある。その場合、事前に休日の振替を行う日を特定するものとする」
などの規定をしておき、振替があり得ることを労働契約の内容にしておく必要があります。
【三菱重工業横浜造船所事件 横浜地裁 昭和55年3月28日判決】
JR会社に係る裁判事例によると、労働日や労働時間が特定される1か月単位の変形労働時間制においては、より厳格に扱い、この振替規定については、労働者からみてどのような場合に実施されるのかにつき予測可能な程度に事由を具体的に定める必要があるとされています。
法定休日と所定休日の違い
休日は、毎週1回が原則ですが、4週4日も選択できます。
行政は、4週4日は例外であることを徹底すべしと昭和22年9月に通達しています。
が、現在のように週休二日制が一般的になった段階では(建設業や運輸業など屋外型業種ではまだ課題?)休日労働が所定休日の労働に当たるのか、法定休日の労働に当たるのかの区分が関心事項になります。
どういうことかと言うと、法定休日は法の規定する週1回の休日か4週間で4日の休日を指し、その日に休日労働すると35%以上の割増賃金(休日労働手当)の支給が必要になります。
一方、それ以外の所定休日に休日労働をすると、同じ「休日労働」と称していても、法律上は法定休日を上回る休日での労働であり、時間外労働(残業)として25%以上の割増賃金の支給をすれば足りる、という違いが生じます。
法定休日では実際に就労した時間が長くても休日労働として35%以上の割増賃金の支給対象となるだけです。
これに対して、法定休日労働には当たらないその他の所定休日労働の労働時間については、全部、時間外労働の労働時間数に加算されます。
法定休日以外の所定休日については半日振替の運用は可能
休日には「半日休日」などはないことを説明してきましたが、すべて労働基準法で定めた「法定休日」についての扱いです。
では、法定休日以外のその他の所定休日についても同様の考え方をすべきでしょうか。
法定休日は原則として暦日でなければならないのですが、法定外の休日についてはなんら制約はありません。
したがって、法定休日ではない休日については、半日で付与することは可能であり、それに応じて他の労働日の半日を振り替えて休息とすることも可能と考えられます。
もちろん、労働契約(就業規則の規定など)で取扱いを明確化しておかなければなりません。
法定休日に関しては暦日単位での厳格な対応をする一方で、その他の所定休日については、休日出勤の労働時間数に応じて時間単位の振替「休息」制度を就業規則で規定すること自体は、柔軟な働き方にも資する方策として何ら問題ないものと考えます。
法定休日が確保されるなら36協定届出においては「休日労働なし」で届出
社内で休日労働ができるとされていても、法定休日がしっかり確保されるのであれば、法定休日労働がない以上、労働基準監督署に提出する36協定届において、休日労働の欄には何も記載する必要はありません。
【昭和23.12.18 基収3970号】
どの休日が「法定休日」に該当するか不明な場合の取扱い
毎週1日の休日しかない事業場では法定休日は明白ですが、例えば週休二日制で、法定休日を特定する規定もないときには、月に8日程度ある休日のうちどれが法定休日に該当するかについては判然としません。
通達では法定休日を特定することが望ましいとしていますが、法は何ら特定することを求めておらず使用者の義務ではありません。
例えば、休日を土曜日及び日曜日、国民の祝日、12月30日から翌年1月3日までの年末年始、などのように規定して、4週間で4日以上の休日を設け、特にどれが法定休日であるかを規定しないことは多いのではないでしょうか。
結局、4週間で4日以上の休日を所定休日としている事業場では、休日労働を行った結果、残りの休日が起算日からの4週間で4日のみとなったところで、その後の休日労働はすべて法定休日の労働に該当すると解釈されます。
法定休日が特定されていない場合で、暦週(日曜日から土曜日)の日曜日及び土曜日の両方に労働した場合は、当該暦週において後順に位置する土曜日における労働が法定休日労働となる。
4週4日の休日制を採用する事業場においては、ある休日に労働させたことにより、以後4週4日の休日が確保されなくなるときは、当該休日以後の休日労働が法定休日労働となる。
【平成21年10月5日 厚労省「改正労働基準法に係る質疑応答」】
1月に60時間以上の時間外労働があった場合には、25%以上の割増賃金ではなく、その時間分は50%以上の割増賃金を支給しなければなりません(中小企業については、2023年4月から適用)。
法定休日ではない休日に労働した場合には、その時間数を他の労働日の時間外労働(残業)時間に加算し合わせると、当該月における全体の時間外労働が50%以上の割増となる月60時間を超えることになる場合もあるわけです。
法定休日労働の労働時間については、「時間外労働」とは別物なので(残業の概念がないので)、この50%以上の割増賃金支給の対象となる労働時間には加算されないのです。あくまでも35%以上の割増率でよいのです。
このように、休日勤務が法定休日労働なのか所定休日労働なのかの区分が、割増賃金の算定に影響を及ぼすことになるわけです。
単純な一日における労働時間の延長による残業の算定とは違い、法定休日が絡む時間外労働や休日振替の場合の時間外労働や休日労働の扱いについては間違い易いので要注意です。1か月単位の変形労働時間制で休日の振替をした結果、時間外労[…]
なお、通達では暦週の起点を特段規定していなければ、日曜日を起点として説明していますが、裁判事例のなかには、日本のこれまでの社会通念からは日曜日を法定休日とすべきであると判断したものもあるようです(HSBCサービシーズジャパンリミテッド事件 東京地裁平成23.12.27判決)。
いかがだったでしょうか。
少し長い記事になってしまいましたが、法定休日と所定休日の違いについて整理しました。