本社から自社の営業店へ会議のために出張したり、取引先を訪問し商談などを済ませた後、次のほかの取引先に向かったり、その後、出張先から会社に戻る、または自宅に直帰する、といった事業場外の業務に伴う移動時間のうち、労働時間として取り扱うべきものと、そうではない時間の区分についてはどう考えるのでしょうか。
2⃣ テレワークガイドラインにも示されている
移動中に自由利用が保障されているか否かの観点などから、移動時間も使用者の指揮監督下にあると認められるのなら労働時間になり得る
そもそも労働時間とは、『使用者の指揮命令下にあり、労務から完全に解放された時間(休憩時間)を除いた時間』をいいます。
その観点で、移動時間についても評価することで結論が導かれます。
取引先等へ出張する際の往復の移動時間は労働時間か
出張などの際に会社と出張先との往復に要する時間が労働時間に該当するか否かについては、
❶ 通勤時間と同じ性質のものであって労働時間ではない
❷ 移動は出張に必然的に伴うから使用者の拘束の下にある時間とみて労働時間である
❸ 使用者の拘束のもとにあるが特に具体的な業務に従事することを命じられていなければ労働時間とはいえない
など説が分かれますが、行政の解釈例規によれば、特に移動時間中に具体的な業務を命じられておらず、労働者が自由に活動できる状態にあれば、移動時間は労働時間とはならないと解されます。
ただし、移動、出張の目的が物品の運搬自体であるとか、運搬中の物品の監視などについて指示がなされているといった場合には、移動においても使用者の指揮監督下で労働していると認められるので、その場合は移動時間も労働時間といえます。
取引先から次の取引先への移動時間は労働時間か
訪問介護の業務に従事する労働者について、利用者宅から次の利用者宅へ向かう移動時間は労働時間に該当することがあるとする行政通達があります。
つまり、訪問介護の業務に従事するため、事業場から利用者宅への移動に要した時間、一つの利用者宅から次の利用者宅への移動時間であって、その時間が通常の移動に要する時間程度である場合には労働時間に相当するものと考えられる、としています。
この場合、事業場から最初の利用者宅へ向かう移動から次の利用者宅への移動、最後の訪問介護業務を終えた利用者宅から事業場への戻り時間、すべての移動時間が通常の移動に要する時間程度である場合、つまり労働者に自由な活動を保障するような時間(休憩時間など)が一切ないのであれば、全部、使用者の指揮監督の下にある時間として労働時間に相当すると判断されるのです。
つまり、業務として移動する(休憩時間と同様な扱いのできない)時間帯は労働時間として取り扱うことになります。
訪問先の取引先から自宅に直帰するための移動時間は労働時間か
取引先での業務を終え、特に何も業務指示を受けずに自宅へそのまま帰宅できる場合であれば、移動時間中は労働者の自由な活動が保障されていることから、この時間は労働時間にはならないでしょう。
通勤時間と同じ性質といえます。
在宅勤務者が勤務場所を変えるために移動する時間について、労働時間に該当するかどうかの判断目安についてガイドラインがある
厚労省は、「『情報通信技術を利用した事業場外勤務(テレワーク)』の適切な導入及び実施のためのガイドライン」を平成30年2月22日に策定し、労働時間に関しても次のような説明をしています。
事業場外で労働した場合であって労働時間を算定し難いときは、その日は所定労働時間労働したとみなし、事業場外での業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて行うことが必要となる場合は、その事業場外労働については通常必要となる時間労働したとみな[…]
テレワーク勤務からの移動について労働時間性をどう考えるか
ガイドラインなどを踏まえれば、在宅勤務(テレワーク)に関連して移動する際の労働時間性については、次のように整理できると考えられます。
在宅勤務➡移動して会社に出勤するケース
◆移動時間が労働時間とは判断されないもの
❶ 単に労働者の都合で就労場所を移動し、移動中の自由利用が保障されている場合は休憩時間として取り扱うことが考えられる。
❷ 特段の会社からの指示がなく、通常の出勤と同一性質と考えられるときは通勤時間として取り扱うことが考えられる。
◆移動時間が労働時間と判断されるもの
❶ 移動時間に情報通信機器を用いて業務を行うことを明示又は黙示の指揮命令下で行われるもの
❷ 会社が就労場所の移動を命じており、その間の自由利用が保障されていない場合
在宅勤務➡移動して取引先に向かうケース
◆移動時間が労働時間とは判断されないもの
❶ 出張として取引先に向かう移動は、その間に特に具体的な業務を命じておらず、労働者が自由に活動することが保障されている状態であること
❷ 社有車を運転しての出張であっても、単に交通機関として営業車を使用して運転する場合は、たとえ車両運転による心身疲労があってもそのことだけをもって労働時間としては取り扱うことにはならない
◆移動時間が労働時間と判断されるもの
❶ 取引先に納品等するために車両に積み込んで運転する等別段の指示命令がある場合
❷ 取引先への移動を命じ、移動時間の自由利用が保障されないような場合
まとめ
「出張」においては一般的に移動時間も含め全体が使用者の『支配下』におかれており、その間に事故などにより負傷・疾病・死亡した場合は、業務上の災害として取り扱われます。
このことと、出張中の移動等の時間が「労働時間」に当たるか否かは区別して整理する必要があります。
労働時間は使用者の「指揮監督下・指揮命令下」にある時間のことであって、包括的な「支配下」とは違うからです。