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新型コロナ禍でテレワーク勤務を認めない企業は安全配慮義務違反か

新型コロナウイルス感染症防止のため、密閉・密集・密接を避けるほか、不要不急の外出自粛などが求められますが、職場内の密を避けるためにも出勤を自粛し、代わって在宅勤務、サテライトワーク、モバイルワークといったテレワークを行う動きが広がりました。

テレワークの実施には、情報機器の用意や情報セキュリティーの確保などの環境整備も求められるケースは少なくありません。

労働者が感染リスクを避けるためテレワークを希望したときに、使用者は労働者がテレワークできるような就業環境の整備を図り希望に沿った就労を行わせる責務があるのでしょうか。

 

厚労省の「テレワークモデル就業規則」では対象者の範囲が限定されるケースも想定されている

 

厚労省が2021年1月現在で示している「テレワークモデル就業規則~作成の手引き~」では、テレワークの対象者となる労働者の範囲を

 

 希望者全員とする

 勤続年数に制限を設ける

 育児・介護、傷病者に限定する
 

の3例を示しており、共通して「本人の希望」と「執務環境、セキュリティ環境、家族の理解のいずれも適正なもの」を要件にしています。

 

(参考)厚労省作成モデルテレワーク就業規則

 

 

モデルテレワーク就業規則における対象者の範囲から見えることは

 

 ❶希望しない者にまで会社から一方的にテレワークを命ずることはない

 ❷テレワーク実施に当たりセキュリティなど個々人について就労環境が確保されているのが必須条件

 

といった意味合いが読み取れます。

 

労働者の意に反して無理やりテレワークを選択させることはないこと、情報セキュリティ等の面で支障きたすような環境ならテレワーク対象者とはなりませんという規定例だということです。

 

いずれにしても、対象者の範囲を特定の条件を満たすものに絞るという考えは一般的な考えでもあろう、というのが行政の認識でもあるということでしょう。

 

ここでは、労働者の「テレワーク選択権」といった類のことには一切触れていません

 

厚労省の検討会報告書にもテレワーク選択権までは含まれてはいない

 

2020年12月25日に、厚労省は「これからのテレワークでの働き方に関する検討会報告書」を公表しました。

有識者が2020年8月以降、テレワークでの働き方に関する課題や今後の対応方針などについて議論してきたことをまとめたものです。

 

厚労省報告書

テレワーク導入・実施で企業が感じた効果

① 従業員の通勤負担の軽減
② 自然災害・感染症流行時等における事業継続性の確保
③ 家庭生活を両立させる従業員への対応・離職防止

などの割合が高かったとしています。

テレワークは事業継続の上でも効果的であることの認識も広がったようです。

 

今後の対応について

テレワークは育児や介護等に対応しながら働く労働者だけでなく、誰もが選択でき、皆が生産性を高めて働くことができる新しい働き方として、その推進を図ることが適当、との基本的な認識を示しています。

テレワークを選択することは労働者の権利であるとまでは言及していません。

 

テレワーク対象者の選定について

正規雇用労働者、非正規雇用労働者といった雇用形態の違いのみを理由としてテレワーク対象者を分けることのないよう留意する必要がある、とも指摘しています。

 

内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(2020年6月)

正規雇用労働者は  42.2% 
非正規雇用労働者は 18.0%

がテレワークを経験した
   

短時間・有期契約の雇用であることを理由に通常の労働者と労働条件の不合理な相違があってはならない旨のパート・有期雇用労働法の規定の趣旨をあらためて示しています。

 

テレワークの実施に当たっては、不合理な相違を意識したものではなく、パート等が担う業務内容がテレワークに相応しいものでない、

逆に言えば、そういう業務にパート等を配置しているので、テレワークの実施に踏み切ったときに、パート等が取り残された格好になった、というのが実態かもしれません。

 

パート等が会社内に設置された専用機器を使用して定型的なデータ入力業務などテレワークでは困難な業務に就いている
取引先とのやり取りを行う担当者に優先的にテレワーク端末を貸与したので、そのような業務を担当しないパート等には端末貸与が行き届かない

などテレワーク対象者の選定の際に、パート等が含まれないのは、業務内容の違いに一定の理由があるような場合が多く、

必ずしも「同一労働同一賃金」法制に抵触するような事案ばかりではないのではないでしょうか。

 

もっとも、厚労省検討会報告書には、テレワークが無理だと思っていた業務でもやってみるとテレワークでこなせたとか、社内の業務の切り出しや見直しなどでテレワークできるような業務もあるなどが指摘されています。
こうした会社の工夫・努力は求められるのでしょう。
   

国際的に見ると欧州でテレワーク権は議論になりつつある?

 

独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の

国別労働トピック(2020年12月)によると、ドイツ、フランスでは、2020年の新型コロナ禍を背景に、テレワークを認める権利に関連して国レベルの議論があったようです。

 

ドイツ

『労働社会大臣(社会民主党)が2020年10月に、「希望する従業員に対して、1年間に少なくとも24日の在宅勤務を認める制度の導入」を雇用主に求める構想案を発表した。

法案には、勤務時間を電子的に記録することを義務付けることも盛り込む予定。

連立相手のメルケル首相所属のキリスト教民主同盟は、あえて法制化するのではなく、社会的パートナー(労使)の協議や合意に任せるべきだという意見が根強く、法制化は依然として不透明な状況である。』

 

このようにドイツでは政府与党が一致した考えではないので、法制化までは無理ではないかとの観測記事です。

 

フランス

『2020年10月30日2度目のロックダウンが実施され、労働大臣はテレワークがもはや選択肢ではなく、国家の方針の中に不可欠として組み込まれていると説明。

労働組合は、テレワークは相応しいと判断された業務で実施されるべきであり、否応なしにテレワークに従事したケースと明確に区別すべきと主張。

テレワークに従事する労働者の孤立や上司による過度の管理監督といった問題に対応する規制も必要だと指摘。産業横断的な全国協約締結を要求。

経営側は、テレワーカ―には個々に多様な状況や背景があるため、柔軟に対応できる環境が必要だという考え。』

 

結果
2020年12月23日までにフランス民主労働総同盟、労働総同盟労働者の力、管理職総同盟、フランスキリスト教労働者同盟の各労組が新しい協約成立の手続を行った。

テレワークの実施は原則として労使双方の合意に基づくことを改めて確認。

テレワークを実施する業務の適格基準や労働条件については雇用主が一方的に決めるのではなく、従業員代表などを通じた労使対話を経て決定することが明記された。
  

以上のように、ドイツ、フランスともにテレワーク権に関連する新たな動きは政府側から発しているような様子ですが、

ドイツは連立政権内で意見の不一致がある、

フランスは新たな全国協約の締結がされたものの、テレワークの実施条件などは労使合意に基づきながら進める旨のようですので、テレワーク選択権の確立のような状況には至っていない状況のようです。

 

ドイツ、フランスでも明確な労働者のテレワーク権の確立という状況には至っていない?

 

まとめ

コロナ禍のような異状時には企業の安全配慮義務の履行としてテレワークをさせることが求められるのでしょうか。

2007年に制定された労働契約法には、労働契約に伴い使用者は労働者が安全を確保して労働できるよう配慮をするものとする、と規定されています。

 

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

テレワークはその労働態様で実施できる条件がそろっているときに可能なもので、

個々人の担当する業務内容や就労環境、企業の実情等と無関係にテレワークのみが使用者の安全配慮義務の履行として認められる方策とは考えられません。

コロナ禍の下、在宅勤務が可能な業務に就いている者をテレワークに就かせることで、

職場の中の人員を減らした上、社員机上に衝立設置や席の切り離し、時差出勤による混雑時間帯の通勤回避など具体的な対応を行う企業において、すぐにはテレワークが可能とはならない従業員については出勤してもらうことが「使用者の安全配慮義務違反」と判断されるものなのでしょうか?

  

使用者が労働契約とともに負う安全配慮義務の具体的な内容は、要件などは法律で明記されていませんが、

具体的な労働環境や勤務内容などに応じて具体的なリスクが確定しなければ、それに対する使用者に求められる安全配慮義務の具体的な内容も確定せず、

それゆえその履行を請求できるほどの権利と言えるほどのものにまでにはならないのではないかと考えられます。

 

安全配慮義務の内容は、時代とともに変化するとも考えられます。

技術の革新や企業の対応状況の進展などとともに、求められる内容・水準は変化していくことと考えられます。

が、現在のわが日本国では労働者のテレワーク選択権の成立はまだまだ機が熟しておらず、そのような労働者の権利の主張には無理がある考えるのが一般的な相場観ではないでしょうか。

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