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【労働者性】労働基準法上の労働者に当たるか否かの判断基準は?

労基法9条には「労働者とは、……事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と規定しています。しかし、「使用される」「賃金を支払われる」に該当するのか否か曖昧なまま、業務を依頼し報酬を支払っているものの、労働者扱いをしていないことに何かしら不安になったり、疑問を感じたことはありませんか?

労働者性については種々の要素を勘案し総合的に判断するしかない

労働者ではないとして扱ってきた者について、その後、労基法上の労働者性が肯定されれば、事業主としては労働者保護法規の全面適用により一気に多くの責務を負うことになります。

労働者性の判断は、業務を依頼する時点できちんと整理しておかないと、後日、重要な結果をもたらしかねませんので、十分慎重を期すべきです。

とは言うものの、労働者性の判断は難しいものです。

庸車運転手、一人親方大工、取締役、インターンシップ、保険代理店の保険勧誘員、受信料集金受託者、住み込み世話人等々、労働者性の有無が問題とされた多くの裁判例があります。

”直感的に”裁判でも労働者性の肯定事例と否定事例は概ね半々だろうと言っても過言ではないと感じます。

それほど、労働者性についての判断は容易ではなく、裁判でも、労災保険の審査請求事案でも、判断要素のうちどれを重視するかの違いで結果が分かれている?とさえ思えてしまいます。

 

裁判事例の積み重ねを踏まえた判断要素

 

1985年12月19日に旧労働省に設置された労働基準法研究会が裁判事例の判断要素を整理して

『労働基準法の「労働者」の判断基準について』

をまとめ提唱しました。

 

次の事項を総合的に勘案することで、個別具体的に判断するとしています。

 

厚労省「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会」(資料3-3)より抜粋加工

 

この判断要素を理解するには、具体的な事件ごとの裁判例を見るのが早道です。

 

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裁判から見える労働者性の判断基準

 

労基法上の労働者性に関する裁判例5件を紹介(上記検討会資料より抜粋加工)

 

❶最高裁平成8年11月28日判決「横浜南労基署長事件」

自己所有のトラックを持ち込み、会社の指示に従って製品等の輸送のため運転業務に従事していた庸車運転手が、災害を被ったことにつき労災保険法上の労働者として労災保険給付を請求した事例
労働者性を認めなかった。
会社の指揮監督の下で労務を提供していたと評価するには足りない。報酬の支払方法、公租公課の負担等についてみても、労基法上の労働者に該当すると解するのを相当とする事情はない。
会社は運送という業務の性質上当然に必要とされる納入時刻等の指示をしていたにすぎず、業務遂行に関し特段の指揮監督を行っていたとは言えない
時間的・場所的拘束の程度も、一般の従業員と比較してはるかに緩やか
報酬支払方法、公租公課の負担等についても労基法上の労働者に該当すると解するのを相当とする事情はない
❷最高裁平成17年6月3日判決「関西医科大学研修医未払い賃金事件」
医師国家試験に合格し、医院において臨床研修を受けていた研修医について、最低賃金額を下回る報酬しか支払われていないとして、最低賃金と受給金額との差額及びその遅延損害金に支払を求めた事例
労働者性を認めた。
病院の指揮監督の下で労務の提供をしたものとして労基法所定の労働者に当たり、最低賃金法所定の労働者に当たるというべき
臨床研修指導医の指導の下に研修医が医療行為に従事することを予定しており、これらの行為は病院の開設者のための労務の遂行という側面を不可避的に有することとなるのであり、病院の開設者の指揮監督の下に行ったと評価できる限り、労基法9条所定の労働者に当たる
病院が定めた時間・場所において、指導医の指示に従って医療行為等に従事していたといえる
病院は奨学金等として支払った金員につき、給与等に当たるものとして源泉徴収を行っていた
❸最高裁平成19年6月28日判決「藤沢労基署長事件」
作業場を持たずに、一人で大工仕事に従事する形態で稼働していた大工について、労災保険上の労働者性が争われた事例
労働者性を認めなかった。
労基法上の労働者に該当せず、労災保険法上の労働者にも該当しないというべき
仕上がりの画一性、均質性が求められることから、寸法,仕様等につきある程度細かな指示を受けていたものの、具体的な工法や作業手順の指定を受けることなく、自分の判断で工法や作業手順を選択できた
工期に遅れがない限り、仕事を休んだり、所定の時刻より後に作業を開始したり、所定の時間前に作業を切り上げたりすることも自由であった
工事従事を求めた会社は、大工に他の工務店等の仕事をすることを禁じていたわけではなかった
報酬は完全な出来高払いの方式が中心とされ、大工の報酬は会社の従業員の給与よりも相当高額であった
一般に必要な大工工具一式を自ら所有し現場に持ち込んで使用しており、当該工事においてのみ使用する特殊な工具が必要な場合に限り会社所有の工具を借りていた
年休や退職金制度の適用を受けず、国民健康保険組合の被保険者となっており、給与等として所得税の源泉徴収をする取扱いをしていなかった
❹東京高裁平成14年7月11日判決「新宿労基署長事件」
映画撮影技師がプロダクションとの撮影業務契約に基づき映画撮影に従事中、旅館で脳梗塞を発症し死亡したことについて、遺族が業務に起因するとして新宿労基署長に遺族補償給付を請求したところ、技師は労働者に該当しないとの理由で不支給処分となったため、処分取り消しを請求し、地裁では労働者性が否定されたが、高裁で肯定された事例
労働者性を認めた。
使用者との使用従属関係の下に労務を提供していたものと認めるのが相当
映画製作は監督の指揮監督の下に行われるものであり、撮影技師は監督の指示に従う義務があり、映画に関しての最終的な決定権限は監督にあったというべきであり、技師と監督との間には指揮監督関係が認められるというべき
技師のプロダクションへの専属性は低く、プロダクションの就業規則等の服務規律が適用されていないこと等使用従属関係を疑わせる事情もある
報酬が所得申告上事業所得として申告され、プロダクションも事業報酬である芸能人報酬として源泉徴収を行っていること等使用従属関係を疑わせる事情もあるが、報酬は労務提供期間を基準にして算定して支払われていること、プロダクションが技師の本件報酬を労災保険料の算定基礎としていること
個々の仕事についての諾否の自由が制約されていること
時間的・場所的拘束性が高いこと
労務提供の代替性がないこと
撮影機材はほとんどがプロダクションのものであること
❺東京高裁平成15年8月27日判決「NHK西東京営業センター事件」
NHKの受信料集金等受託者がその委託契約を解除されたことにつき、当該契約は労働契約であるから契約の解除は解雇であるとして上で、解雇権濫用や不当労働行為を主張し、労働者たる地位の確認及び賃金支払を求めた事例
労働者性を認めなかった。
契約の重要かつ本質的部分にわたって労働契約とはおよそ相容れない異質の諸事情が多々認められ、使用従属関係を認めることは困難であると言うべきであり、本件委託契約は委託と請負の性格を併せ持つ混合契約としての性格を有する

委託契約締結から業務遂行課程に受託者の自由な意思が及ばない部分があるという一側面のみを取り上げることによって、労働契約性を基礎づける使用従属関係があるものと速断することは相当とは言い難い、
本件委託契約においては使用従属関係を規律する根本規範ともいうべき就業規則の定めはなく、受託業務は契約により限定されている
業務遂行の具体的方法が受託者の自由裁量に委ねられている
兼業や再委託が自由である
労働時間、就業場所、就業方法等が定められている労働契約とはおよそ異質である
報酬が出来高払い方式であり受託業務の対価とみるのが相当である
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まとめ

以上、労働者性に関する裁判の事例をみましたが、労働者性の判断要素について理解を深めることはできましたか。
判例及び研究会提唱の「判断基準」の各要素を具体的な実情にあてはめ評価・判断することで結論を得るのですが、「総合的判断」にならざるを得ないことでしょう。
なお、
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