育児休業制度とは、労働者に育児休業の民事的権利を与える制度のことであり、労働契約関係が存続したまま労働者の労務提供義務が消滅し、一方で、使用者の賃金支払義務も消滅する制度です。
また、育児休業は休業後、職場に復帰し、家庭と仕事の両立を図りながら勤労生活を継続することを念頭においた制度です。
こうした育休制度を活用すべく、育休を申し出た者が実際に職場復帰の意思があるのかどうかあいまいな様子がある場合や、育休者から「復職するがしばらくしたら退職したい」と言ってきた場合などでは、会社としては制度の悪用ではないかと思ってしまうのではないでしょうか。
育児休業の申出を会社が拒否することができる場合がありますが、それは限定的です。
どんな場合に育児休業の取得を認めないことができるのか、どのような労働者について育児休業の取得対象としなくてもよいのか、育休制度をより理解するためまとめました。
2⃣ 労使協定で申出を拒否できる者を決められる
3⃣ 休業開始日を会社が指定できる場合がある
4⃣ 有期雇用者については要注意
❶ 日雇い労働者
❷ 週の所定労働日数が2日以下の者
❸ 雇用されてからまだ1年経過していない者
❹ 子が1歳6か月に達する日までに退職が確定している有期雇用者
❺ 育休申出の日から1年以内に退職が確定している者
❻ 一度育休を取得した者(特別事情ある場合を除く)
(ただし、2022年10月以降は法改正により2回取得可能)
育児休業の申出ができない労働者
育児休業は養育する子が原則1歳に満たないときに、労働者が事業主に申し出ることによって取得できます。
ただし! 次の労働者はそもそも申出自体ができません。
これに該当する労働者からの申出があったとしても、法律上は育児休業取得の対象者としないでもよいことになっています。
次の者については育児休業の取得権利はないとされています。
日雇い労働者は制度の対象外です。
❶事業主に引き続き雇用された期間が1年未満(2022年4月から削除)
❷養育する子が1歳6か月に達する日までに労働契約が満了することが明らか
休業は子一人につき原則一回です(2022年10月から2回に改正)。
が、特殊な事態として次の事情が生じた場合には、再度の育休取得が可能です。
❶保育所等への入所を希望しているが入所できない場合
❷新たな産前産後休業、育児・介護休業の開始により休業終了となったが休業の対象であった子や家族が亡くなったなどの場合
❸配偶者が亡くなったり、負傷、疾病、障害により子の養育が困難になった場合
❹離婚などで配偶者が子と同居しないこととなった場合
❺子が負傷、疾病、障害により2週間以上世話をする必要が生じた場合
同じように、子が1歳6か月でも保育所に入所希望したけどまたダメなときには、今度は2歳までの休業を申し出ることができるのですよね。
有期雇用契約の労働者については十分な注意が必要
子が1歳6か月に達する日までに労働契約が満了することが明らかな有期雇用労働者については休業の申出を拒否できるとされていますが、この「明らかな」については厳密に解されます。
有期雇用契約の更新がまだ確定していないが、更新もあり得るようなときは「労働契約が満了することが明らか」とは言えません
「労働契約が満了することが明らか」とは、たとえば育児休業の申出時点で、
1⃣ 雇用契約については更新しないことがあらかじめ明示されており、子が1歳6か月になる前に、その雇用契約期間の末日がきてしまうケース
2⃣ 契約更新はできることとなっているが、更新回数や延べ契約期間の上限が決められており、子が1歳6か月になる前にその更新回数や延べ契約期間の上限を迎えたとして雇用契約期間の末日がきてしまうケース
このように契約終了が確定している場合には、「満了が明らか」と言えますが、それが育児休業の申出時点で確定していなければ申出は可能であるということです。
雇用期間が決まっているから育休取得はあり得ないと考えるのは間違い
有期雇用の労働者については、ここが一番迷うところではないでしょうか。
形式的には雇用期間が定められているので、その期間を超える育児休業の取得を申し出ることはできない、と単純に思い込んではいけませんね。
これまでも契約を更新してきましたよね?ホントは今の契約期間が終われば特別のことがない限りまた同じ内容で有期の雇用契約を更新するつもりだったのでは?
つまり、はっきりと雇用期間満了が客観的に確定している状況でないかぎり、1年以上勤務していた有期雇用労働者にも育児休業を認め、雇用契約期間の末日まで休業をするときは、雇用契約の更新に伴い、その初日から引き続き休業開始をする場合は、再度の育休扱いとはせず、育児休業を継続することになります。
このように、一人の子に1回だけ休業を申し出ることができるのが原則のところ、有期雇用の場合には契約更新に伴いもう1回申し出る(引き続き休業する)ということが認められているのです(法5条7項)。
無期雇用と判断されたら
契約更新の可能性について期待させるような会社側からの言動があったとか、更新手続きが形式的なものであったなどの場合では、実態からみて期間の定めのない契約と実質的に異ならないものと評価・判断されることがあります。
そういう状況であれば、形式的には有期雇用契約であっても無期雇用として通常の労働者と同様に育児休業の制度を適用しなければならないでしょう。
会社が労働者を採用する際には、期間を決めないのを無期雇用といい、期間を決めた雇用を有期雇用と称します。無期雇用と言っても永遠に雇用するという意味ではなく、期間の定めがないので、契約終了をしたくなったら、一定の期間前に申出をすることで解約[…]
労使協定により育休申出を拒める者を決められる
労働者から育児休業の申出があったときは、事業主はこれを拒めません。
しかし、事業所の労働者の過半数で組織される労働組合(それがない場合は、労働者の過半数を代表する者を決めてもらってその代表者)と書面で労使協定を締結し、育児休業をすることができない者について定めることができます。
ただし、法令でその範囲は限定的なので注意が必要です。
労使協定で次のように育児休業をすることができないと定められた者からの申出は拒むことができるのです。
労使協定で育休を認めない者
次の者について、労使協定で育児休業の対象としないことができます。
◆雇用された期間が1年未満の労働者(法6条1項1号)
◆育児休業申出の日から1年以内に雇用関係が終了することが明らかな労働者(法6条1項2号、規則8条1号)
定年を迎えるとか、あらかじめ事業主に退職の申出をしているなど、申出の日から1年以内に雇用終了が決定している者からの申出は拒否できます。
◆1週間の所定労働日数が2日以下の者(法6条1項2号、規則8条2号)
ここまで、育児休業の申出ができない者と、申出があっても拒める者を整理しました。
育児休業の申出が認められない者のまとめ(再掲)
❶日雇い労働者
❷週の所定労働日数が2日以下の者
❸雇用されてからまだ1年経過していない者
❹子が1歳6か月に達する日までに退職が明らかに決まっている有期雇用者
❺育休申出の日から1年以内に退職が明らかに決まっている者
❻出生日から8週間経過以降に1回育休取得した者(特別事情の場合再度申出可)
(2022年10月からは2回取得可能)
このように、育休の申出に対して拒否できる者の範囲は法令で「限定列挙」されていますので、これ以外の理由では申出を拒めないということが重要です。
職場復帰の意思がある者にだけ育休を認める規定は有効か?
育児休業を取得する権利は、本来は休業終了後に復職することが前提となっているものと考えられます。
この法律の趣旨について、行政通達の雇児発1227第1号(平成28.12.27)においては、
●休業の趣旨が本人の雇用の継続のためであること、そのために事業主その他の関係者も本人の休業に配慮するものであること等にかんがみ、当該趣旨を没却させないよう、休業後の職場復帰に備えて心づもりをしておくべきであることを明らかにしたもの…この規定は訓示規定であること
と説明しています。
会社としては、育児休業を取得した労働者が休業終了直後に退職を考えている様子であれば、休業の申出があっても認めたくないと思うのは無理からぬところです。
しかし、法令では育休の申出ができない者については限定列挙されていますので、そういう者に該当しない労働者からの申出は拒めないこととされます。
就業規則(育児休業規程)で、「育児休業は復職し勤務継続の意思のある者に付与する」旨の規定があったとしても、法で保障された権利の履行として当然に休業を取得できるのです。
もっとも、労働者としては申出時点でどう考えていようとも、聞かれれば『復職をするし復帰後も継続勤務します』と答えることになるのではないでしょうか。
休業中に事情が変わり職場復帰が困難になったなどとして、休業終了後に退職することとなったとしても、休業開始の申出の時点では休業取得のできる者だったのですから、休業したことなどは違法・不当とは言えないのでしょうね。
つまり、
ということになります。
事業主は、経営困難、事業繁忙その他どのような理由があっても適法な労働者の育児休業申出を拒むことはできず、また、法6条3項及び7条2項で認められる場合を除き、育児休業の時期の変更をすることはできないものであること。
※ 6条3項=休業開始まで1か月を切った申出
※ 7条2項=休業開始変更申出があった際の日程調整
【平成29.3.31 雇児発0331第15号】
育児休業の開始日を会社が指定できる場合がある
育児休業の開始及び終了時期については、労働者の請求権の行使として労働者の選択に任せられていると解されています。
それでは、育休の開始日はいつでも労働者の考えどおりにする必要があるのでしょうか。
育休法においては育休申出から育休開始までは原則として「1月経過」が必要
例外としては
① 出産予定日前に出生
② 配偶者の死亡
③ 配偶者の負傷・疾病による養育困難
などの場合には、申出から1週間経過後に育休開始することを認めています【法6条3項】。
※ 1歳6か月まで又は2歳までの育児休業の申出にあっては、「1月」は「2週間」と読み替えます。
この1月経過期間のないような育休開始の申出をしたときは、事業主が育休開始予定日と申出日から1月経過する日までの間で指定できるのです。
「出産予定日前の出生」などの例外的な状況の場合は、育休開始予定日と育休申出から1週間経過する日までの間で指定できます。
法は、育休申出から育休開始予定日までの期間をこれよりも短い期間を認める制度を設けることを可能としています【平成元年12月27日 雇均発1227第2号通達 第2の9の(2)】。
例えば、会社の育休規程において、
と規定している場合には、法律の「1月」を会社では「3週間」と読み替え、3週間を切った申出があれば、育休開始予定日と申出から3週間経過日の間で、会社が指定できる旨規定(運用)することができると考えられます。
なお、労働者が育児休業期間の変更を希望していないにもかかわらず、会社から一方的に終了予定日を超えて休業することを強要した場合には、法第10条で禁止される「不利益な取扱い」行為を行ったとして、民事上無効と解されますので、要注意です。
法10条の規定により禁止される不利益な取扱いとなる行為には、例えば、次に掲げるものが該当すること
◎自宅待機を命ずること
事業主が、育児休業終了予定日を超えて休業すること(中略)を労働者に強要することは、「自宅待機」に該当すること。
療養しながら子の養育をすることは両立する可能性はあり、休職中であることは育休を拒む根拠にはなりませんね。
介護休業や新たな子の育児休業が開始されても同様に今取得中の育児休業は終了するのです。
【職発1228第4号・雇児発12128第2号(平成21.12.28)】
男性の育児休業取得促進を図る等のために、2021年6月の通常国会で育児介護休業法の改正が行われ、あらたに『出生時育児休業制度』が創設されました。産後8週間内に取得することから、厚労省は「産後パパ育休」と呼んでいるようです。2022年10[…]
まとめ
2022年4月1日から2022年10月、2023年4月にわけて、改正育児・介護休業法が施行されます。
その結果、育児休業は2回分割して取得できるようになりますが、育休の申出を拒否できる者については基本的に変わりません。
あくまでも「限定列挙」されている趣旨を踏まえて対応することに留意すべきでしょう。
なお、介護休業についてもその申出を拒否できる対象者は限定的ですので留意が必要です。
介護休業は対象家族を介護するために、労働者が事業主に申し出ることによって取得することができます。この休業は、育児休業同様、育児・介護休業法で付与された労働者の権利であり、事業主が独自の判断で拒否することはできず、適正な申出があれば取得で[…]