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握手する二人

個別労働紛争を解決するには非裁判制度(ADR)を活用するにかぎる

握手する二人

労働者と会社との間の個別(集団的な労使紛争ではない、ということ)の労働関係紛争を最終的に解決する場は司法(裁判所の法廷)なのでしょうが、そこにたどり着く前に、もっと簡便で迅速、負担の軽い解決システムがあります。裁判とは違うので、裁判外紛争解決手続(ADR)と呼ばれ、有料又は無料の各種のADR業務が認証されていますので、その一部をご紹介します。

まずは、労働局の紛争調整委員会によるあっせん

個別紛争の解決に活用しやすいのが、都道府県労働局に設置されている紛争調整委員会による、あっせん制度です。

費用、期間、準備内容の面からは比較的簡易な紛争解決機関だと言え、労使双方の負担は重くないものです(気持ちは重いかもしれませんが)。

職場で労務管理上の問題が発生し、労使が話し合っても埒が明かない場合、相談をする先はいろいろあることでしょうが、労働局の総合労働相談窓口に相談に行かれると、紛争調整委員会によるあっせん制度のことを教示されることがあります。

紛争調整委員会の委員による「あっせん」により、何らかの解決条件をさぐる場が設けられ、労使がお互い譲渡することで解決に合意する、というものです。

この紛争調整委員会のあっせんは費用は無料であり、ほとんどの事案では1日(半日?)で決着がつきますので、活用のしやすさから、全国で年間概ね5,000件程度の申請がある状況です。 

都道府県労働局の紛争調整員会によるあっせんについてはこの記事。  

 

詳細記事

労働条件について会社と従業員との間で問題が生じ、これがこじれて決着の方法が見えなくなった場合に、従業員が労働局に相談しあっせんを依頼することがあります。労働局から突然通知が来てあわてるケースもあるでしょうが、むしろ問題解決の機会が到[…]

折り合って握手

 

 

都道府県の労働委員会もある

県庁に設置されている労働委員会、労政主管部局でも労働局(厚生労働省の地方機関)同様、あっせんなどの機能を発揮しています。

かつては、労働委員会と言えば労働組合VS会社といった集団的労働争議への対応に限定されている印象でしたが、かつての労働争議より個別労使紛争事案が多くなり、労働委員会でもこうした時代背景のもと紛争解決の支援を実施しているのです。

毎年、厚労省の中央労働委員会と地方の労働委員会が共催で個別労働紛争のあっせん等の実例を紹介し、大学教授がそれを解説するようなセミナーが開催されていますが、僕は過去何度もそれに出席して拝聴させていただきました。

そこで感じたのは、労働委員会での解決手法はどうやら、労働側委員は労働者に対し、経営側委員は会社に対し、役割分担するかのようにそれぞれの主張などを傾聴しながら解決への説得を試みている様子が伺われます。

こうした紛争の解決手法については、労使双方の代表的な方々が委員となっている労働委員会ならではの特徴的な対応なのかなとの印象です。 

 

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裁判所の労働審判

行政におけるADRの整備のほか、裁判によらない個別労働関係の民事紛争を対象とした裁判所での解決制度が労働審判です。

裁判所ですので、厳粛な雰囲気の中で、しかも労働審判の委員には裁判官が入りますので、労使双方とも代理人の弁護士をたて(中には代理人をたてない方もおりますが)、申立書もそれに対する反論主張の答弁書も民事訴訟の手続きにならって証拠書類を添付して審判に臨みます。

申立には手数料がかかりますし、双方とも弁護士費用を支払わなければならないことなどから、費用が一定かかる制度です。

 

労働審判についてもう少し詳しく

労働審判における労働審判委員会は、裁判官である審判官と、労働側・経営側のそれぞれの関係団体からの推薦手続きを経て最高裁から任命された審判員各一人の計三人からなります。

県の労働委員会では労働側は労働者に対し、経営側は会社に対し働きかけや説得を行うということが事実上あるようですが、労働審判員はあくまでも「労働関係に関する専門的な知識経験を有する者」として推薦されてきたものであり、推薦母体による役割分担など一切なく、各人が思った通りの質問等をして審判を進めます。

ちなみに、労働審判時には真ん中には審判官(裁判官ですね)が座り、その左右に労働審判員が座っていますが、裁判所によって審判官の左右どちら側に労働・経営側どちらの推薦で任命されている人が座るのかが違うようです。

ルールはありませんが、慣例的なようなもののようです。

僕も経営側推薦により任命されましたが、常に当該紛争の争点を明らかにし、その解決の方法としては何があるのか、を検討しながら必要な質問等を双方に投げかけながら整理したものです。

労働審判は原則3回以内の期日で審理し解決する制度で、現実にはほぼ2回以内で終了しております。

事前に申立書とそれに対する相手方の答弁書を労働審判官も審判員も読みこなして出席しますが、審判手続開始前に行われる打ち合わせ協議の中で心証はある程度形成されるものの、まだまだ確認したい点などがありますので、審判手続の中で申立人と相手方双方に質疑を行い、途中で審判委員会だけで評価、心証を固め解決への方向性を検討していきます。

審判手続の進め方には裁判官の個性が大きく影響し、かなり細部にわたって主張を傾聴しながら解決にもっていこうと尽力するケースもあれば、いきなり最初から和解の意思の有無をずばり双方に確認し結論を早く明確化しようとするケースもあり、事件の特性が区々の中、進め方も事件によりけりといったところです。

僕の経験上、労働側推薦の審判員と経営側推薦の審判員が意見の相違により混乱するなどはまるでなく、事件の見立てはほぼ一致し、きわめて冷静に客観的に判断できているとの印象です。

 

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解決金の金額水準は労働局の紛争調整委員会のそれより高めの傾向

不当解雇の訴えのように会社にまだ籍があること(地位の確認)を求めても、やはり多くは解決金支払と抱き合わせに退職するといった解決の方法が少なくありません。

労働局の紛争調整委員会のあっせんと比べ、弁護士費用など費用がかかっていることもありますし、労働審判の決着内容が不服ならば裁判に自動的に移行する制度ですので、解決のための解決金の金額は他のADRでのそれよりも高くなるものと思います。

一日目の審判手続で審判委員会の心証を示したところ、会社側は諦めて、その場で数百万円支払うことで解決したいとした事件もあり、相場観はかなり高めになっているのではないかと感じます。

もっとも、訴訟に行けばもっと多くのバックペイ支払を命じられる可能性もあるとか種々の訴訟リスクを考慮すれば、ここで解決しておいた方が得策と考えるのが一般的かなと思いますが。

 

紛争長委員会と労働審判(厚労省HP抜粋)

 あとがき

握手する二人

その他、職場における労働関係の紛争解決のためのあっせんは、弁護士会よる法テラスや各県の社会保険労務士会、労働組合なども行っており、期間も手法も費用もいろいろですので、どのADRを利用するかはその機関に相談して選択することになります。

「労働組合 対 会社」という昭和の対決構図の中では、個別の労使紛争という構図がなかなか顕在化せず、労使の対立は組合を通じて解決するというのが半ば常識とみる時代がありました。

でも、職場で発生する問題が「いじめやいやがらせ」といった集団的労使関係の枠外になりがちな個別問題が主流になってくると、組合の組織率低下もあいまって、関係する労働者は一人で第三者などに支援を求める社会情勢になってきました。

今後とも、ADRは労働問題の解決の有力なシステムの一つに位置付けられていくものと思われます。

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