育児休業中の労働者が予定を早めて終了日前に復職し、さらに復職直後に、残っている年次有給休暇を全部消化してから退職したいと申し出てきた場合、事業主としてはあまりに勝手な要求でこれには応じなくてもよいだろうとの直感は抱くものの、きちんと法的な根拠を示しながら、自信をもって断りたいと考えるかと思います。
育児・介護休業法に抵触するとか法の趣旨に反するとして、個別紛争にまで発展することは避けたいですね。
育児休業終了予定日を1回に限り後ろ倒しには変更できる
育児休業中の労働者は、育児休業終了予定日の日より1か月前までに申し出ることによって、1回に限り育児休業終了予定日の後の日に変更できます。
【法7条3項】
もし、保育園に入園できないなどとして1歳までの休業予定だった労働者が、1歳6月やさらに2歳までの育児休業の取得をしている場合には、「1か月前まで」というのはそれぞれ「2週間前まで」になります。
しかし!育児休業終了予定日の前の日に変更できるとは規定されていません。
労働者の申出のみによる育児休業終了予定日の繰上げ変更については、法令で規定していないのです。
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復職した直後に年休は取得できるのか
育児休業中はそもそも労働義務を免除されている状態ですので、年休の取得をする余地はありません。
育児休業期間中は、労働者が使用者に年休の時季指定をする余地がないので、使用者としては労働者が年休を取得したいと希望してきても対応は無理だと断れます。
しかし、 仮に、育児休業の終了日を繰り上げ変更し復職したとすれば、復職日からは労働義務のある日が復活するわけですので、年休を取得することは通常の労働者と同じ扱いとなります。
つまり、復職した場合には、復職日からさっそく年休を取得できることになります。
育休中に復職後すぐにでも退職する旨申し出ても、その申出時点で育休終了扱いは無理
育児休業の終了事由は、予定されていた終了日で終了となるほかは、法令で規定されており、それ以外の事由で終了とはなりません。
したがって、復職後まもなく退職するということが復職時期が迫ってきた頃に知ったところで、一方的に育児休業の終了とはできないのです。
❶ 終了予定日の前日までに、子の死亡等子を養育しないこととなった事由が生じたとき
❷ 終了予定日の前日までに、子が1歳(1歳6月、2歳)に達したこと
❸ 終了予定日までに、産前産後休暇、介護休業、新たな育児休業が始まったこと
育児休業制度とは、労働者に育児休業の民事的権利を与える制度のことであり、労働契約関係が存続したまま労働者の労務提供義務が消滅し、一方で、使用者の賃金支払義務も消滅する制度です。また、育児休業は休業後、職場に復帰し、家庭と仕事の両立を図[…]
結論
1⃣ 育児休業中の労働者が年休を取得したいと申し出ても労働義務の免除された状況であるとして、会社は応じる必要はないこと。
2⃣ 育児休業の終了日を繰り上げたいと申し出があっても、会社はこれに応じる義務はないこと。
合意ができる状況にあれば可能となるに過ぎない、繰り上げ終了の制度を定める義務もないこと。
3⃣ 復職後まもなくの時期に退職する旨意思が表明されたとしても、それを理由にその時点で育児休業を終了させることはできないこと。
最後に、労働者の努力義務も法律にうたわれていることを制度利用の労働者にも周知させることは大切かなと思います。
子の養育又は家族の介護を行うための休業をする労働者は、その休業後における就業を円滑に行うことができるよう必要な努力をするようにしなければならない。
【法3条2項】