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労働契約の終了

労働契約の終了事由ごとに留意すべき基本ルールを確認

労働契約の終了

一言で労働契約の終了、雇用契約の解消といっても、“ヤメカタ”には労使合意の上での終了から一方的な通知で不本意な終了もあります。それぞれの労働契約終了について抑えるべきポイントは何でしょう? 

 

1 解雇はその有効性が肝心
2 辞職や退職勧告のルールを知る
3 定年制にも規制ある
4 有期雇用の期間満了でも雇止めできない?
5 休職の期間満了での注意

 

解雇の場合には、そもそも解雇の有効性が問われる

夕日の海岸を歩く女性

解雇をする場合に、労基法により義務づけされている「解雇予告手当の支払い」について関心を寄せることになります。

が、そもそもその解雇自体が法的に有効かが最も重要な関心事項です。

解雇の有効無効についての基本的な考え方については下記の記事で整理しました。

 

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夕日の海岸を歩く女性

 

なお、「採用内定」を取り消すことが「解雇」に該当することもありますので、内定の打ち出し方とその取消しについても、労働法的観点から慎重に対応することが求められます。

 

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辞職退職は少なくとも2週間前までに申し出る

労働者から自己都合などにより退職を申し出ることに関しては、労基法では触れられていません。

民法627条1項によれば、雇用期間を定めない労働契約をしている場合だと、双方ともいつでも解約の申し入れができますが、雇用は解約の申し入れの日から2週間を経過することによって終了するとされています。

会社によっては、就業規則で従業員からの退職申出は1か月前までに行わなければならない、と規定しているところは少なくはないかと思います。

業務引き継ぎなどに万全を期すという意味で規定していると思われます。民法では2週間前で十分なのにこの規定は有効なのでしょうか。

 

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退職の申出が辞職の一方的通告なのか、合意解約の申込みなのかの違いもある

退職願が労働者の辞職をすることの一方的な通告としての意思表示ならば、2週間経過後に雇用が終了してしまうと考えられますが、不正行為等懲戒処分の対象となり調査中に辞職の申出が一方的にあった場合にそなえ、就業規則にはその間は調査に協力するものとする等の規定を設けておくことも一つの考えかなと思います。

が、不当に縛ると公序良俗に反するとか労基法の強制労働に該当しかねませんので、結局、強制力のない訓示規定にしかならざるを得ないと考えられます。

退職願が合意退職の申込みとしての意思表示ならば、会社の承諾があって雇用が終了すると考えられます。

そのような場合は、会社が承認した旨の文書を交付するなど会社の意思表示を明確にすることが肝要です。

そのような内部手続を円滑に進める上でも退職1か月前までに退職申出を文書で行うことを規定するのが社会通念上不当とまで評価されないものと考えられます。

もちろん、会社の承諾が即座に行える場合もあり、その場合は1か月前までの申出を求めている規定があったとしても、「合意解約」は成立し早々に退職に至ることもあることでしょう。

 

退職勧奨は不当なものでない限り実施して問題ない

辞職はあくまでも労働者からの意思表示があって退職することですが、会社から労働者に対して退職を促す退職勧奨は社会通念上相当な内容・方法で行えば違法にはなりません。

要するに、労働者が拘束されず自由に意思決定できる状況を確保することが必要です。

ですから、拒否しているのにそれでも数回にわたり長時間、執拗に迫るなど心理的圧迫を加えるなどした場合では、不法行為と評価されます。 

 

 
副主任
退職勧奨の回数、その態様、発言内容などから精神的自由を侵害し、受忍の限度を超えて名誉感情を傷つける、人格否定になるような発言等精神的苦痛を与える退職勧奨と評価されるようなものはダメ、ということですね。
 
  
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定年制にも規制がある

就業規則に定年年齢を定め、その年齢到達時に自動的に労働契約が終了するものとか、その時にあらためて使用者から解雇の意思表示を行うこととされている定年解雇制もあるようですが、高年齢者雇用確保法により60歳未満の定年の定めはできないこととされています。

 

60歳未満の定年制は禁止

定年を定める場合は、60歳以上としなければなりません。

規定に反する場合、民事的には無効であり、その年齢に達したことを理由に退職させることはできません。

その場合は定年の規定はないものとみなされます(そのときは、60歳定年と解釈すべきとする説もあります)。

 

65歳までの雇用確保措置

定年年齢を65歳未満としている事業主に、次のうちいずれかの措置を実施することが義務づけられています。

 

❶ 65歳まで定年年齢を引き上げ
❷ 希望者全員を対象とする65歳までの継続雇用制度を導入
❸ 定年制の廃止

 

高年齢者雇用確保法の改正(2021年4月1日施行)

これまで、65歳までの雇用は義務とされていますが、2021年4月からは、70歳まで雇用確保又は就業機会の確保をする努力をしましょう、ということになりました。

キーは「雇用」だけでなく、「就業の機会を創造する」ことでもよいとされたことです。

 

65歳から70歳までの雇用確保の努力義務

65歳以上70歳未満の定年の定めをしている事業主は次のいずれかの措置を講ずることで70歳までの雇用確保の努力をする義務があるとされました。

 

❶ 定年引上げ
❷ 継続雇用制度導入(他の事業主が引き続いて雇用する契約締結制度も可)
❸ 定年廃止

 

雇用確保の努力義務に替わる「創業支援等措置」

次のような「創業支援等措置」を労働者代表の同意を得て導入した場合には、雇用確保の努力義務の履行は不要とされます。

❶ 定年後の高齢者が新たに事業開始する場合に委託契約を締結
❷ 定年後の高齢者が事業者と委託契約を締結し不特定多数の利益増進に寄与することを目的とする業務に従事(事業主から資金提供等援助を受ける団体の事業等)
 
主任
つまり、雇用だけでなく、他企業への再就職制度の導入やフリーランス・起業支援、社会貢献活動への従事も選択肢としていることが特徴なんですね。
 
70歳までの定年延長や就労機会の確保についての「努力義務」の内容は下の記事をご覧ください。

 

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2021年4月1日からは、高年齢者雇用安定法の改正により、60歳まで雇用していた従業員について、65歳までの雇用確保措置に加え、65歳から70歳までの就業機会を確保する努力義務が追加されました。定年引上げなどによる「雇用確保」ばかりでな[…]

 

有期雇用の契約期間が満了になったことによる労働契約の終了

有期の雇用契約は期間満了によって労働契約が自動終了するのが建前です。

そのための有期期間の契約と考えられます。ただ実際には、とりあえず有期としておき、期間満了時点で働きぶりや業務の進捗状況などを踏まえて再び契約して引き続き就労してもらう、とする事業場は少なくないのではないでしょうか。

 

有期労働契約の更新をしないときは十分な注意が必要

契約期間の終了日が到来すれば当然に労働契約は解消されるので、あらかじめ契約更新はしない旨明示しそのとおり雇用関係を解消するのなら問題は生じないでしょうが、更新を重ねるといつ本当に労働契約が終了するのかを予見できなくなりかねません。

労働者から見れば再度更新してもらえるはずといった期待権が生じることもあります。

 

有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準がある

有期労働契約に関する紛争を防ぐために、告示で次のような基準が示されています。

 

1⃣ 有期の労働契約を3回以上更新したり、継続勤務が1年を超える有期労働者について契約を更新しない場合には、少なくとも30日以上前までに更新しないという予告をすること
(あらかじめ契約更新はしない旨明示しているときはその必要はない)

2⃣ 労働者から更新しない理由について証明書を請求されたら使用者は遅滞なく交付する必要があること

【平成15年10月22日厚生労働省告示第357号】

 

使用者が更新を承諾したものとみなされることもある!

契約の更新をしない「雇止め」の際に、有期雇用の労働者が契約更新を申し込んだ場合には、それまでと同じ労働条件で申し込みをしたことに対して使用者が承諾したものとみなされることがあります。

 

❶ 反復更新され、雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できる場合
❷ 期間満了時に、契約更新されると期待することに合理的な理由があると認認められる場合

 

こうした場合には、『使用者が契約更新を拒絶することが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないときは、更新の申込みを承諾したとみなす』(労働契約法19条)とされます。

 

 
副主任
期間の定めのない労働者と同視できる、あるいは、労働者が契約の更新を期待することがやむを得ないという状況に至っていれば、『解雇権濫用法理が類推適用される』といって、期間の定めのない労働者を解雇する場合と同様に、使用者には権利の濫用に当たらないようにすることが求められます。これを一言でいうと『雇止め制限法理』といわれます。
 
判例では、

雇用継続を期待させる使用者の言動があった、とか更新手続きが形式的であった、などにより実質無期契約タイプとなっていたとして雇止めが否定された例(最高裁昭和49年7月22日 東芝柳町工場事件)

 

業務内容が恒常的で更新回数も多いなどで継続雇用の期待があるタイプとして雇止め制限法理が適用されるとされた例(最高裁昭和61年12月4日 日立メディコ事件)

一方で、

更新手続きが厳格に行われ、業務内容が臨時的で21年間で20回更新されても、更新の期待に合理性がないとして雇止めの効力が認められた例(東京地裁昭和63年11月25日 亜細亜大学事件)

があり、労働契約法ではこうした判例で定着した「雇止め制限法理」の考えを規定したのでした。

休職期間の満了による労働契約の終了

私傷病による欠勤が続いたあとに一定期間の休職を認める制度を設けている企業は少なくはないと思います。

その休職期間の満了までに復職できない場合は退職する旨就業規則に規定しているのではないでしょうか。

こういった、休職期間満了による退職では改めて解雇の手続きは不要で当然に労働契約の解消ができるのでしょうか。

 

休職制度は労働不能などの状況だが雇用は維持したまま解雇を留保するようなもの

労働に就かせることが困難である以上、これが解消されない場合には

(軽易な他の業務に就かせる余地がある場合には、それを検討せずに労働契約を解消するのは解雇権濫用の問題が生じ得るので十分慎重な対応が求められますが)

労働契約の解消に至るのは致し方ないとしても、休職期間はそれまでの猶予期間であるとも解されます。

したがって、一定期間の休職が継続しても復職できない場合には就業規則の規定に沿って自動退職する旨の対応は一定合理性があるといえます(病気休職の場合などは治癒したか、業務に耐えられるほどの回復したか、などが問題になることがありますが)。

 

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30日以上の長期の休職期間の場合には退職の予告までしなくてもよい場合がある?

1~2週間等の短期間の休職の場合では、その期間満了が自動的に退職となるというのは合理性があるとは考えられません。業務に耐えられないことを理由にその場合は、あらためて解雇の手続きが必要と言えるでしょう。

これが30日以上の長期間の場合であれば解雇の予告期間としても十分ですし、当該休職制度については復職できない場合は退職する旨の制度であることを明示しているのであれば、休職開始そのものがその予告と同趣旨になるでしょうから、この場合は自然退職することとし、その趣旨が徹底しているならあらためて解雇予告が必要とは言えないでしょう。

いずれにしても、就業規則で明確化しておくべき事項ですね。

 

まとめ

労働契約の終了はその経緯を踏まえつつ、手続きのほか、法令により義務付けられた制約や民事的効果など確認すべき事項は少なくありません。

採用時の対応の数倍の気をつかって適法、的確な対応が求められますので、一つひとつの事案には丁寧に段階を踏みながら進めることに心掛ける必要がありますね。

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