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早期退職優遇制度へ応募した者を会社都合で認めないのは適法か

会社が雇用調整や新陳代謝などの必要があり、定年を待たずに早期に退職する従業員を募る場合があります。その際、一定の応募者を確保するため、早期退職であっても定年扱いするなど何らかの優遇措置をとる早期退職優遇制度を設ける場合がありますが、仮に残ってもらいたい従業員から申出があっても会社は制度適用を拒否することができないのでしょうか。

早期退職優遇制度の適用者を会社が承認した者に限定することは可能

申請した従業員によっては制度の適用を認めないことが「信義則」に反するような特別な事情があるときには、会社が一方的に適用を拒否することはできないとされますが、一般的にそのような状況になるケースは稀と考えられます。

 

【東京地裁判決 平成14年4月9日】
早期退職という重要な意思決定を伴うものであるからすると、恣意的な運用が許容されるべきではないから、その適用を申請した者に制度の適用を認めないことが信義に反する特段の事情がある場合には、使用者は信義則上、承認を拒否することができないと解するのが相当である。

 

このソニー事件においては、早期退職優遇制度が適用されないケースを、

❶競争相手の企業に就職する場合
❷傷病など勤続不能により退職する場合
❸不都合な言動など本人の責めにより退職する場合
❹その他前各号に準ずる程度に適用が不適当と会社が認めた場合

と具体的に細かに規定していた経緯があります。

 

 こうした条件の下で、勤務記録を不正入力しながら二重就業していた者からの適用申請を拒否できるのか否かが問題となった事件であり、そのような者からの申請を拒否することが信義則に反するとはいえない、として上記のような判決内容となったものです。

 

参考記事

退職後に競業する同業他社へ転職したり、自分で競業する会社を起業することを禁止することのできる根拠は何でしょうか。競業避止義務を課すことができるとしても、その内容の範囲や制約期間、地域などはどの程度まで制限が許容されるのでしょうか。競業避[…]

 

一般には、制度の適用については、会社が承認することを前提とすることや、申請できる者についての条件設定も会社が設定できることが認められます。

 

【最高裁第一小法廷判決 平成19年1月18日】
選択定年制による退職申出に対し承認がされなかったとしても、特別の利益を付与されることこそないものの、選択定年制によらない退職は何ら妨げられていないので、退職の自由を制限されるものではない。したがって、会社が承認しなければ割増退職債権の発生を伴う退職の効果が生じる余地はない。

 

この事件では、使用者が申請があった者について承認しなかったのは、事業譲渡する前に退職者の増加により事業継続が困難になる事態を防ぐためであったというのであるから、その理由が不十分であるというべきものではない(最高裁)、と承認をしなかったことが信義則に反するものではない旨の評価をしています。

 

❶承認しないことで積極的に不利益を課すものではないこと
❷労働者が退職すること自体は制限されないこと
❸承認に関し特段の制限は設けられていないこと

 

このような場合には、退職の自由も制限されていないので、会社が承認しない限り効果が生じない、と判断されるのです。

 

早期退職優遇制度において承諾を要件とするのは公序良俗に反しない

 経営の抜本的見直しに迫られ、約2,000名の人員整理を計画し、早期退職を促進することとなった銀行において、早期転職支援制度への申出があった時点で承諾されたと言えるかが争点の一つになった裁判で、承諾制は公序良俗に反しないと判断された事例があります。

 

【大阪地裁判決 平成12年5月12日】
承諾を要件とした趣旨は退職により業務の円滑な遂行に支障が出るような人材流出を回避しようというものであって、それ自体は不合理な目的とは言えない。
不承諾の場合には、従前の退職金を受領して退職するか、雇用を継続するかの選択は可能であり、承諾前であれば申出を撤回可能であって、従前の雇用条件の維持は可能で、行員に著しい不利益を課すものとはいえない。したがって、承諾要件を課すことが公序良俗に反するものとはいえない。
 
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早期退職優遇制度についての労働協約締結前後で待遇に差が生じるのは問題ない

 解散した銀行従業員のうち、早期に退職した者とその後締結された労働協約発効後に退職した者との間で、退職金算定基準が1.5倍~4.5倍も違ったが、前者は新しい労働協約による利益は享受できないとされた裁判事例があります。

 

【和歌山地裁判決 平成13年3月6日】
将来締結されるべき労働協約から排除する意図のもとに、ことさら従業員らに早期退職を勧めたなどの特段の事情がない限り、労働協約締結後に退職した従業員間において、結果としてその処遇に差異が生じることはやむを得ず、これをもって、平等原則、信義則ないし公序良俗に反するとまでいうことはできない。
 

まとめ

早期退職優遇制度に関する裁判事例を踏まえると、概ね次のように整理することができます。

 

承認制は認められる

早期退職優遇制度において、必要人材の流出防止のため使用者による承認制を設けること自体は公序良俗に反しないと考えられています。

 

承認制が認められる前提

承認しない場合でも退職の自由が侵害されておらず退職を制約していないこと
承認が決定されるまでなら申出撤回も可能で雇用継続も選択できること
承認しなければならない特段の理由がなく法的に承認が義務となっていないこと

以上、早期退職優遇制度に関連する裁判事例などを紹介しましたが、制度を施行しようとする場合、従業員に周知を図る際には、募集は会社からの「申込み」ではなく、「誘引」に過ぎないことを念のため説明しておくのが適当と考えられます。

また、従業員が「応募」した場合、無条件で制度の適用があり、早期退職による効果が自動的に生じると誤解されないよう、会社は的確な周知と対応に留意する必要がありそうです。

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