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紫色の水晶玉5個

フレックスタイム、1か月変形、残業代を節約できるのはどっち?

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同じ1か月を単位とする「フレックスタイム制」と「1か月単位の変形労働時間制」のどちらを導入するほうが、時間外労働(残業)を少なめに算定できるのか、言い換えると、残業代を節約できるのはどちらのほうでしょうか?比較してみました。

変形労働時間制としての基本的特性を比較

それぞれの変形労働時間制としての基本的な特性を確認しましょう。

 

1か月単位の変形労働時間制

あらかじめ労働時間を特定

1か月単位の変形労働時間制を採用する場合には、就業規則(労使協定で定めこれを労基署長あて届出することでも可)により、変形期間において平均して1週間当たりの労働時間が法定労働時間以内となるよう、各日、各週の労働時間を具体的に定めることが必要となります。

いくら変形期間を通じて結果的に1週間当たりの平均労働時間が法定労働時間の範囲内となったとしても、使用者が業務の都合により任意に日々や週の所定労働時間を変更できるような制度ではありません。

1か月単位の変形労働時間制は、36協定の締結がなくても、業務の繁閑に応じてあらかじめ法定労働時間を超える日や週を定めることができるという点にメリットがある制度です。

例えば、1年間の勤労カレンダーなどを作成しておき、日ごとの所定労働時間の長短と休日をあらかじめ設定することで、時間外労働や休日労働を一定抑えることができます。

 

フレックスタイム制

各日・各週の労働時間は不特定

フレックスタイム制は、3か月以内の一定期間(清算期間)内の総労働時間を、清算期間を通じて平均して1週間当たりの労働時間が法定労働時間以内となるよう定めておき、従業員がその範囲内で各日の始業及び終業の時刻を選択できる制度です。

清算期間を通じて平均して1週間当たりの労働時間が法定労働時間以内とする点は、清算期間が1か月以内の場合は、1か月単位の変形労働時間制と全く同じです。

しかし、フレックスタイム制は、必ず就労しなければならないコアタイムを置く場合以外では、遅刻・早退の概念はありません。

 

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変形期間が1か月以内の法定労働時間枠

変形期間が1か月以内の場合は、どちらの制度でも、法定労働時間の総枠は次の計算で算出されます。

40時間×[1か月以内期間の暦日数÷7日]

例えば、1か月を期間として、31日の暦日数の月では、

40時間×31日÷7日=177.1時間

が1か月の法定労働時間の総枠となります。

 

なお、フレックスタイム制では、❶週休二日制、❷労使協定の締結 の2条件がそろえば、法定労働時間の総枠を
8時間×所定労働日数
とすることも可能です。

 

基準法32条の3第3項にかかる行政通達趣旨
完全週休二日制の下で働く労働者についてフレックスタイム制を適用する場合においては、曜日のめぐり次第で、1日8時間相当の労働でも清算期間における法定労働時間の総枠を超え得るという課題を解消するため、完全週休二日制の事業場において、労使協定により、所定労働日数に8時間を乗じた時間数を清算期間における法定労働時間の総枠とすることができるようにしたもの。
この場合において、次の式で計算した時間数を1週間当たりの労働時間の限度とすることができるものであること。

8×清算期間内における所定労働日数÷清算期間の暦日数/7

 

 
副主任
この扱いは、フレックスタイム制に限っての規定であり、1か月単位の変形労働時間制には適用されないので、注意しませんとね。
 
 

時間外労働、休日労働の算定方法の違いを比較

変形労働時間制において、25%以上の割増賃金を支払わなければならない法定外の時間外労働や休日労働についての算定方法は、同じではありません。

 

1か月単位の変形労働時間制では、日・週・変形期間ごと算定

1か月単位の変形労働時間制における残業は、日、週、全期間ごとに算定するので、少し面倒です。

 

法定外の時間外労働

次の❶から❸を合計した時間数が法定外の時間外労働となります。

 

❶日単位での時間外労働の算定

一日に関しては、就業規則により所定労働時間をあらかじめ8時間以上と定めた日については、その日の残業は全部そのまま法定外の時間外労働となり、それ以外の場合は通常の扱いどおり8時間を超えて労働した時間が法定外の時間外労働となります。

例ⅰ 所定10時間の日に2時間残業 ➡ 2時間の法定外の時間外労働

例ⅱ 所定4時間の日に6時間残業 ➡ 2時間の法定外の時間外労働

 

❷週単位での時間外労働の算定

一週間に関しては、就業規則により40時間以上の時間を定めた週については、それを超えた時間数がそのまま全部法定外の時間外労働となり、それ以外の場合は通常の扱いどおり40時間を超えて労働した時間(❶で時間外労働となる時間を二重計算しないよう除く)が法定外の時間外労働となります。

例ⅰ 所定44時間の週に❶を除いて47時間労働 ➡ 3時間の法定外の時間外労働

例ⅱ 所定38時間の週に❶を除いて41時間労働 ➡ 1時間の法定外の時間外労働

 

❸変形期間単位での時間外労働の算定

変形期間全体に関しては、変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(❶と❷で算出した時間外労働を二重計算しないよう除く)が法定外の時間外労働となります。

 暦日数が31日の月で❶と❷を除いて1か月178時間労働したとき

➡ 178-31日÷7日(177.1)

=0.9時間の法定外の時間外労働

 

以上の❶から❸の合計時間数が、変形期間内の法定外の時間外労働となります。

❶から❸に対しては、25%以上の割増賃金を支払うことになります。

 

法定内(所定外)の時間外労働

法定外の時間外労働に加えて、所定労働時間(例えば月174時間)を超え、法定労働時間(例えば月177.1時間)の範囲内である「法定内・所定外の労働時間」に対して、「時間単価分×時間数」以上の賃金を支払います。

 

所定外労働時間(法定外労働時間を除く)

≦ 177.1時間(法定労働時間)-174時間(所定労働時間)

=3.1時間以下

 

分の賃金(割増なし)を支払う必要があります。

 

休日の振替による時間外労働

1か月単位の変形労働時間制は、あらかじめ各日、各週の所定労働時間が定められていますので、8時間や40時間を超える日、週を設定していても、その部分は法定外の時間外労働にはなりません。

しかし振替によって、就業規則で法定時間を超える所定労働時間が設定されていない日について、他の日と振替したことによって、8時間超えや週40時間超えとなったときには、超えた分は法定外の時間外労働と扱われてしまうことに注意です!

 

休日振替の結果、就業規則で1日8時間又は1週40時間を超える所定労働時間が設定されていない日又は週に1日8時間又は1週40時間を超えて労働させることになる場合には、その超える時間は時間外労働となる。
昭63.3.14基発150号、平6.3.31基発181号

 

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深夜労働の女性
 

 

フレックスタイム制では清算期間の末日算定

清算期間が1か月以内のフレックスタイム制では、日々又は週の勤務実績では法定外の時間外労働は確定せず、清算期間の末日に正確な時間外労働が算定されます。

 

法定外の時間外労働

法定外の時間外労働となるのは、清算期間における法定労働時間の総枠を超えた労働時間です。

法定外の時間外労働=1か月の実労働時間総数-40時間×(清算期間内の暦日数÷7)

例えば、週40時間制適用事業場で、清算期間を1か月とし、暦日数が31日の月では

法定外の時間外労働=1か月の実労働時間総数-177.1時間

となります。

1か月以内の清算期間における実労働時間総数が法定労働時間を超えないが、所定労働時間である総労働時間を超えるときは、法定内・所定外労働として賃金を支給する必要がありますが、これは1か月単位の変形労働時間制のときと全く同じです。

 

休日振替による時間外労働

フレックスタイム制において清算期間内で「4週間で4日の法定休日」について振替しても、4週間で4日の休日を確保できている限り、休日労働は生じません。

 

具体的に法定外の時間外労働を比較してみる

暦日数が31日の月で23日の勤務日のある場合の1か月単位の変形労働時間制の例を次の図に示します。

 

1か月単位の変形労働時間制の例

 

所定労働時間が8時間を超える日、40時間を超える週があっても、1か月の法定労働時間(177.1時間)内なので、変形労働時間制として認められます。

ただし各日、各週の労働時間はあらかじめ定められている必要があるのがミソです。

 

1か月単位の変形労働時間制での法定外の時間外労働を計算

上の図で、第3週の15日(日)の所定労働時間はあらかじめ10時間、20日(金)は4時間に設定されており、第3週の1週間の所定労働時間は40時間を下回る38時間に設定されています。

ここで、15日には時間の残業を行い、20日には時間の残業をしたとします。

その他の日には一切残業をしないものとします。

 

第3週の15日と20日のみ残業した場合

 

 

1⃣ 15日について

12時間の労働となりますが、日については、あらかじめ8時間以上の10時間が設定されていることから、2時間分の残業はそのまま法定外の時間外労働となります。

 

2⃣ 20日について

10時間の労働となりますが、日、週、月ごと算定します。

❶日については、8時間を超える2時間分が法定外の時間外労働となります。

❷週については、すでに算定済みの❶を除き、残りの4時間のうち2時間を週の労働時間として加算してもまだ40時間以内ですが、さらに残りの2時間を加算すると40時間を2時間超えますので、この2時間分が法定外の時間外労働となります。 

❸変形期間(月)については、❶と❷を除き、残りの2時間を月の総所定労働時間である174時間に加算しても、法定労働時間である177.1時間以内ですので、この2時間分は法定外の時間外労働には当たりません。

以上により、第3週の15日の2時間と20日の6時間の合計8時間の残業があったとしても、割増賃金の支払いが必要な法定外の時間外労働は、1⃣と2⃣を合わせた6時間となります。

 

フレックスタイム制での法定外の時間外労働を計算

同様な例をフレックスタイム制に当てはめてみます。

フレックスタイム制でも、1か月の総労働時間(所定労働時間)が174時間とすると、これに15日の2時間と20日の6時間の計8時間の残業時間分が労働時間に加算されることになります。

 

そうすると、法定外の時間外労働は、

実労働時間総数 - 法定労働時間

=(174+2+6)時間- 177.1時間

=4.9時間

 

フレックスタイム制では、8時間分の労働時間の加算があったとしても、この例では法定外の時間外労働は4.9時間となります。

 

比較結果

このように、上の例ですと、特定の週に8時間の残業があっても、フレックスタイム制では4.9時間分が法定外の時間外労働となるのに対し、1か月単位の変形労働時間制では6時間分が法定外の時間外労働となり、フレックスタイム制の方が、時間外労働は少なめに算定されることが分かります。

 

まとめ

紫色の水晶玉5個

❶1か月単位の変形労働時間制は、あらかじめ法定労働時間を超えていなかった日や週について、振替によって法定労働時間を超えることとなるときは、変形期間内の総労働時間数が不変でも、時間外労働が発生してしまいますので、柔軟な労働時間制とまでは言えません。

一方、フレックスタイム制は、名称のとおり、日や週の労働時間の定めがない柔軟な制度であり、清算期間全体で時間外労働の整理ができる制度です。

ですので、フレックスタイム制では日々や週の労働時間の変動は、清算期間内で飲み込まれますので、時間外労働の発生は一定抑えられる制度と言えます。

❷休日を振り替えたことにより週の労働時間が40時間超えとなることで、時間外労働が加算されるといった問題を避けることができるのもフレックスタイム制の特長です。

フレックスタイム制においては、清算期間が1か月を超える場合には、1か月ごとに区分して各1か月ごとに1週平均が50時間を超える部分も時間外労働に算定されますので、清算期間が1か月以内のときとは時間外労働の算定の方法に違いがあることには注意が必要です。

❸1か月単位の変形労働時間制は、予期しない時間外労働や休日労働があまりないものの、1年を通じて日や週によってあらかじめ法定労働時間を超えることが見込まれるような労働実態があるところでは、一定適合する制度と言えます。

それぞれの制度の特性を踏まえ、自社に最もなじむ制度を導入するほかありませんが、フレックスタイム制は、1か月単位の変形労働時間制より柔軟性があることにより、残業時間、残業代を比較的抑えることのできる制度であると言えます。

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