労働時間・休憩・休日に関する労働基準法の規制が及ばない管理監督者が、深夜勤務(22時から翌日の5時の間)に就いたときには、残業代は計算されませんが、深夜労働の割増賃金は支給対象となります。
では、その計算を行う際の時間単価はどう算出するのが正しいのでしょうか。
管理監督者でも所定労働時間を基礎に時間単価を計算
労働時間の規制が及ばないのが管理監督者ですが、時間単価を算出しないと深夜労働の割増賃金も算出できません。
時間単価はどう設定するのかについては古い行政通達があります。
法第41条に該当する労働者の深夜業に対する割増賃金の計算の基礎は如何
答
当該職種の労働者について定められた所定労働時間を基礎とする
【昭和22年12月15日付け基発502号】
就業規則には始業及び終業の時刻を定めることとされており(絶対的記載事項)、管理監督者についても就業規則について規定した労基法89条の適用は排除されていませんので、管理監督者の所定労働時間についても就業規則の規定によるものとされます。
ただし、管理監督者については、労働時間や時間外労働、休憩時間、休日労働の基準法の規制は及ばないため、就業規則上の労働時間・休憩等について厳格な適用を受けないということになります。
そこで、この所定労働時間をベースに時間単価計算ができるということなのです。
ただ、深夜労働の割増賃金を含め所定賃金が決まっているのが明らかなら、これを支払う必要がありません。
【昭和63年3月14日付け基発150号、平成11年3月31日付け基発168号】
管理監督者については、深夜労働が残業と重なっても残業代が支払われることはないものの、深夜労働の時間の長さに応じて1時間当たり25%以上の割増賃金が計算されます。
その金額以上の額を含んだ所定賃金であることが『明らかな場合』といえるときには、別途支給しないことができるということです。
要するに、管理職の深夜労働割増賃金についても、一般の残業代同様、「峻別性」(何時間分の割増金額か)と「清算性」(不足するときは加算する)が備わっていることが求められます。
ここで念のため注意しなければならないことは、実際に就労した深夜労働に見合った深夜労働割増賃金額も含めた所定賃金が、残業代や深夜割増賃金が支給される一般従業員と比べ差がないなど、待遇が管理監督者に見合ったものとなっていないというのであれば、そもそも管理監督者性がないと判断され得るということには注意です。
管理監督者に対する労働時間の管理は全く不要なのか
厚労省ガイドラインでは管理監督者に対しても健康確保の必要から使用者は労働時間管理を適正に行う責務があることを指摘しています。
【「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」平成29年1月20日厚労省策定】
管理監督者については、労働時間等の規制が及ばないからこそ長時間労働になりがちであり、そのため「健康確保を図る」観点から労働時間管理は適正に行う必要があるということが強調されています。
使用者は管理監督者についても安全配慮義務を免れるものではない
労働契約法第5条により、使用者は労働者の生命、身体及び健康を危険から保護すべき責務、つまり「安全配慮義務」を有することから、一般労働者に関する労働時間管理と全く同じ管理までは求められないとしても、管理監督者がどの時間帯で何時間程度勤務しているか、拘束される状態にあったかなど、出退勤時刻や入退室時刻の記録等で管理すべきものと考えられます。
ある大学では、労働時間に裁量のある研究者に「勤務計画申請、勤務状況報告、深夜勤務命令(兼申請)」書を提出させるなど、厳格な労働時間規制が及ばない者についても労働時間管理に努めている例がありますね。
管理監督者に対して深夜労働の制限を指示できるのか
管理監督者は経営者と一体的な立場から、効率的で生産性の高い業務遂行を期して会社が打ち出した種々の方針を実現する責務があると言えます。
そのため例えば、会社トップの強い意思として長時間労働には寛容でないことのアナウンスとともに、全社的に消灯時刻や最終施錠時刻などの規律目標を定め、事実上、深夜勤務を避ける方針が打ち出されるとなると、その実現のために管理監督者も率先して行動することが求められます。
そういった意味で、管理監督者に対しても会社は一定の勤務制限を指示することは合理的であり可能と考えます。
健康確保に関しては、職場の人間関係やハラスメントといった職場環境によるストレスの軽減が重要ですが、何よりも深夜労働を含む長時間労働が大きなストレスになりますので、勤務に当たってそれらのストレスを負わないようにすべきなのは管理監督者についても同様ですよね。
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